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2022/02/21 18:27
株式投資の最大の敵は、「価格変動率の大きさ」といえるだろう。価格変動は収益をあげるチャンスでもあるのだが、たいていの場合、運用成績のマイナス要因として働く。したがって、市場では「ゴルディロックス相場(適温相場)」という言葉があり、ぬるま湯につかっているような変化の乏しい環境こそが、株式投資で収益をあげやすい環境だといわれる。典型的なゴルディロックス相場は2017年頃のことだった。その後、2020年は「コロナ・ショック」による大変動を経験し、21年はやや落ち着きを取り戻しつつあったものの、22年になって再び波乱の予感が高まっている。米国株式市場の価格変動率の推移を表すシカゴ・オプション取引所(CBOE)ボラティリティ指数(VIX)の動きを振り返って、現状を評価しておきたい。 VIXは、米国を代表する株価指数である「S&P500」の今後30日間のインプライド・ボラティリティ(予想変動率)を測定する指数として知られている。通常の価格変動率を測定する指数として使われるヒストリカル・ボラティリティは、過去の値動きに基づいて統計的に計算された指数になる。これに対して、将来の予測をするのがインプライド・ボラティリティで、具体的にはVIXの計算では、市場で取引されている権利行使価格の異なるオプションの総和を使って計算している。つまり、市場参加者の予測値の変化を示す指数になっていて、日中に変動しているので、VIXは「予想変動率」ではあるのだが、価格の現在実勢に極めて近い値になっている。 たとえば、過去を振り返ると、2008年9月の米投資銀行リーマン・ブラザーズの経営破たんをきっかけにした世界金融危機「リーマン・ショック」の時には、VIXは10月24日に史上最高値89.53を記録した。この10月24日にS&P500は前日比3.45%下落し、翌営業日の27日に3.18%下落するが、その前後ではもっと大きく動いている。10月22日は6.10%下落し、10月28日には10.79%上昇するなど、VIXが史上最高をつけても実際の変動率は、その当日や翌日に大きくなるというものではない。そして、VIXが終値で当時の最大値80.86を付けた08年11月20日にはS&P500は前日比6.71%下落している。前19日に6.12%安に続いてさらに6%を上回る下落となったことでパニック的な売りが出た。このように、VIXの値が跳ね上がっている時には、市場関係者は頭を抱えるほど株価が下落していることが多い。 これは2020年3月16日にVIXが一時83.56という「リーマン・ショック」以来の数値に跳ね上がった時も、当日のS&P500は前日比11.98%安という史上最大の下落率を記録した。VIXが「恐怖指数」と呼び替えられるのは、指数が目立って上昇する局面で株価が大きく下落してきた経緯からだろう。 このVIXの日々終値の平均値を暦年で振り返ると、「リーマン・ショック」前の2005年、06年は12.8程度だった。07年に17.5に上昇し、08年は32.7、09年も31.5であり、過去のピークを形成している。10年には22.5、11年に24.2だったが、12年に17.8と10ポイント台に低下してから19年までは10ポイント台で落ち着いた動きとなる。その中で2017年は11.1と近年のボトムとなった。この17年当時に良くいわれたのが「ゴルディロックス相場」という言葉だった。 2020年は「コロナ・ショック」の影響もあって29.3まで上昇した。そして、21年は19.7と再び20ポイントを割る水準となり落ち着いてきたかに思われたが、22年の年初から2月18日までの平均は23.7まで上昇してきている。2月18日の終値は27.75と年初からの平均を上回っている。 現在の市場は、ウクライナ国境の東側に集結したロシア軍と、ウクライナの北に位置する隣国ベラルーシに入ったロシア軍が、挟み撃ちにするようにして戦闘態勢を整えているということを戦々恐々として見守っている。20日には、米ホワイトハウスと仏大統領府からウクライナ問題に関して米ロ首脳会談が設定される見通しという発表が伝えられ、21日の東京株式市場やアジアの市場は、大きな下げにはならなかった。ただ、「有事の金」といわれる金価格は円建てで史上最高値を更新してグラム当たり7790円になったという。VIXの動きとともに、金価格の動向も株式市場の大きな変動を予見させるシグナルとして注目される。(グラフは、日米主要株価とVIXの推移)
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