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2022/03/23 19:21
ロシアによるウクライナ侵攻が開始されてから約1カ月間が経過しようとしている。2月24日の侵攻開始当初は大きく崩れた世界の株式市場は、落ち着きを取り戻し、侵攻前の水準を回復するまで価格の水準を戻してきた。この約1カ月間で、投信の投資家は、どのような行動をとったのだろうか? 主要ファンドの資金流出入の推移を見て、投資家の動きを推察してみた。 検証の対象としたのは、純資産残高が大きなファンド5本(アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Dコース/eMAXIS Slim米国株式(S&P500)/グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(為替ヘッジなし)/ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド(毎月分配型)/netWIN GSテクノロジー株式ファンドBコース)と主要資産(国内株式/先進国債券/米ハイ・イールド債券/国内REIT/米国REIT/新興国株式)に投資している資産規模の大きなファンドの合計12本。2月1日から3月22日までの日々の資金流出入状況を調べた(流出入額はウエルスアドバイザーの推計値)。 その結果、最も傾向がはっきり表れたのは、先進国債券(グローバル・ソブリン・オープン毎月決算型)、ハイ・イールド債券(フィデリティ・USハイ・イールド・ファンド)という債券ファンド、そして、「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド」と新興国株式(野村インド株投信)からの継続的な資金流出だった。特に、先進国債券からは、2月1日から3月22日まで連日の資金流出となった。3月22日までの累積流出額は約40億円だ。巨額の資金が出ているわけではないが毎日数千万円単位の資金流出が継続している。これは、ウクライナ危機の以前に、米国をはじめとした先進国の間で資源価格の上昇などによるインフレ(物価上昇)を抑えるために政策金利を引き上げる動き(投資先の債券価格の低下要因)があることを嫌った動きといえる。 また、ハイ・イールド債券については、ウクライナ侵攻が始まった2月24日に、5.8億円の資金流入があった。その前後は連続して資金流出が続いていただけ、侵攻直後に世界の株価が下落する中での資金流入は目立った動きになった。同じように、「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド」も2月24日前後は資金流出だったが、24日だけは1500万円の資金流入だった。同ファンドは2月1日から3月22日まで累計で173億円の資金流出となるなど、ここ資金が流出する傾向が強い。そして、新興国株式ファンドで最も残高が大きい「野村インド株投信」も3月22日までの累計で33億円超の資金流出になった。「有事のリスクオフ」という中にあっては、新興国の持っている経済の脆弱さが敬遠されたと考えられる。 一方、この間に資金流入が活発だったのは、「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Dコース」と「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」という残高1位と2位の巨大ファンドだ。この2ファンドはともに、2月1日から3月22日までの累計で1000億円を超える資金流入になった。ただ、さすがに2月24日の侵攻開始日には、両ファンドへの資金流入が止まった。「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Dコース」の流入額は2800万円、「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」は400万円の資金流出になった。「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」は期間中でこの日だけが資金流出だった。この残高上位2ファンドについては、2月24日を除けば「ウクライナ危機」の影響はほとんどないようにみえる。 2月24日の資金流出入で12ファンド中、最も大きな資金流入になったのは、国内株式のインデックスファンド(日経225ノーロードオープン)で31億円超の資金流入だった。国内株式アクティブファンド(ひふみプラス)も5億円超の資金流入で目立った資金流入だった。さらに、国内REIT(ダイワJ−REITオープン毎月分配型)も8800万円と小さいながらも資金流入となり、戦争が始まって不透明感が強まった時に国内資産が避難先として選ばれていたようにみえる。日本にとってウクライナが地理的に遠いことが、心理的な安心感につながったのだろうか? そして、この間、ファンドのパフォーマンスが最もしっかりしていた「ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド(毎月分配型)」や、それに次ぐ成績だった「フィデリティ・USリート・ファンドB(為替ヘッジなし)」、「ダイワJ−REITオープン毎月分配型」については、しっかりと資金流入が旺盛だった。それぞれの累計資金流入額は、「ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド(毎月分配型)」が92億円、「フィデリティ・USリート・ファンドB(為替ヘッジなし)」が151億円、「ダイワJ−REITオープン毎月分配型」は192億円だ。大きなイベントで「リスクオフ」を経験しつつも、しっかりとパフォーマンスを評価する動きは継続したようだ。 このように、各ファンドの資金流出入の動きを振り返ると、市場は2月24日のロシア侵攻に驚いたものの、その後の展開では、非常に冷静に今後の金融政策の変化や経済の変化等を見据えて動いたということができそうだ。乱高下した原油価格などの商品先物市場の動きなどと比較すると、ファンドへの投資資金は落ち着いた投資判断ができたように思える。この流れは、現在のところ、米国の利上げと、その利上げを乗り越えた経済成長を読んでいるように思える。ただ、原油価格など資源・エネルギー価格の高騰が続いている。ウクライナ危機も継続中だ。依然として不透明要因を抱えた市場といえ、今回のショックを乗り越えたような冷静さをもって対処していきたい。(グラフは、主要ファンドの2022年2月22日〜3月22日までの日次資金流出入の推移、資金流出入額は推計値)
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