前のページに戻る
2022/03/25 19:33
野村ホールディングスが千葉銀行、第四北越銀行、中国銀行と立ち上げたオンライン専用の投資助言サービス「オンアド」が4月1日からサービスを開始すると3月25日に発表した。1時間当たり2万2000円の料金を徴収するアドバイス専門のサービスだ。従来は、証券会社や銀行で販売手数料(販売額の3%程度)を支払ってアドバイスを受けていたライフプランや資産形成のプランニング、または、相続等の相談を、商品の販売を伴わないで、アドバイスだけで業として成立させようという取り組みになる。世の中に投資助言サービスは様々にあるが、証券大手の野村グループと有力な地銀が出資する会社、すなわち、顧客基盤をしっかりつかんでいる企業グループが、本格的に乗り出したところが注目される。「資産運用のセカンドオピニオン」という事業が軌道に乗れば、国内の資産運用サービスの成熟度が一段と深まるきっかけになりそうだ。 「1時間当たり2万2000円の相談料」と聞くと、「弁護士に相談するよりもよほど高い」という印象を受けるのではないだろうか。しかし、実際には、100万円で販売手数料3%の投資信託を購入した場合、3万円の手数料を支払っている計算になる。その投資信託を購入するにあたって、商品の内容説明の他に、ライフプラン設計書や資産形成シミュレーション資料などをもらうこともあるだろう。多くの金融機関の窓口では、販売手数料に相当するだけの運用アドバイスを提供できるよう販売員を教育し、また、そのアドバイスをサポートする様々なツールを用意している。本来、商品の購入にあたって顧客は手数料を支払っているのだから、その手数料に見合ったサービスを顧客が求めるはずであるが、現在の投資信託の販売の現場では、顧客からの「手数料に見合ったサービスを寄こせ」という鬱憤の声は小さい。 むしろ、「手数料に見合ったサービスを寄こせ」という不満を募らせた顧客は、対面サービスを見限って、オンライン証券等で「販売手数料無料」の投信を購入するようになっている。SBI証券などオンライン専業証券は、取り扱っている投資信託については、ほぼ全ての商品を販売手数料無料で提供している。自分でこれが良いと決めた投資信託を購入するのであれば、銀行や証券会社の窓口を訪ねて手数料を支払って購入するのではなく、オンライン証券で購入すると販売手数料を支払うことなく同じ商品が買える。同じ投資信託であれば、銀行で買っても、オンライン証券で買っても同じ運用成果が得られる。 販売手数料を支払ってまで、銀行や証券会社の窓口で投資信託を購入するのは、「何を買っていいのかよくわからない」、「そもそも投資信託が良くわからない」など、何らかの対面相談が必要だと感じる人たちだろう。何度か相談して、投資信託についておおむねわかったという方であれば、いつまでも窓口担当者を使わないで、オンライン取引に切り替えることを考えた方が良い。もっとも、販売窓口の担当者が、総合的な資産運用相談に応じてくれて、運用ポートフォリオの変更などについて相談に乗ってくれるようであれば、「販売手数料を支払う価値がある」といえる。運用資産の全体について把握していて、的確にアドバイスをくれるような担当者は貴重だ。このように、担当者のアドバイスの品質を吟味する必要があるほど、「購入代金の3%相当」という販売手数料は、投資信託の購入者にとって非常に重い手数料率といえる。 このように考えると、伝統的な窓口販売を行っている地方銀行が、アドバイス専門の別会社を立ち上げたことの意義は大きい。銀行の窓口の担当者が、見本として参照できるようなアドバイスを行う専門家が身近に存在することになる。銀行を利用している顧客にとっても、「セカンドオピニオン」として「オンアド」の意見を求めることは重要だ。100万円で投資信託を購入することを考えれば、それ以下の手数料で、専門のアドバイスを受けることができる。 「オンアド」が提供するアドバイスのメニューは、自分のライフプランに沿った資産形成等のプランを作ってもらえる「人生設計コース」(面談60分が2回で4万4000円)、自分の資産運用について相談する「資産形成・運用コース」(面談60分で2万2000円)、終活や相続などについて相談する「資産承継(相続・贈与)コース」(面談60分で2万2000円)の3つだ。この3つのコースであれば、既存の銀行や証券会社の担当者でも、一通りはアドバイスができるだけの研修は受けていると考えられる。販売手数料をもらって投資信託を販売しているのであれば、顧客の求めがあれば、当然のごとくに提供する内容に思える。 投資信託の手数料というと、主に、運用コストである「信託報酬」に注目が集まってきた。そのため、インデックス・ファンドの中には、年間の手数料率が0.1%を下回る水準の手数料率の商品が現れ、それが人気を集めて運用資産残高が5000億円を超えたファンド、1兆円を超えたファンドが現れている。10年ほど前までには、インデックス・ファンドでも信託報酬率が年1%を超えるファンドが当たり前だったことを考えると、運用コストが10分の1以下に低減されたことは画期的なことだ。この流れを作ったのは、「eMAXIS」、「<購入・換金手数料なし>」シリーズに代表されるノーロード(販売手数料無料)のインデックス・ファンドシリーズだった。その設定の開始が「eMAXIS」シリーズが2009年10月、「<購入・換金手数料なし>」シリーズが2013年6月だった。今回の「オンアド」のサービス開始が、その時のインパクトに等しいかどうかは分からないが、販売手数料に関する意識を変えるサービスになる可能性はある。 販売手数料は、販売会社が決定する手数料率であり、主に上限は3%となっているが、オンライン専業証券のようにゼロにすることもできる。もっとも、販売手数料については低ければよいというものではない、アドバイスの質が問われるといえるだろう。4月1日に始まる新サービスの行方に注目したい。(図版は、新サービス「オンアド」のロゴ。3月25日発表の同社のニュースリリースより)
ファンドニュース一覧はこちら>>