2022/02/25 16:45
2月24日に米国株式市場が反発したため、25日の東京株式市場も日経平均株価が前日比1.5%以上値上がりしたが、ウクライナ情勢については、今後の見通しが立っておらず、投資判断は依然として慎重な対応が求められる局面といえよう。欧州の大手運用会社であるアムンディは、2月24日に発表したレポートで「まだ、買い出動するタイミングではない(This is not a time to try to buy the dip)」と呼びかけた。国内で報道されるウクライナ関連のニュースは断片的なものが多いことに加え、事態は刻一刻と移り変わっている。ニュースを追いかけていると、いたずらに心騒がすことになりがちだ。このような時は、運用のプロフェッショナルである運用会社が発表するレポートなどに目を通し、第三者の冷静な見方に触れて落ち着きたい。
運用会社は、大幅な価格変動のあったファンドが出ると「弊社ファンドの基準価額下落について」というお知らせを公式ホームページで発表するようにしているが、2月23日の祝日を挟んでウクライナ情勢が大きく動いたため、24日、25日とファンドの基準価額の大きな下落を伝える通知が増えている。たとえば、野村アセットマネジメントの「野村通貨選択日本株投信(ロシアルーブルコース)年2回決算型/毎月分配型」は24日に1日で基準価額が8.3%下落した。また、アムンディ・ジャパンの「アムンディ・ロシア東欧株ファンド」は同9.57%の下落となった。ロシア株式やロシア通貨ルーブルの下落が大きく、ロシアの株式や債券、通貨に投資しているファンドの下落率が大きくなった。
このような事態を受け、野村アセットでは24日に「ロシアの株式・債券・通貨の保有状況について」という資料を公表し、運用中のファンドでロシア関連の資産をどのファンドが何%保有しているのか明らかにするとともに、「NEXT FUNDS ロシア株式指数・RTS連動型上場投信(ETF)」(証券コード:1324)の設定・解約の申し込み受け付けを一時的に停止すると発表した。
一方、現在のウクライナ情勢については、野村アセットのシニア・ストラテジスト石黒英之氏は日々更新している「マーケットナビ」において2月25日、「ウクライナ情勢自体は主要国企業のファンダメンタルズに致命的な打撃を与えるリスクは低く、2月24日に米国株式市場が朝方の大幅安後に急反発したことは、割安性判断など、市場が冷静に対処している証左」として、市場がパニックのようになっていないことに安心感を持っているようだ。ただ、ロシアの軍事侵攻によって資源価格が高騰していることが、米FRBをはじめ各国の金融政策に影響を与える可能性があることについて注意が必要だとして、依然として市場の行方を注視するように注意喚起している。
大和アセットマネジメントは2月24日発行の「Market Letter」で、「ロシアによるウクライナへの実力行使でリスクオフ」と副題を付けた上で、「最終的には何らかの外交的妥協を探る動きが強まると考えられますが、本来であれば交渉の起点となるべきミンスク合意(停戦やウクライナ東部の一部地域の自治などについて2014−15年にまとめられたロシアやウクライナ等による合意)が破綻しており、交渉の糸口や落とし所が非常に不透明になっているため、株式市場では当面、投資家のリスク回避姿勢が強まった状態が続きそうです」と慎重な見方をしている。
また、日興アセットマネジメントは2月24日発行の「楽読(ラクヨミ)」で、「ロシアが直ぐに退く可能性は低いとみられます。このため、ウクライナ東部に派遣されるロシア軍とウクライナ軍との衝突などがきっかけとなり、いずれロシアが本格的な軍事侵攻に踏み切るような事態が懸念されます。一方で、そうした事態が回避されるようであれば、相手の出方を窺いながらの駆け引きが長引くことも考えられます」と、事態が長期化するリスクを警戒している。
そして、ニッセイアセットマネジメントは2月25日に発表した臨時レポート「ウクライナ侵攻による日米株は値動きの荒い展開」において、「事態打開への糸口がみつかるまで日米株は当面上下に値幅の大きい落ち着かない相場展開が続くものと思われます」と、当面の市場が波乱含みに推移するであろうことに注意を促している。
ヨーロッパ系の運用会社は、危機と隣り合わせであり、現地の情報をリアルに伝えている。フランスのアムンディは、2月24日(現地)に「ロシアがウクライナを攻撃」と題したレポートを発出し、「状況が落ち着くまでには時間がかかります。その間、不確実性とボラティリティは持続し、マイナス面にいくらかの過剰が見られる可能性があります」と警戒を呼び掛けている。「状況の迅速な解決は期待できない」として、「ここでの価格の急速な落ち込み(ディップ)は買うべきでない」と警鐘を鳴らしている。そして、当面はキャッシュポジションを高め、流動性のある資産をもっておくことが肝心だとしている。
また、ドイチェ・アセットは24日(現地)にCIO Flashで「A new geopolitical chapter(地政学的な新時代の幕開け)」と題したレポートを出し、「ロシアがウクライナへの侵攻を開始しました。短期間で緊張が緩和することは期待できません。資産価格を再評価する過程は長引くかもしれません」と、今回の事態が長期化する懸念を表明した。「プーチン大統領が断片的なアプローチをとっていないこと、外交的な話し合いや短期的には西側からの制裁によって彼の行動が左右されないことが、あまりにも明白になっています」とし、「市場には欧州の新たな地政学的状況を再強化する時間が必要となるでしょう」と予測する。市場の調整局面は意外と長引くかもしれないという見通しだ。同社では、ロシアの進行がウクライナにとどまらず、旧ソ連圏だった各国に拡大する可能性も排除していない。そして、「欧州の景気後退のリスクが高まっているため、当社では戦略的予想を現在見直しています」とした。
ロシアのウクライナ侵攻によって1バレルあたり100ドルという高値に上昇した原油価格や各種貴金属の価格上昇は、世界的なインフレ(物価上昇)を一段と押し上げる要因に働く。ロシアに対するエネルギー依存の高い欧州の国々では、ロシアへの経済制裁の見返りとしてエネルギー価格の一段の高騰を受け入れざるを得ず、さらに、ウクライナからの難民の受入れやウクライナ支援、そして、軍事予算の負担増などロシアの軍事的脅威に備える対策も必要になる。欧州各国のコロナからの復興には重い足かせになりそうだ。また、欧州系の運用会社がレポートするように、ロシアのプーチン大統領の意図が、ウクライナにとどまらない場合、問題の長期化は避けられないことになる。いずれにしても、まだ事態は始まったばかりといえ、収束への道筋は見えていない。
当面の投資環境は、落ち着いたものではなさそうだが、運用会社など資産運用の観点から出されるレポートなどを拠り所として中長期な投資スタンスで臨みたい。iDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISAなどで長期の積立投資をしている人にとっては、市場が安くなれば、同じ金額でより多くの口数を購入できるメリットがある。中長期の視点を持つと、ピンチもチャンスに見えるものだ。(写真は、ウクライナの首都キエフ、イメージ写真提供:123RF)