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2022/09/08 16:51
中国を「高い成長が期待できる新興国市場」というポジティブな見方をする人は、ほとんどいなくなってしまったようだ。むしろ、米中貿易摩擦で米国と対立し、外交ではウクライナに侵攻したロシアと親しいために西側諸国との間に溝があり、さらに国内においては、不動産不況を抱える中で、「ゼロコロナ政策」の徹底によって未だにロックダウン(都市封鎖)を繰り返し経済的な停滞にあえいでいるというネガティブな印象が強い国になってしまっている。ところが、中国現地で調査活動を行っているイーストスプリング・インベストメント・マネジメント(上海)カンパニー・リミテッドの株式運用部門ヘッドであるMichell Qi氏は、このほど「中国A株市場:回復局面に向けて」と題したレポートを発表し、「今年後半に向け、中国A株(人民元建ての中国本土株式)には、説得力のあるポジティブな材料がある」としている。 Qi氏が注目を促すのは、「中国はインフレが抑制されているため、資金調達コストは低く抑えられ、利上げが行われている他の多くの国とは対照的な状況にある」ということ。さらに、「中国は世界がインフレと商品価格の上昇の最中にある中、新興国では珍しく経常黒字を維持している」にもかかわらず、中国市場への評価は高くないと注意を促している。「上海、または、深セン証券取引所上場のA株の主要銘柄で構成されるCSI300指数は、(バリュエーション水準が)過去の平均値付近で推移しており、上昇余地を残し魅力的な水準にある」とする。 この中国A株の現在の株価の水準を理解するため、イーストスプリング・インベストメンツが設定・運用するファンド「イーストスプリング・グローイング・アジア株式」と、中国A株を主要な投資対象とする代表的な中国A株ファンド(「日興AM 中国A株ファンド」「三井住友・A株メインランド・チャイナ・オープン」「UBS中国A株ファンド」)の過去1年間のトータルリターンの推移をみた。「イーストスプリング・グローイング・アジア株式」は日本を除くアジア地域の株式を投資対象とし、中国とインドの株式に45%、ASEAN地域の株式に55%という基本投資割合で投資するファンドだ。このファンドが8月末現在で1年間のトータルリターンが15.3%であることに対し、中国A株に投資するファンドは、「日興AM 中国A株ファンド」がマイナス9.41%、「三井住友・A株メインランド・チャイナ・オープン」がマイナス3.67%、「UBS中国A株ファンド」がプラス0.01%となっている。 中国を除くアジアの国々は、新型コロナウイルスの感染を抑制しつつ経済の再開を進めているが、中国だけは頑なに「ゼロコロナ」というコロナ感染の封じ込めを優先しているという経済状況の違いが、株価にも表れているように見える。Qi氏はレポートで、「中国経済の回復は、不動産セクターと中国政府の『ゼロコロナ』政策の行方に大きく依存する」と見通している。Qi氏が中国A株市場に期待が持てるのは、この2つの懸念材料が良い方向に向かって動いていると考えられるためだ。 まず、不動産セクターについては、現在、中国全土で住宅購入者が住宅ローンの支払いを拒否し、93都市の300以上の不動産プロジェクトが影響を受けている。この住宅ローンの支払い拒否の総額は、中国の大手銀行14行の住宅ローン融資残高の約3%を占める規模になっている。現在、中国政府は不動産開発業者の流動性問題を支援するため、最大440億米ドル規模の不動産ファンドを立ち上げる計画を進めている。Qi氏は、この問題について「住宅購入者が住宅ローンを支払えないことよりも、不動産開発業者が不動産プロジェクトを遂行できないのではという懸念が住宅購入者の間に広がったことが引き金になったことに注目している」という。このため、中国政府の不動産ファンドの設立に向けた動きは正しい対応といえ、今後、不動産市場の正常化に向けた対策も期待できるとしている。その上で、「中国の住宅市場は2022年第3四半期に底を打ち、第4四半期、または、2023年第1四半期には本格的な回復に向かう」と見通している。 一方、中国政府の「ゼロコロナ」政策については、「検疫要件や中国への渡航制限に関する最近の緩やかな緩和、検査頻度の低下は、中国政府が新型コロナウイルスの感染状況に応じて柔軟にその対応を調整する姿勢があることを示唆している」とし、「中国は感染症の発生をより積極的に監視することで、本年4−5月に見られたような混乱を避けることができると考えている」という。このことによって、中国A株市場に期待できる環境が整ってきたとみている。 そのうえで、「中国A株市場は、H株市場と比較した場合、構成銘柄のセクターが製造業に傾斜した市場であり、現在、中国政府がグリーン・イニシャティブ(気候変動対策)、テクノロジー自給率向上、自動化、デジタル化を通じて自国の製造業の発展に注力していることから恩恵を受ける」とし、「電気自動車(EV)やバッテリーのサプライチェーンに関わる企業や、ソーラーパネル、家電製品、半導体、革新的な医薬品の製造に関わる企業に魅力的な投資機会が期待できる」とまとめている。 中国の本土企業であるA株は、中国政府の政策の影響を受けやすい。グローバル市場である香港株とは異なる値動きをする市場だ。そして、米中貿易摩擦が大きな問題になっているように、中国は米国への対抗軸といえる経済圏を形づくる国でもある。今年になって強く意識されるようになってきた米国株リスクの分散を図るという考え方でも、中国A株への投資は考慮してもよいタイミングを迎えているのかもしれない。(グラフは、中国A株ファンドのトータルリターンの推移)
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