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2022/08/19 17:00
資産運用の基本は、「長期投資」と「分散投資」といわれる。その考えを実践して長期にわたって良好な運用成績を実現しているのが、公的年金の運用を担っているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)だ。このほど、2022年度第1四半期(2020年4月‐6月期)の運用状況(速報)を発表した。この4半期の運用収益はマイナス3兆7501億円だったが、市場運用開始(2001年度)以来の運用収益率は年率3.56%、運用収益額は101兆6787億円になっている。GPIFの運用を振り返りながら、改めて「長期投資」と「分散投資」の重要性について確認したい。 GPIFの運用は、「儲けるための運用(収益の最大化をめざす運用)」ではない。厚生労働大臣が示す年金積立金の中期的な運用目標を「最低限のリスクで確保する」ことをめざしている。現在のポートフォリオは、2020年4月1日から5カ年の中期目標期間に定められた実質的な運用利回り(運用利回りから名目賃金上昇率を差し引いたもの)の年率1.7%を目指している。基本的な資産構成割合は、「国内債券」25%、「外国債券」25%、「国内株式」25%、「外国株式」25%という均等配分だ。2020年4月1日以前には、2014年11月1日から「国内債券」35%、「外国債券」15%、「国内株式」25%、「外国株式」25%という比率だった。その前は、「国内債券」60%、「外国債券」11%、「国内株式」12%、「外国株式」12%という比率だった。 2014年11月に国内外の株式への投資比率を50%に引き上げ、それまでは運用資産の60%を占めていた「国内債券」での運用比率を徐々に引き下げてきている。リスクを抑えた運用をめざすのであれば、本来であれば2014年10月以前のように「国内債券」を多く保有する運用をしたいところだが、年金積立金の市場運用が始まった2001年度は、ちょうど日銀のゼロ金利政策が再開された時期にあたる。その後、2006年にゼロ金利政策は一旦解除されるが、2008年に世界金融恐慌(リーマン・ショック)が起こると、再びゼロ金利政策に戻り、2016年1月にはマイナス金利に落ち込むなど、超低金利の時代が続いているため、「国内債券」で安定的な収益を獲得することが非常に難しい状況が続いている。 実際に、「国内債券」の収益率は2019年度以来3年度連続でマイナス収益が続いている。四半期ベースでみても、2012年9月から2020年6月までの10年間、40四半期において、「国内債券」は19回で期間リターンがマイナスになっている。これは、「外国債券」の11回、「国内株式」の13回、「外国株式」の10回を大きく上回っている。過去10年にわたって、国内債券は運用の足を引っ張る存在で、その結果として投資比率を段階的に引き下げてきている面もあるだろう。ちなみに、4資産に均等投資を始めた2020年4月以降の4半期収益額の累計金額は、「国内債券」がマイナス1兆3868億円、「外国債券」がプラス5兆612億円、「国内株式」がプラス13兆9740億円、「外国株式」がプラス26兆4800億円という結果になった。過去2年余りの市場では国内外の株式への投資が、資産の成長に大きく寄与した。 このようにみてくると、いっそのこと「国内債券」への投資をゼロにしてしまっても良いのではないかと思えてくる。しかし、ポートフォリオで考える場合、重要なのは投資収益だけではない。その資産のリスクの水準、また、その他の資産との相関関係も重要だ。「国内債券」のリスクは、他の資産と比較して圧倒的に低い。たとえば、GPIFが2020年4月に基本ポートフォリオを変更した際に出したデータでは、過去25年間の市場データを活用し、「国内債券」のリスクは2.56%と割り出している。これは、「外国債券」の11.87%と比較しても十分に低く、「国内株式」の23.14%、「外国株式」の24.85%と比べると圧倒的に低い。そして、相関係数でも、「国内債券」に対して「外国債券」は0.29と低く、「国内株式」はマイナス0.158、「外国株式」は0.105だ。「国内債券」の動きと株式の値動きには、ほとんど関連性がない。「国内株式」は「国内債券」と反対の値動きになっている。これは、「外国債券」に対し「外国株式」が0.585、「国内株式」に対して「外国株式」が0.643と、他の3資産が比較的関連性が高い値動きをすることと比べると異質な存在といえる。 GPIFがめざす「リスクを最小限に抑える」という運用であれば、「国内債券」をゼロにするような選択は難しいと考えられる。しかし、「場合によっては、損失を抱えても良い」と割り切って運用するのであれば、「国内債券」を外して、「外国債券」と国内外の株式のみで運用するという方法もある。このように、リスクの水準を上げて運用する場合でも、購入時期を分けて投資する積立投資を活用することなどによって投資リスクを抑える工夫もできる。 「国内債券」、「外国債券」、「国内株式」、「外国株式」は、伝統4資産といわれ、資産運用のコアとして長く利用されてきた。今では、それぞれの資産を代表する市場インデックスに連動することをめざす「インデックスファンド」が整備され、年0.5%を大きく下回るような運用コストで投資ができるようにもなっている。値動きが大きな「株式」をどの程度組み入れるのか、また、為替相場の変動の影響を受ける「外国」資産をどの程度組み入れるのかということは、万人に適用できるような正解はない。保有価格から5%下落するだけで「怖い」と感じる人もいれば、10%下がっても平気で、むしろ、「絶好の買い場が来た」と追加投資に踏み切る人もいる。このようなリスクに対する耐性を「リスク許容度」というが、この「リスク許容度」は、人ぞれぞれに異なる。「リスク許容度」の範囲内に、運用ポートフォリオのリスク水準が収まるようにしたい。自身の「リスク許容度」を超えて資産が目減りしてしまうと、運用に対する恐怖心が強くなり、運用を継続することができなくなってしまうからだ。 GPIFの運用報告をみると、「国内株式」や「外国株式」は、3カ月間で20%下落することがある。反対に20%程度上昇することもある。「外国債券」は、13%上昇することもあれば、8%以上下落することもある。それぞれの値動きの傾向を見極めた上で、納得のできる運用ポートフォリオを組みたい。大切なことは、自身の耐え得る「リスク許容度」にふさわしいポートフォリオを作って、長期に継続して投資を続けることだ。GPIFも半年、1年という期間では損失を計上することもあるが、10年、20年という長期のパフォーマンスでは着実に運用収益を重ねている。GPIFに見習って長期の運用をめざしたい。(グラフは、GPIFの四半期ごとの資産別運用収益率の推移)
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