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2022/02/17 20:09
ノーロード(販売時手数料無料)、かつ、運用に係る手数料(信託報酬)が低コストのインデックスファンドの残高増が止まらない。業界最低水準の手数料率を標榜する「eMAXIS Slim」シリーズの旗艦ファンドといえる「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」は、設定月の2018年7月から22年1月まで43カ月連続で月次資金流出入が流入超を継続し、2月10日には一時的に純資産残高が1兆円を突破した。同様に、「SBI・V・S&P500インデックス・ファンド」も19年9月の設定月から29カ月連続の月次資金流入を継続して、残高が4700億円を超えた。この2ファンドは、信託報酬が年0.1%を下回る水準に設定している。米国の低コストインデックスファンドの代表ファンドは残高が44兆円を超える巨大ファンドになっているが、国内インデックスファンド市場も着実に巨大化の歩みを続けている。 低コストのインデックスファンドが残高を拡大している背景にあるのは、国内で世代を超えて広がっている「ファンドを使った積立投資」の利用拡大だ。多くは、「つみたてNISA」という投資収益非課税の制度を利用した積立投資だろうが、同制度の利用が年間40万円(毎月3.3万円平均)と限定的なため、これを超えて一般口座で積立投資を行っている人もいるだろう。積立投資の効果は、言うまでもなく、時間分散によるリスク分散効果が大きく、特に、株式を対象としたインデックスファンドの場合は、株価変動によるリスクを調整してくれる効果がある。「毎月27日に1万円」など、定時定額で積立投資を行うと、価格が下落した場合には、より多くの口数を購入できることになり、最終的に株式ファンドの価格が上昇した場合は、株価の低迷時に多くの株数を積み上げた効果が発揮されて、大きな投資収益をもたらすことになる。 「つみたてNISA」を使うと、この投資収益にかかる約20%の収益税が非課税になるメリットがある。ファンドの積立投資は、ネット証券などでは100円単位で購入時手数料無料で始められる手軽さもある。若い世代を中心に、ファンドの積立投資が広がっている背景だ。 数十カ月にわたって月次資金流入が続いているファンドも、日々の資金流出入では資金流出になることもある。たとえば、「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」でも、22年1月に19日と25日は資金流出になっている。また、「SBI・V・S&P500インデックス・ファンド」も1月19日、25日、26日の3日間は資金流出だ。しかし、その他の日に流出金額を上回る資金流入が続いているため、月間の資金流出入では流入超過を継続することになる。この2ファンドほど大きくないファンドでみると、ファンド規模が大きくなる過程がよりはっきりとわかる。 「野村 スリーゼロ先進国株式投信」は、残高が26.45億円というまだ小さいファンドだが、2030年12月31日までの信託報酬をゼロ%に設定して、積立投資での利用を呼び掛けているファンドだ。販売会社が野村證券に限定されているが、2020年3月の設定月から23カ月連続で資金流入を継続している。このファンドの日々の資金流出入を調べると、今年1月の営業日数19日のうち、8日で資金流出になった。ところが、20日に1億46百万円という比較的大きな資金流入があり、資金流出額が1日あたり100万円〜200万円と小さいこともあって、1カ月間では資金流入になっている。毎月20日には比較的まとまった資金流入が観測されるため、多くの投資家の積立投資の指定日にあたっていると考えられる。積立投資契約によって、着実に資金が入ってきて、ファンドの純資産総額が少しずつ拡大する様子が想像できる。 この「野村 スリーゼロ先進国株式投信」は、2月3日からLINE証券のつみたてNISAの対象ファンドに採用された。その2月3日にはさっそく1億円超の資金流入を観測した。信託報酬ゼロの期間が、まだ、8年程度は残されているため、今後の積立投資の対象として利用が拡大していくものと考えられる。巨大ファンドに育ったインデックスファンドは米国の「S&P500」を投資対象としたファンドだが、「野村 スリーゼロ先進国株式投信」は、日本を除く先進国株式の指数として機関投資家などが運用で多く採用している「MSCIコクサイ」に連動した運用成績をめざすファンドだ。「MSCIコクサイ」もメジャーなインデックスの1つである。 米国のインデックスファンドは、「Fidelity 500 Index」が残高で約44兆円の巨大なファンドになっているが、このファンドの経費率(信託報酬)は年0.015%だ。また、低コストという点では、残高が30兆円を超えるETF(上場投資信託)である「iシェアーズ・コア S&P 500ETF(IVV)」、「バンガード・トータル・ストックマーケットETF(VTI)」、「バンガード・S&P 500ETF(VOO)」など、経費率0.03%というファンドもある。日本の数段上を行く規模と、超低コストを実現している。日本では公募投信全体でも約82兆円(ETF除く)という規模であるため、1ファンドが40兆円を超えるようなことは、まだまだ先のことだが、「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」が設定から3年半で1兆円の残高になったことを考えれば、より大きく、より低コストのファンドが生まれる可能性が感じられる。 運用会社も商売として商品を提供しているため、商品を維持するコストとの見合いでファンドの信託報酬を決めている。米国もいきなり0.03%の手数料で登場したわけではなく、残高が拡大するにしたがって低廉な手数料率になってきた。「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」は単独では収益ラインに乗っているかもしれないが、同ファンドをここまで大型化した要因の1つでもあるその他の「eMAXIS Slim」シリーズ13ファンド全体、あるいは、低コストのファンドシリーズ「eMAXIS」シリーズ63ファンド全体では決して黒字とはいえないだろう。「野村 スリーゼロ先進国株式投信」にいたっては、販売時も運用時も手数料ゼロ%なので、どこからも収益が入ってこない。信託銀行に対して、ファンドで投資した証券を預かってもらっているコストを支払うばかりの赤字商品だ。このファンドをきっかけに、投資口座を開いて他のファンドも買ってほしいという願いだけが商品を支えているのだろう。低コストのインデックス・ファンドは、全体として、より大きな残高になることが期待されている。そして、ファンドがより大きくなることによって、より低コスト化も進む未来が展望できそうだ。(グラフは、代表的な低コストインデックスファンドの月次資金流入額の推移)
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