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2022/08/23 18:00
中国の株式市場が低迷している。厳格な「ゼロコロナ政策」によってたびたび都市封鎖(ロックダウン)が実施されていることに加え、恒大グループなど不動産関係の経営不安、さらに、異常な熱波による水不足で四川省の水力発電能力が減退し電力の供給不足に陥るなど、様々な難題が山積し、景気の先行きが不透明なためだ。中国人民銀行(中央銀行)は、22日に銀行貸出金利の指標となる最優遇貸出金利の引き下げ(1年物は3.70%を3.65%、5年物は4.45%を4.30%)など、金融緩和による景気刺激策を打ち出しているが、株式市場の反応は限定的だ。このような厳しい市場環境の中で、「チャイナ脱炭素イノベーション株式ファンド」の基準価額は6月に設定来の最高を記録している。同ファンドが注目する「中国の脱炭素」の成長力に注目したい。 中国の株式市場の代表的な株価指数である上海総合指数は年初に3600ポイント台でスタートし、4月には安値2886ポイントを付け、現在は3270ポイント近辺に戻ってきた。それでも年初からの騰落率はマイナス9.99%になっている。中国株式市場は、2021年がほぼ横ばいに推移し、22年になって下落しているため、低迷が長引いている印象が強くなっている。中でも、アリババやテンセントなどに代表されるハイテク株は、中国当局の厳しい規制によって従来と同じような成長が難しくなっているような印象を受け、株価の低迷も深刻な状態だ。 このような株価の低迷を受け、中国当局による景気支援策が次々に発表されている。中国人民銀行は4月に預金準備率を引き下げ、5月に最優遇貸出レートも引き下げた。今回の最優遇貸出レート引き下げは5月の引き下げに追加したものだ。そして、中国政府は5月末に6分野33項目にわたる景気支援策を発表した。新型コロナウイルス関連規制で打撃を受けた産業を対象に社会保障費の支払いの延期を認める一方、地方自治体に対して自動車購入規制を拡大しないように指示。小型エンジン車の購入税を半分に引き下げる方針も示した。さらに、クラウドコンピューティング、人工知能(AI)、ブロックチェーン技術などでプラットフォーム企業に対する規制緩和の方針も発表した。加えて、民間投資やインフラ投資を拡大することで自動車や家電の購入を刺激するなど、幅広い産業に恩恵が及ぶ対策が示された。 中国の脱炭素への取り組みについて、「チャイナ脱炭素イノベーション株式ファンド」は8月8日にレポートを出している。同ファンドの投資顧問会社である日興アセットマネジメント アジア リミテッドと、マザーファンドの運用に助言する日興アセットマネジメント ホンコン リミテッドのコメントに基づいたレポートだ。 まず、脱炭素の象徴的な存在の1つである「新エネルギー車」の分野では、すでに世界の市場ではEV(電気自動車)大手の米テスラの時価総額が20年7月にトヨタを抜いて世界一になるなど、産業界の新しいリーダーとしての期待が高まっている。レポートは「中国のEVは今や、技術面でも先進国に迫る水準へと成長しつつあるほか、高い生産能力や価格競争力、加えて、国内の巨大な消費市場を背景に世界的な競争力を高めている」とする。実際に、米テスラと中国のEV最大手のBYDの新エネ車販売台数の推移を比較すると、2020年1−3月期はテスラの圧倒的な勝利だったが、2021年10−12月期にはBYDがテスラに肉薄し、2022年4−6月期ではテスラの販売台数をBYDが上回っている。中国政府のEV普及への意思も強く、今後の振興策が期待されることも中国EVメーカーやバッテリー、自動車部品メーカーには追い風だ。 また、太陽光発電(PV)分野は、中国が世界の太陽光パネル製造の8割超を握る戦略市場とあって、政府の支援にも力が入る。中国政府は、今年6月に第14次5カ年計画(21〜25年)における再生可能エネルギー発展計画を策定し、風力・太陽光発電量の倍増目標を打ち出した。中国国家エネルギー局は2022年のPV新規導入容量が前年比96%増になると予想している。中国企業にとって欧州は最大級の輸出先であり、ウクライナ問題が引き起こしたエネルギー危機が、欧州における再生可能エネルギーへの移行を加速させると見込まれ、中国のPV関連企業群にビジネスチャンスが広がると期待されている。 レポートでは、「『脱炭素』は、米中が協働可能な数少ない分野の1つ。米国の(脱炭素)計画実現には、中国企業の力が不可欠」とみている。既に、米国は東南アジア4カ国から輸入する太陽電池やモジュールなどPV関連製品について2年間の関税免除を決定しているが、これら製品の原材料や部品の多くは中国製であり、米国政府の決定も中国企業にとって追い風になっている。ハイテク分野には米中貿易摩擦の影響が強く感じられ、それが中国ハイテク株の低迷にもつながっているが、「脱炭素」については、「ハイテク摩擦」ほどの米中の対立は起きにくい構造であることも安心感といえる。 中国経済全体の先行きは依然として不透明といえ、中国株投資を前向きに検討することは難しい状況といえるのかもしれない。ただ、全体的には厳しい中にあっても、一部の企業は成長を続けることができるというのは、よくあることだ。現在の中国において、その成長機会に恵まれているのは、「脱炭素」の関連企業といえるのかもしれない。日興アセットの運用チームは、「チャイナ脱炭素イノベーション株式ファンド」に組み入れている上位10銘柄(2022年6月末時点)と、その他の中国企業について、2021年実績値〜24年予想EPS(1株当たり利益)の年平均成長率を比較している。中国大型株指数である「CSI300」の採用銘柄は14.3%、中国ハイテク株を象徴する「チャイネクスト指数」が29.4%に対し、同ファンドの組み入れ上位10銘柄の平均は36.9%という高い成長が期待できるという。これは、米国株の「S&P500」の8.0%と比較すると圧倒的な差になる。この成長期待の高さこそ、同ファンドのパフォーマンスへの期待になる。将来性豊かな同ファンドに注目したい。(グラフは、「チャイナ脱炭素イノベーション株式ファンド」の過去1年間のパフォーマンス推移)
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