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2022/01/26 18:45
米国株価の不安定な動きが続いている。1月24日に一時1115ドルの下落となった後、プラス99.13ドルで終了したNYダウ平均は、25日にも818ドル安まで下落した後で226ドル高まで上昇し、66.77ドル安で終わるという乱高下だった。中でも、ハイテク成長株の比率が高いNASDAQ総合指数の下落は目立って大きい。25日の下落率は2.28%で、NYダウのマイナス0.19%、S&P500のマイナス1.22%を上回った。20年、21年の世界の株式市場をけん引したといえる米国成長株の行方はどうなるのだろうか? 26日にオンラインでメディア向けに見通しを語った三菱UFJ国際投信の株式運用部海外株式グループチーフファンドマネジャーの安井陽一郎氏は「米国は先進国で唯一景気サイクルが残っている市場で、金融政策の変更は市場の転換点になる。ただ、足下の厳しさではなく、少し引いて考えると、アメリカ株は大丈夫だという考えを強くする」と語っていた。 米国株式の雲行きが怪しくなってきたのは昨年の12月からのことだ。特に、今年1月5日に米国12月14−15日に行われたFOMC(金融政策決定会合)の議事録が公開されてから、その内容によって下げ足を速めることになった。議事録では、量的金融緩和(QE)の終了時期を従来予定の6月よりも前倒しで行うことに加え、利上げの前倒し、さらには、量的引き締め(QT)についてまで議論されたことが明らかになった。長年米国の金融政策についてウオッチしてきた安井氏は、「急速な金融引き締めに対する唐突感、金融政策が後手に回っていることに対する焦りが感じられ、FOMCメンバーがパニックに陥っているような印象さえ受けた」という。この米国当局者の混乱が市場に伝わったことこそが、米国の投資家にポートフォリオ変更を迫り、「ハイテク株売り、素材・金融株買い」の流れを作った。NYダウなどよりもNASDAQの下げがきつい理由だ。 米FRBは、21年11月まではインフレは「一時的」といい、金融正常化に向けた動きについても「22年に1回の利上げ」という緩やかなスタンスだった。ところが、12月にはインフレに対する警戒感を格段に強め、22年の利上げ回数も「3回〜4回」という考えに変わった。安井氏が「パニック」と表現したほど、急激な政策スタンスの変更だ。 政策金利の引き上げによって市場金利が上昇すれば、成長株の株高の根拠である「(将来の予想される収益を市場金利で割り引いた)現在価値」の水準が引き下がることになる。計上できる利益の水準が低い、あるいは、マイナスの状態にある新興企業など、これからの成長を手掛かりに株価が上昇していた企業群には、「利上げ」は真っ向からの逆風だ。伝統的な大型企業で構成するNYダウよりも新興企業が多いNASDAQの下落率が大きくなり、NASDAQの中でも「ハイパーグロース(超成長)」といわれる新興企業の株価の下落率が大きくなった。 この米国株式市場の変調は、安井氏が主担当を務める米国株ファンド「米国IPOニューステージ・ファンド<為替ヘッジなし>(資産成長型)」のパフォーマンスにも多大な影響を与えている。同ファンドは、株式の新規上場から5年目までの新興企業を主たる投資対象としたファンドだ。投資機会を投資先企業の成長にフォーカスしているが、投資対象は時価総額30億ドル以上という中型株に限定し、いわゆる高い成長性のみに着目した「ハイパーグロース戦略」とは一線を画している。2019年11月の設定だが、20年3月のコロナショックでの40%を超える下落を克服し、21年11月には設定時の100が264になる高値を付けた。22年1月25日は171と、ピークからの下落率は35.23%になっている。直近の高値からの下落率は「S&P500(配当込み、円ベース)」が10.05%にとどまることと比較して非常に大きな下げだ。 安井氏は、目線を少し将来において考えることを提案し、「米FRBメンバーが考えている目標は、2024年時点で政策金利であるFFレートが2.25%、インフレ率の目安であるPCデフレーターが2.1%、そして、経済成長率は2.0%だ。この水準が実現されるのであれば、いわゆる『適温相場(ゴルディロックス)』が再現され、株価は上がることになる」という考えを示した。実際に、米国の企業業績は、2022年に8%前後から15%程度の成長が見込まれている。過去の利上げ局面で株式市場のPER(株価収益率)がほぼ横ばいで推移したことを重ねれば、「業績の伸び率に等しい分だけ株価も上がることになる。年率10%前後の株価上昇は、過去2年と比べると弱いが、歴史的な米国株価の上昇率とほぼ等しい」として、FRBの姿勢の急変に動揺して大幅にポジションを変更した投資家も、冷静に現状を評価すれば、決して悪い市場環境ではないことに気付くのではないかという期待をにじませた。 ただ、現在の実質マイナス金利が、金利のある正常な状態に向かう中で、米国株式の物色の方向は変わっていくという見方も示した。安井氏は、「成長株と金利敏感株、グロース株とバリュー株といったような二者択一の考え方は相応しくない。利益成長できる企業が選別投資されると考えた方が良い」と語っていた。テクノロジー企業の中でもアップルやマイクロソフトなどの大型企業は安定的に収益をあげられる基盤がしっかりしており、NASDAQ100に採用されるような時価総額の大きな企業群は有望な投資先になり得るという考えだ。「ハイパーグロース」については、「2020年に大きく値上がりしたEV関連やバイオテクノロジー銘柄、また、SPAC(特別買収目的会社)などは厳しい局面が続くだろうが、キチンと収益が出ている企業は見直されて底入れすると考える」と見通した。 安井氏によると、「近年のソフトウエア業界の成長企業は、サブスクリプションモデルで展開している場合が多い。従来は1回でまとめて計上された売上が、現在は月割りで積み上げられている。サブスクで稼いでいる現在残高は、今後数年間継続する可能性があり、従来型の1回計上の売上高とは価値が違う。このようなビジネスモデルによる違いを1社1社分けて評価されるように変わってくる。ハイパーグロースの中での選別が強まっていくだろう」という。「米国IPOニューステージ・ファンド」が投資対象としている「時価総額30億ドル以上」という規模の水準は、新興企業の業績が安定成長に転じる分岐点になる規模だという。そのような企業の成長サイクルを踏まえた銘柄選択をしている同ファンドも見直されるタイミングが遠からずやってくるという期待を込めていた。(グラフは、「米国IPOニューステージ・ファンド<為替ヘッジなし>(資産成長型)」とS&P500のパフォーマンス推移)
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