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2022/08/25 17:57
今週、にわかに「NISA(少額投資非課税制度)」が話題になった。23日には、ツイッターのトレンドに「NISA」があがり、新聞報道によって「NISAの投資上限の引き上げ」と「恒久化」が検討されていることが広く情報共有されていた。新聞報道は、金融庁が2023年度の税制改正に向けて、NISAの制度拡充を改正要望に盛り込む見通しというものだった。各省庁は例年8月末に次年度の税制改正要望を発表するが、今回の報道は、その内容についての事前予測だった。折しも、岸田内閣が政策の柱の1つとして「資産所得倍増プラン」を打ち出した後だけに、証券界が長年の悲願としてきた「NISAの拡充・恒久化」が今回こそは実現できるのではないかと期待されている。 「資産倍増」という言葉で連想されるのは、「72の法則」だ。これは、お金が2倍になる期間を運用利回りで割り出す方法として知られている。たとえば、年3%で運用できる商品があるとすると、現在のお金が2倍になるために必要な期間は、「72÷3=24」と計算できて、24年ということになる。同様に、年利5%の商品があれば、「72÷5=14.4(年)」であり、年利7%であれば、「72÷7=10.28(年)」ということになる。この法則には、複利の考え方が取り入れられている。金利の水準が上がるほどに資産を2倍にするために必要な期間は加速度的に短くなり、金利の水準が低くなるほどに期間は加速度的に伸びていく。たとえば、現在の定期預金金利(1年〜10年)の0.002%で資産を2倍にするために必要な期間を計算すると、3万6000年になる。とても人類がたどり着ける年数ではない。 この「72の法則」で「NISA」の効果について考えると、「NISA」では運用収益の20%課税が免除されるため、たとえば、「NISA」を使わないと年率3%で運用できる商品でも実際には20%低い2.4%(=3×0.8)で運用することになる。年3%の運用で2倍になるには24年かかったが、これが実際には年2.4%として計算しなければならないとなると、2倍になるために30年間が必要ということになる。6年の差は、決して小さいとはいえない。同様に、年5%の運用商品は、20%課税を考慮すると実質は「年4%」となり、年7%は「年5.6%」が実質利回りということになる。「NISA」の枠は現在は年間120万円、「つみたてNISA」では年間40万円と決して大きな枠ではないが、NISAの枠が使えるのであれば、積極的に活用したい。 一方、この「72の法則」は、今ある資金を一括投資をした場合の「資産倍増」を測るモノサシであるため、これから資産を作っていく人や、「つみたてNISA」を使っている人にはピンとこない。「つみたてNISA」を活用するなど、積立投資をしている人にとって「一括投資における72の法則」と同等に意味のある指標は、「積立投資の元本が2倍になるまでの期間」ではないだろうか。この要求に対し、慶應義塾大学の理工学部の枇々木規雄(ひびき・のりお)教授が日本FP学会のニュースレター(2021年12月15日)で「126の法則(126ルール)」を提案している。「72の法則」と同じように、「年数×利率=126」で、毎月の積立投資の元本が2倍になる期間を求めることができる。たとえば、年3%で運用できれば、「126÷3=42」で42年間で元本の2倍が実現できる。毎月1万円を積み立てた場合、42年間で元本は504万円であるため、年3%で運用ができれば、積立投資の収益合計金額は504×2=1008万円になっている。「老後2000万円問題」を解決するためには、毎月2万円の積立を実行して年3%の運用収益がある商品を購入すれば良いということだ。 枇々木教授は、元本が2倍になる「126ルール」だけではなく、元本が3倍になる「190ルール」、また、元本が1.5倍になる「76ルール」なども提案している。いずれも概算値を導き出すものだが、積立投資の計画を立てる際には参考になる。 これらのシミュレーション結果は、年3%程度以上の運用利回りが見込めないと、現実的な運用期間にならない。「72の法則」を使って一括投資であれば、年2%で36年投資は現実的な期間といえるが、積立投資の「126の法則」では63年の積立期間となってしまうからだ。そこで問題になるのが、年3%以上の運用利回りが期待できる金融商品が実在するのかという問題になる。預貯金のような投資リスクがない商品は年利回りが依然として0.0%台だ。国債利回りも10年で0.23%にしかならない。「資産倍増計画」を実行しようとすると、「株式」などのリスク資産を組み入れた運用が不可欠といえる。たとえば、国内投資信託で過去10年間の年率トータルリターンが最も高かったのは「DIAM新興市場日本株ファンド」で年29.60%になっている。新興市場株式よりもリスク水準を抑えた不動産投信(J−REIT)で運用する「J−REITオープン(年4回決算型)」は10年(年率)13.49%で運用ができた。国際株式を投資対象とした「野村 世界業種別投資シリーズ(半導体)」は10年(年率)24.29%だ。 このように極端に高いリターンを残したファンドでなくても、年3%以上のパフォーマンスを残しているファンドは少なくない。身近なところで、日経平均株価に連動することをめざす「朝日ライフ 日経平均ファンド」の10年(年率)リターンは13.69%になっている。もちろん、これらの成績は、過去のものであり、将来も同じようなリターンがあげられるという保証はない。また、実際の投資にあたって運用期間が40年ほど取ることができる場合は、新興市場株式などのように年20%を超えるリスクのある商品ではなく、リスクの低い債券などと組み合わせたバランス型を購入するという方法もある。年3%以上の収益が安定して期待できれば、40年で投資元本を2倍にすることができる。 「資産倍増」という計画を考える時に、株式等のリスク商品に手軽に投資できる投資信託(投信=ファンド)の活用は必須であり、かつ、「NISA」による非課税枠の拡充や長期の投資期間の確保が望ましい。これから年末にかけて、具体的に議論が進む「NISA」制度の行方に注目していきたい。(グラフは、「朝日ライフ 日経平均ファンド」を使った20年間の積立投資シミュレーション)
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