前のページに戻る
2022/07/27 20:39
CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)、CBOT(シカゴ商品取引所)、NYMEX(ニューヨーク・マーカンタイル取引所)、COMEX(ニューヨーク商品取引所)など世界最大級のデリバティブ取引所を運営する米CMEグループは7月27日、オンラインでメディア向けセミナーを開催し、同グループのエグゼクティブ・ディレクター兼シニアエコノミストのエリック・ノーランド氏(写真)が「世界マクロ経済と地政学的リスクのマーケットへの影響」をテーマに講演した。ノーランド氏は、CMEグループが取り扱う多様な金融商品の値動き等に基づいて世界経済の現状を分析し、「米国の株価は、最近の調整にもかかわらず依然として歴史的に割高な水準にある」「欧州や日本、韓国において天然ガスの価格が大きく上昇しているが、米国は天然ガスの生産国であり日欧とは影響の受け方が違う」など、株価指数先物や商品市場から読み取れる世界経済の現状について解説した。 「金利・債券」「株価指数」「通貨」「農産物」「金属」「エネルギー」など主要な6つのアセットクラスに対するリスク管理と価格発見の機能を提供するCMEグループは、日本事務所を約35年前に開設し、国内の金融機関や投資家に対して情報の提供やリスクヘッジのためのソリューションを提案・提供してきた。CMEグループ日本代表の数原泉氏は、「シカゴの米国債先物市場は米国債の現物市場を凌駕するほどの取引高に成長し、また、株価指数取引についてもCMEグループは23時間稼働している。金融イノベーションに対応し、リスク管理で最先端なサービスを提供したい」と語っていた。 CMEグループのエコノミストチームに所属するエリック・ノーランド氏は、主に世界金融市場の経済分析を担当し、世界の中央銀行ウォッチャーとしても知られている。ノーランド氏はまず、欧州や日本、韓国において天然ガス価格が著しく高騰しているが、米国では天然ガス価格は落ち着いた値動きをしていることを紹介した。「天然ガスを輸入している欧州や日韓と比べると、天然ガスを生産している米国では価格変動に大きな違いがある。これが、各国の金融政策などに異なる影響を与えている」と語り、エネルギー価格の変動に地域差があることに注意を促した。 一方、世界各国で進む「脱炭素」=再生可能エネルギー(太陽光発電や風力発電など)の利用拡大によって、リチウムやコバルト、銅などの産業用金属の価格が高騰している。「太陽光や風力で発電した電気は蓄電池に溜めておく必要があり、この需要は世界的に高まる一方だ。ただ、リチウムなどの採掘(マイニング)や精錬には大量のエネルギーが必要になり、そこでは石炭や石油などの化石燃料が使われる。したがって、産業用金属価格と原油価格は連動する関係にある。脱・化石燃料は、化石燃料に頼っているという矛盾を抱えている」と、様々な商品価格の関連について述べた。 また、「中国の経済成長率とコモディティ価格には強い相関関係がある」と指摘。中国で重要な経済指標とされる「李克強指数(電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資残高をもとに作られた経済指標)」と「商品先物指数」の相関関係が非常に強いこと、また、銅価格は中国の成長率に1年遅れで連動していることなどを紹介。「足元で銅価格が下落基調にあることは、1年後に中国経済が減速することのシグナルであるのかもしれない」という見方を示した。 そして、米国市場の現状について、「米国のインフレ率が非常に高くなっている背景には、コロナ禍で米国政府が大規模な財政支出を行った影響が強く表れていると考えられる。支援の必要性が低い人にまで現金給付を実施した結果、米国の消費マインドはかつてなく高まり、しかも、コロナ禍で体験型の消費ができなかったために、工業製品の消費に資金が向かった」と分析していた。この米国の状況は、日本や中国などアジアの国々とは異なり、それが、インフレ率の差に表れ、金融政策の違いにもつながっていると解説した。そして、米国で金利が上昇する過程では、為替相場でドル高・円安の圧力が続くと見通した。米国では、現在のところ100万人程度の労働力の余力に対して企業側は1140万人もの雇用を必要としている状況で、これが賃上げの圧力として働いている。政府の強烈な財政支出によってトレンドを超えて盛り上がっている消費支出は簡単には下火にならないような状況といえる。 最後に、ここ数カ月は米国株式と米国債券は共に下落しているが、「米国株価のバリュエーション(価値評価)が歴史的な高い水準にある」ことに注意を促した。「米国株価は低金利と量的緩和(QE)によってかつてない割高な水準にある。QEによって『S&P500』はフェアバリューに対して50%程度割高になった」と指摘した。今後、米国の金利が一段と引き上げられ、QEの縮小が進められると、現在のバリュエーションの水準は是正されることになるのだろうか。ノーランド氏は、「引き続き、米国株式や米国債券の下落が続くようであれば、合理的なパフォーマンスを示してきた金(ゴールド)に資金が向かうかもしれない」と語っていた。
ファンドニュース一覧はこちら>>