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2022/04/25 19:24
ドル/円相場の変動が大きくなっている。年初は1ドル=115円でスタートしたドル/円相場は2月末までは115円を挟んで安定していたものの、ウクライナ紛争の長期化と米国の利上げ開始などによって「円独歩安」といわれる状況となり、4月20日には1ドル=129円台まで円安が進んだ。翌21日には一時的に1ドル=127円台に急速に円高に振れるなど、1日で1円以上の値幅で動く神経質な相場が続いている。このドル/円相場の大きな変動が、海外株式や債券に投資するファンドの価値(基準価額)を振り回している。4月22日までの動きでは、急激な円安が、株価の下落等をカバーする役割を果たす結果になっているが、為替相場が象徴している環境変化は、個々のファンドの変動率も増幅させている。年初からの値動きを振り返ってみた。 3月1日の1ドル=115円から128円まで、2カ月足らずで11%強も下落した円相場のおかげで、年初から10%強も下落していた「先進国株式インデックス(MSCIコクサイ)為替ヘッジなし」への投資評価損は、まるまる取り戻した格好になっている。国内公募投信で先進国株式インデックスファンドの値動きを示す「ウエルスアドバイザーインデックスMSCIコクサイ(円ベース)連動型・為替ヘッジなし(単純)」は、4月22日時点の年初来騰落率がプラス2.83%になっている。為替変動の影響を極力排除した「同・為替ヘッジあり」はマイナス7.41%なので、為替の円安・ドル高によって得られた利益は小さくない。 一方、為替が年初から11%以上も円安に振れたのであれば、ドル預金の感覚で「先進国国債インデックス(FTSE世界国債・除く日本)」に投資した方が、この円安・ドル高のメリットを直接受けることができたのではないかと考えてしまうが、実際には米国の金利引き上げ(債券価格の下落)などによって「ウエルスアドバイザーインデックスFTSE世界国債・除く日本・為替ヘッジなし」は、4月22日時点で年初来騰落率がプラス0.52%と先進国株式インデックスに劣っている。これは、「同・為替ヘッジあり」がマイナス8.61%と先進国株式インデックス以上に下落したためだ。 3月1日から4月22日までに、米国の10年国債利回りは1.716%から2.940%(4月19日)まで上昇(価格は下落)している。現在のところ0.25%〜0.50%にしている米国の政策金利が、年内に2%を超える水準にまで引き上げられる見通しになっている。年初の0%〜0.25%という金利水準からは10倍以上の水準に金利を引き上げる見通しなのだ。米国金利の上昇=米国債券価格の下落は、当面は止まりそうにない。もっとも、行き過ぎた金利上昇は、米国景気にダメージとなり、景気が大きく落ち込む見通しになれば、政策金利の引き上げにもブレーキがかかる。米国の10年国債金利は、過去10年間は3%前後の水準をピークにしている。ただ、2000年頃は6%超の水準、1990年代は8.5%という水準だった。現在のインフレ率は40年ぶりという水準にあるだけに、今後の米国金利がどこまで上昇するかは、予想が非常に難しいといえよう。 日本の金利をみると、日銀は長期金利を0.25%以上にはしないという方針を堅持している。単純に、現在の日米の金融政策の違いを考えれば、当面は米国の利上げと日本の金利据え置きによる日米金利差の拡大が続くことになる。1ドル=115円から129円までの円安に進んだ材料が「日米金利差の拡大」だったが、そのような大きな円相場の変動が起こり得る状況に変化はないということだ。これから一段の円安に進んでも不思議ではない。 さらに、4月になって米国の1−3月の企業業績が発表されているが、その内容によって株価が極端に大きく動いている。たとえば、4月19日に発表された米『ネットフリックス』の22年1−3月決算では純利益が前年同期比6%減になるとともに、会員数が過去10年で初めてマイナスに転じたことが発表され、株価が前日比26%下落した。4月22日に米国でダウ平均が前日比981ドル安(2.82%安)と急落したが、その中にあって決算が事前予想に届かなかった病院経営の『HCAヘルスケア』は株価が21.8%安、ロボット支援による低侵襲手術「ダ・ヴィンチ・サージカルシステム」を提供する『インテュイティブ・サージカル』が14.3%安と大幅に下落している。悪材料に敏感に反応するようになっている現状には注意が必要だ。米国は、利上げとともに、量的金融緩和も引き締めに転じる方針であり、行き過ぎた株高については是正圧力が強く働くようになっている。 このように米国株価が大きく変動している影響は、個別ファンドの騰落率に及んでいる。たとえば、22年3月末時点での3カ月騰落率は、「国際株式・グローバル・除く日本・為替ヘッジなし」に分類される116ファンドで、最高はプラス59.09%で最低はマイナス18.82%という格差がある。これは、21年12月末時点で3カ月騰落率がプラス13.10%からマイナス13.47%の範囲に収まっていたことと比較しても大きく広がっている。同一カテゴリーに入っているファンド間の格差が広がっていると、選ぶ銘柄を間違えると思わぬ痛手を被る可能性があるということだ。 このように、2022年になってからの投資信託のパフォーマンスは、選択するファンドによって大きな差がつきやすくなっている。海外資産(海外の株式、債券、REITなど)に投資するファンドであれば、為替ヘッジを付けていない限りにおいて、円安による効果がパフォーマンスを支えてくれているが、これがいつまでも続いてくれる保証はない。また、これまでパフォーマンスをけん引してくれていた米国株価についても、個々の企業の業績によっては、大きなマイナスになる銘柄も出始めている。より確かに成長している企業を見極める運用会社の力量が試されている状況になっている。 改めて自分が投資しているファンドが、どんなリスクを取っているのかをチェックしておく必要がある。4月22日までの大きな円安局面は、海外資産に投資している投資家にとっては、ボーナスのような海外資産の評価益になっている。この機会を利用して投資先の見直しやポートフォリオの入れ替えを考えることも1つの方法だ。コロナ禍とウクライナ紛争によって大きく変わりつつある世界の経済の枠組みにフィットした運用のポートフォリオは、どうあるべきなのか、少し長い見通しを考えてみたい。(グラフは、円/ドル相場と先進国株式・債券ファンドのパフォーマンス推移)
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