2022/04/06 11:18
野村アセットマネジメントが4月1日に新規設定した「日本次世代経営者ファンド」は、同社の若手女性社員がプロジェクトチームを作って立案したファンドだ。ファンド名の通り、日本の次世代を担うような若手経営者に焦点をあて、日本株のアクティブファンドとして若い投資家層に支持してもらえるような運用をめざすファンドになったという。同ファンドの企画に携わったプロジェクトメンバーの1人である同社プロダクト・ガバナンス部商品企画グループの倉富悠氏(写真:左)と、同ファンドの運用を担う運用部株式グループのポートフォリオ・マネージャーの川内健太郎氏(写真:右)にファンドの魅力と運用の特徴について聞いた。
――新ファンドは、女性だけのチームで企画したということですが、その狙いは?
倉富 若手中堅を中心とする女性10名のメンバーで企画しました。ただ、私達に与えられたミッションは、「4月1日にファンドを設定する」ということだけでした。当初は、おそらく、このプロジェクトのメンバーは女性活躍の観点で集められたのだと思うのです。開発する商品も「女性が活躍する企業に投資するファンド」、「女性の資産形成をサポートするような商品」などが期待されていたのだと思うのですが、実際には縛りの少ない目標だったことで、「私達が本当にやりたいことは何?」、「本当にやるべきことは何だろう」とフラットに議論することができました。
その中で、私達が大事にしたいこととして、3つのFが浮かび上がってきました。まず、「Fans」で、投資信託のファン、アクティブ投信のファンを増やしたいと思いました。それから、「Fun」。投資を通じたワクワク感を投資したことがない方にも伝えていきたいというのが2つ目のFです。そして、「Future」です。プロジェクトで作る商品を通じて新しい未来を切り開きたい、未来を作っていく次世代の方を応援するような商品にしたいと考えました。1人の若手社員として、資産運用会社が社会に対して届けていくべき価値は何なのかと、改めて向き合う良い機会になったと思います。
昨今、例えば、つみたてNISAなどを始めている方々の傾向として、先進国株価指数など外国株式のインデックスファンドに関心が高く、あまり日本の資産に目が向いていないと感じています。ファンドのコンセプトを議論する中で、日本株に強みを持っている日本の運用会社である私どもが、日本株で運用するファンドを立ち上げて、日本で頑張っている企業を応援していきたいという気持ちが強くなりました。
具体的には、次世代の日本を作っていく若手経営者を発掘し、彼らが経営する企業に投資をするファンドを企画しました。このファンドを通じて、日本の先行きに暗い見通しや窮屈な気持ちを感じるような若い方々に、日本の未来は明るいと思っていただけるようなファンドにしていきたいと思いました。
――具体的にはどのような運用を行っていくのでしょう?
川内 ファンドのコンセプトを聞いて、「次世代経営者」について、「長期目線の経営」、「構造改革等による企業体質の改善」、「新しいビジネス機会への挑戦」という3つの要素に大別されると考えました。
たとえば、「長期目線」の観点では、先代の創業者を30代前半の歳で引継ぎ、社長に就任した経営者が企業買収を進めて強固な事業を作ってきた経営者がいます。また、例えば「企業体質の改善」は、40代以下で就任する歴代の社長による経営で高収益体質を維持する企業。最後に「新しいビジネス機会への挑戦」という点では、早期からECの成長を見越して、その分野でいち早く事業展開を始め、30代で就任した社長が率いる会社もあります。
若い経営者が経営する企業について当面は、経営トップが40代以下、あるいは、最年少役員等が30代以下等の複数の基準を設けました。これらの基準に時価総額等によるスクリーニングを加えると当てはまる日本の上場企業は、約400社あります。そして、当社の資産運用先端技術研究部の定量化ツールを使って、次世代経営者の経営する企業に期待する5つの特性(経営者の適切な交代、人材の新陳代謝、コストの積極投下、業績成長性、経営の効率性)でスコアリングしました。そして、総合点数の高い企業を優先的に調査しています。最終的には、良い経営や企業の変身期待などの定性判断を加えて60社前後でポートフォリオを構築します。
当ファンドは、先端技術を資産運用に活用するための研究開発を行う当社資産運用先端技術研究部とタッグを組んだ株式のアクティブ運用としては初の試みになります。実際に、具体的な調査を進めてみると、スコアが高いものほど、結果的にはポートフォリオに組み入れる候補になっていますので、スコアの有効性もある程度担保されていると考えられます。このスコアリングについては、固定ではなく、今後、有効性を見極めながら柔軟に変更していく方針です。
――ファンドは、やはり中長期的に投資するファンドでしょうか?
川内 ファンドのリスク特性値は、グロース(成長株投資)の性格が強く出ると考えます。若さを源泉とした成長を取りにいくイメージです。成長につながる投資ができているか、M&Aを積極果敢にやっているか、あるいは、キチンとリストラをして効率的な経営をしているかなどが問われます。結果的には経営戦略が売上や利益成長など業績につながってくるということをみています。
基本的には経営者のアクションが実を結ぶまでには数年のタイムラグがあります。そこに期待する企業に投資しますので、中長期的な目線で見ていただきたいと考えます。例えば、人件費や研究開発費などコストを投下した後に、企業活動の成果として現れるのは5年程度の期間が必要という研究事例がある他、経営者が就任した直後の数期よりも次の数期の方が、経営のパフォーマンスが良いという研究事例もあります。1年後に多くを期待していただくのではなくて、経営者が変革を先導し、事業改善を行い成長につなげていく過程を中長期的に取りに行くという気持ちで投資していただくと、当ファンドのめざす成長と合致するのではないかと思います。
当ファンドでは、経営や事業の方向性などの前提が崩れない限り、投資をし続けるというスタンスで運用します。外部環境による変化を調整するために投資比率の調整は行うのですが、実際に投資した企業から完全に撤退するということは多くないと想定しています。投資いただく皆様にも、なぜ、その企業に投資をし続けているのかという観点をお伝えしてその魅力の共有を続け、結果的にお客様も中長期で当ファンドに投資していただけるような関係を作っていきたいと思っています。
――今後の計画は?
倉富 このファンドは、ネット証券限定での取扱いとなります。若くして社会で活躍する社長に投資をし、それを若い方に買っていただく。それが、その方にとっても初めての投資であっても、投資に対するワクワク感や喜びを感じていただけるような投資体験を届けていきたいと考えています。
紙を印刷した資料の作成などは一切行わず、Webでの情報発信を継続的に行っていく考えです。ファンドのビジュアルも、ファンドの特徴をわかりやすく伝えることよりも情緒的なところで私達が実現したいことと、その投資先の企業が目指していること、それに投資する投資家の皆様のワクワク感などをつなげて躍動感あふれるようにしました。私たちがファンドに込めた思いやニュアンスを伝えることを意識しました。
ファンドに込めた想いを運用会社が発信することは、今まであまり見られなかったことだと思います。運用報告についても、従来は、ファンドのパフォーマンスと組入企業の業績や投資成果などを紹介することが多いと思うのですが、実際には企業は生身の人間が日々奮闘している集合体です。経営者の方々に1人ずつフォーカスして、その日々のお考えを紹介することで、その会社が目指していることが感じられるような、共感を持っていただけるような情報発信をしていきたいと思っています。
その1つの手段として双方向にコミュニケーションができるような場、コミュニティを設けたいと考えています。そして、受益者投票を活用して、お客様のご意見をお伺いしながら、情報コンテンツを発信するようにしていきたいと思っています。ファンドの愛称なども、受益者の方々のご意見を集約した愛称をつけていきたいと思っています。
川内 日本には旧態依然とした不活発で停滞した部分があります。そのような状態や経済を、若い経営者の力で打破していきたいという、運用者としての想いはあります。
これに対する我々としての一つの解をアクティブファンドで提供できないかという想いがあります。若い経営者、若い投資家が一緒になって日本に新しい風を吹かせたい。そういう思いが、このファンドのコンセプトになっています。ぜひ、多くの方々にご賛同いただければ嬉しいです。