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2022/03/03 18:27
ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始してから3月2日で一週間が経過した。当初は2日で首都キエフが陥落するといわれていたが、ウクライナの強烈な抵抗によって未だにロシア軍がキエフを制圧するに至っていない。ウクライナからは、民間人の死傷や市街地の被災などが増えていることが伝えられ、一日も早い停戦が望まれる。一方、株価の動きなど経済的な側面でみると、「ロシアの一人負け」が明らかだ。ただ、このままの状態が長く続くようであれば、隣接するユーロ圏が被るダメージも決して小さくないと考えられる。主要指標の動きを振り返り、現状を客観的に把握しておきたい。 国連は3月2日午前(日本時間で3日零時頃)緊急特別会合を開催し、ロシアのウクライナに対する軍事行動を非難し、ウクライナからのロシア軍の即時撤退を求める決議案を141カ国の賛成で採択した。この決議案に反対したのはロシアなど5カ国、中国やインドなど35カ国が棄権した。この国連の動きに先立って、米欧の主要国は国際的な銀行決済で重要な役割を担っているSWIFT(国際銀行間金融通信協会)からのロシア銀行の排除など、ロシアに対する経済制裁を強めていた。 ロシアに対する経済制裁は、2月14日に主要7カ国(G7)財務相声明で、ロシアがウクライナ侵攻などに踏み切った場合は「ロシア経済に甚大かつ即時の結果をもたらす経済・金融政策を共同して科す用意がある」としていたように、事前に入念に準備が進められたようで、ロシアの軍事侵攻が確認されると直ちに、ロシアが外貨準備として西側各国に保有している資産の凍結やプーチン大統領やラブロフ外相の個人資産も凍結し、そして、SWIFTからのロシア主要銀行の排除など矢継ぎ早に制裁措置を発表し、実施に移した。 これらの結果は、ロシア証券取引所や世界の取引所で売買されるロシア企業の預託証券などの暴落につながった。たとえば、SWIFTからの排除について欧米が一致したと伝わった週末が明けた2月28日のロンドン証券取引所で、ロシアの最大手銀行であるズベルバンクの預託証券の価格は、前週末(25日)比で一時77%下落し、ロシア軍がウクライナに侵攻する前(23日)と比較すると9割安になった。同じように、ガスプロム、ロスネフチなどロシアの代表的なエネルギー大手企業の預託証券の価格も暴落。ロシアのモスクワ証券取引所は2月28日に市場を閉鎖し、3月3日になっても取引が再開できない状況になっている。 昨年末を起点として3月2日までの世界の株価指標や原油、金などコモディティの先物市場の動きをみると、ロシアの大型株や中型株で構成される「MSCIロシア(配当込み、円ベース)」が既に60%安の水準に落ち込んでいる。2カ月間で半値以下になってしまったことになる。特に、軍事侵攻が始まって、各国の経済制裁が発表されてからの落ち込みが激しい。そして、この期間は、「WTI原油先物(中心限月、円ベース)」の値上がりが極めて大きくなっている。同先物は世界の原油価格の指標と目され、昨年末比でプラス45%の値上がりになった。金(ゴールド)価格の指標になる「NY金先物(中心限月、円ベース)」は7%程度の値上がりながら、一貫してジリジリと値を上げてきている。 一方、世界の株価も弱い。米国は年初が史上最高値を形成した上げ相場のピークとなっていて、今年になってからジワジワと株価を下げている。「MSCI米国(配当込み、円ベース)」は、1月下旬に前年末比10%強の下落となり、一旦は4%安の水準に持ち直したものの、ロシアのウクライナ侵攻とともに、再び10%強の下落になった。また、「MSCI中国(配当込み、円ベース)」は、今年は前年末比プラス6%まで上昇していたのだが、ウクライナ情勢の緊迫化とともに価格が下落し、ロシアのウクライナ侵攻とともに、前年末比でマイナスに落ち込んだ。 そして、ロシアの軍事侵攻後の値動きに各国各様の特徴のある動きが見て取れる。経済制裁を受けたロシアの株価が大きく下落し、原油の輸出国であるロシアからの供給不安によって原油先物価格が急上昇したことは一目でわかる。 その他の国々の動きをよく見ると、米国株価はジワリと上昇に転じているようにみえる。米国は自国の経済規模が大きく、ロシアが経済的に追い込まれて経済が停止状態になったとしても、米国企業の受けるダメージはそれほど大きくないという指摘がある。もちろん、GAFAM(グーグル・アマゾン・フェイスブック・アップル・マイクロソフト)などの巨大企業は世界中で稼いでいるため、ロシアやロシアと関係の深い欧州各国のダメージをある程度は受けるため、決して無傷ではないが、それらは、ウクライナやウクライナに隣接する欧州各国の復興支援、また、その次にやってくるであろうロシア経済の復興支援では経済的にプラスの影響を受けることができるかもしれない。 その米国に対し、ロシアと隣接する「MSCIユーロ(配当込み、円ベース)」の動きは、「MSCIロシア(配当込み、円ベース)」の下落に引きずられて下落し始めているようにみえる。ユーロ圏は、ロシアからの天然ガスや原油の輸入などによってエネルギーの依存度が高く、ロシア経済が混乱すれば、エネルギーの供給不足などのデメリットを受ける。同様に、「MSCI中国(配当込み、円ベース)」もロシアに引きずられて下落しているようにみえる。米国との対抗ではロシアと友好関係を強調し、国連におけるロシアへの非難決議案の採決では棄権した中国は、国際社会からはロシアに近しい存在とみなされていることは間違いない。ロシアが経済的に追い込まれていけば、ロシアとの経済協力の関係で何らかの経済的な不利益を被る可能性があると、市場が見ているのだろうか。 ウクライナ情勢の決着については、未だに道筋が見えないため、軽々に投資判断をすべきではない。ただ、ロシアのウクライナ軍事侵攻をきっかけにして動き始めた「米国」「ユーロ」「中国」のそれぞれの動きは、今年の年後半や来年以降を考えるヒントになるのかもしれない。また、今回の危機で短期間に大きな価格上昇をみた「原油」については、カーボンニュートラルへ突き進む世界各国のエネルギー政策を「脱原油」に一層踏み込ませるのではないだろうか。もちろん、この原油高が定着するようであれば、輸送コストやプラスチック製品の製造コストなど、様々な分野で一段と深刻なインフレにつながる。ロシアのウクライナ軍事侵攻から始まった、様々な変化について見逃すことがないよう、しっかり、今後の展開をウオッチしていきたい。(グラフは2022年の主要国の株価指数と原油・金の先物の推移)
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