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2022/03/24 18:42
市場の価格変動が大きくなっている。債券アクティブ運用で最大手のピムコ(PIMCO)は、現状を「『反』適温経済」と呼んで、予測できない不確実性が見通しを曇らせているとする。ウクライナ戦争や資源・エネルギー価格の急騰に見舞われている現状は、2008年のリーマンショックに匹敵するほど見通し難いという意見だ。このような不確実な市場を前に、従来にも増してリスク管理を徹底したいと感じる人は増えているだろう。ただ、リスクを低くしようとすると運用から得られるリターンも低くなってしまう。そこで、シンプルな仕組みながらリスク管理にも優れた運用方法として米国の確定拠出年金運用で広く利用されているのが「ターゲットイヤー・ファンド(ターゲットデート・ファンド)」だ。 ウクライナ戦争の終結がなかなか見通せず、紛争の長期化によってロシア経済が受けるダメージと、ロシアにエネルギーや資源・食糧などを依存してきた欧州各国が被る負担の大きさも警戒されるようになってきた。欧州経済は、今年後半には失速し、マイナス成長に転じるのではないかという見通しも出ている。また、1カ月に及ぶ戦争の間、高止まりした原油価格が世界経済に与える悪影響は、紛争が長引くほどに深刻になっていく。ただでさえ、コロナ禍による供給網の不安定さから価格が上昇していた原油は、ウクライナ戦争の開始で価格が跳ね上がった。この原油高が連想させるインフレ(物価上昇)の高進は、各国の中央銀行に政策金利引き上げを促し、最大の経済規模を持つ米国も3月に政策金利の引き上げを決定した。今後、年末まで6回開催される予定の政策金利決定会合のたびに利上げが予想されている。 PIMCOの基本シナリオは、「パンデミック後の経済活動再開と貯蓄の増加による需要拡大によって成長は引き続き支えられる一方、インフレは今後数カ月でピークに達し、その後は緩和する」というものだったが、「ロシアとウクライナの戦争がさらに激化した場合、今後6〜12カ月の間に景気後退が起こるリスクがある」という見方に傾いているという。「ロシアのウクライナ侵攻、対ロシア制裁措置、コモディティ市場の乱高下は、このおぞましい戦争が始まる前から既に不透明であった経済・金融市場の見通しに、さらに多大な不確実性を上乗せするものである」と警戒を強めている。PIMCOが警戒しているのは、「リスクが経験や統計分析に基づいて確率を付与することで定量化できるのに対し、不確実性は基本的に計測不可能であり、不可知な未知数である」ということで、ロシアのウクライナ侵攻は「極端な不確実性」を市場に投げ込んだとみている。 足元ではウクライナ問題が市場に大きな影響を与えるイベントだが、今後、10年、20年という長期の資産形成にとっては、今回、ロシアとウクライナの間で起こったような地域紛争は、当事者を変えて起こり得るリスクであるということを考えておく必要がある。日本の隣国でも韓国と北朝鮮は「休戦中」であり朝鮮戦争は終わっていない。中国と台湾の間の問題、中国とインドとの間は国境問題で小競り合いが続いている。地政学リスクは一部で起こったことが他の地域に波及しやすいという傾向もあり、いつ何時、戦争が勃発し、株価が数十%も下落するようなことが起こり得る。そのような「いざという時」に慌てない運用資産にしておく必要がある。 「ターゲットイヤー・ファンド」は、目標とする運用の終着点(ターゲットイヤー)に向けて、投資している資産の中でリスク資産への投資比率を段階的に落としていくという運用を行う。たとえば、ターゲットイヤーを自分が65歳になる年に設定すると、そこまで30年間の運用期間があるのであれば、運用開始当初は運用資産の8割程度を株式やREIT(不動産投信)などのリスク資産にし、徐々にリスク資産の比率を下げて65歳の到達時には、先進国債券など価格変動リスクが小さい資産が100%程度を占める資産構成にしてしまう(終着時でも15%〜30%程度のリスク資産を保持するという考え方のファンドもある)。 「ターゲットイヤー・ファンド」の仕組みは、運用の最終年に「リーマンショック」や「コロナショック」のようなリスク資産が30%や40%などと大幅に値下がりするようなリスクに運用資産をさらしたくないという考えによる。たとえば、30年をかけて運用資産が2000万円になったとして、それを現金化しようとした時に40%も値下がりしてしまうと残っている資産の評価額は1200万円になってしまう。いつ何時、地政学リスクが勃発するのかわからないため、運用の最終年で大きなイベントに巡り合ってしまうと不幸だ。 ただ、運用期間が30年もあるのに、最初から国内債券100%のような運用資産にしてしまうと、資産がほとんど増えないということになる。したがって、運用期間が長く確保できる間は、リスク資産を中心に運用して資産の成長をめざし、徐々にリスク資産を減らしていくという手法にしている。「リーマンショック」のような100年に1度と例えられる大暴落でも、10年も経過すればその暴落の影響を克服してきたのが、これまでの世界の株式市場の動きだった。世界全体では2050年になっても年率2〜3%程度の経済成長が続くと期待されている。地域的なデコボコはあっても、総体としては成長を続ける経済がベースにあれば、上場企業の成長率は世界経済の成長率を上回る企業が少なくないだろう。株式投資によって、企業の成長期待を資産の成長に取り込むのが可能になる。長期の運用期間が確保できる間は、株式など成長資産をより多く持っておきたい。その後、成長資産の投資比率を落としていくという判断は、その都度では難しいので、予め決めたルールに則って変更していくのが「ターゲットイヤー・ファンド」になる。 野村アセットマネジメントが3月24日、確定拠出年金向けの「ターゲットイヤー・ファンド」の信託報酬率を引き下げるという発表を行った。同社は、国内の運用会社の中で、ターゲットイヤー・ファンドの組成に早くから取り組み、「ターゲットイヤー・ファンド」の残高を最も多くの抱える会社だ(22年2月末現在で公募ターゲットイヤー・ファンドの合計が約400億円)。このタイミングで信託報酬を引き下げて(商品の魅力を高めて)「ターゲットイヤー・ファンド」への注目を促すのは、同社からのメッセージであるとも考えられる。まだ、国内の公募ターゲットイヤー・ファンドの残高合計は2000億円程度しかなく、マイナーな存在だ。しかし、長期の資産形成が当たり前の時代になれば、このファンドの持つ仕組みの価値は、より高く評価されるようになることは間違いないだろう。ぜひ、「ターゲットイヤー・ファンド」を研究してほしい。(グラフは、今年に入ってからの主なリスク資産ファンドの価格変動の推移)
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