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2022/03/16 18:24
2022年の世界市場は非常に大きな価格変動に見舞われた。大国が近隣国に軍事侵攻するという非常にレアな出来事があったが、一方で、コロナ禍で実施された大規模な金融緩和策が縮小に向かう過程で、値上がりし過ぎた資産価格が見直されて急落することは過去にもあったことだ。軍事侵攻という大規模イベントでなくても、何らかの変化に市場が過敏に反応するということは、今後も起こり得ると考えた方が良い。このような不安定な市場にあって運用資産の安定化に資する商品として「ヘッジファンド」が注目される。実際に、年初からの大きな下落相場の中でも「ヘッジファンド」にカテゴライズされたファンド群の価格変動は緩やかで、市場平均を上回るパフォーマンスを示した。今後の市場に対応していく上でも、ヘッジファンドの研究をしておきたい。 ヘッジファンドとは、株式や債券という伝統的な投資市場の値動きとは関係なく収益が出せるように工夫されたファンドだ。代表的な投資手法に「ロング・ショート」がある。株式等の資産を購入する(ロングポジションを取る)とともに、株式先物の売り建て(ショートポジションを取る)を同時に行う。ロングで購入した株式に対する市場の評価が低過ぎる場合は、株価が割安な部分が収益として確保できる。企業の価値評価を正しく行うことによって、"市場における価格評価の間違い”を収益機会にする。一見すると「バリュー投資」のようだが、「ロング・ショート」ではショートポジションを持っているため、株式市場全体が上がっても下がっても市場での評価価格が間違っている限りは収益機会があることになる。常に一定の投資機会がある投資手法として古くから提供されてきている運用手法だ。 この他にも、各種の先物市場を使って「市場のトレンド」を収益機会にする投資、未上場の株式への投資、森林など通常の株式・債券投資では投資できない資産への投資など、様々な投資手法をファンドのカタチで提供している。未上場株式など日常的に売買が困難な資産に投資することも少なくないため、一般に日々売り買いができる「公募ファンド」ではなく、一定期間の売買制限が付くなど相対で取引条件が決められる「私募ファンド」として機関投資家などの大口投資家向けに主に提供されるケースが多い。公募ファンドでウエルスアドバイザーの「ヘッジファンド」カテゴリーに入るファンド数は2月末現在59本だ。全体で4338本に対して僅か1.4%を占めるに過ぎない。 ヘッジファンドは、今年に入ってからの下落相場の中では、相場の上げ下げに関係のないパフォーマンスをめざすという特性が発揮された。今年の下落は2段階に分けられ、インフレ高進と米国の利上げ加速懸念で1月5日から1月26日までMSCIオールカントリーワールドインデックス(ACWI)(配当込み、円ベース)が9.52%下落した局面と、ウクライナ侵攻を悪材料として2月10日のピークから3月9日までMSCI ACWIが10,24%下落した局面だ。この2つの局面にあって、ヘッジファンドに分類されるファンドは90%以上のファンドがMSCI ACWIをアウトパフォームした。 1月5日から1月26日までの期間では比較可能な57本のファンドのうち91.23%にあたる52本がアウトパフォームした。この間、「国際株式・グローバル・含む日本」(為替ヘッジあり・なし)のカテゴリーに入るファンド405本では38.77%にあたる157本しかアウトパフォームしなかった。2月10日から3月9日の期間では、ヘッジファンドは58本中94.83%にあたる55本がMSCI ACWIをアウトパフォームしたが、「国際株式・グローバル・含む日本」(為替ヘッジあり・なし)のカテゴリーのファンドは409本中で45.97%の188本しかアウトパフォームしていない。このように株式市場全般が大きく下落する中にあっても、その株価の値動きとは異なる動きをするファンドを運用資産の一部に持っておくことは、資産全体の運用成績を安定化させるうえで重要だ。 ただし、国内の公募ヘッジファンドのパフォーマンスを一つ一つ検証してみると、必ずしも喜んで投資したくなるような運用成績ではない。市場の変化に関係なく安定的に価格推移しているということでは合格していても、安定的に価格が横ばいだったり、悪くすると、徐々に価格が低下しているような運用成績のファンドもある。今回の下落局面で市場をアウトパフォームできたのも、運用が効果的であったというより、価格の変動率が小さかったという側面が大きいといえるファンドが多い。 ヘッジファンド59本のうち、設定来のトータルリターンが100%を超えている(設定後に資産価値が2倍以上になっている)ファンドは2月末現在で5本しかなく、66%にあたる39本が10%以下の水準にある。おおむね5本に1本がマイナス5%〜5%というほとんど横ばいの運用成績だ。この残念な運用成績の結果、2月末時点のヘッジファンド全体の純資産総額は約4830億円しかない。このうち、「ダブル・ブレイン」シリーズ3本で3649億円を占めるので、残る56本の合計は1181億円だ。 「ダブル・ブレイン」は2月末現在で3年トータルリターンが年率7.98%と安定的な収益をあげ、ヘッジファンドの中で残高が突出したファンドになっている。現在は、かつてなく安定運用の商品が求められる局面といえよう。運用各社には知恵を絞った「ヘッジファンド」の開発が求められている。(グラフは「ダブル・ブレイン」の設定来のパフォーマンス推移)
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