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2022/09/09 19:15
9月8日に財務省・日銀・金融庁が臨時の3者協議を行い、神田真人財務官が「為替市場において必要な対応をとる準備がある」と発言。9日には日銀の黒田東彦総裁が岸田文雄首相と会談し、その後に記者団に「急激な為替レートの変動は好ましくない」と発言するなど、矢継ぎ早に円安進行に警戒する発言を金融当局の責任者が発したことで、一時は1ドル=145円近辺まで進んだドル高・円安にブレーキがかかった。ECB(欧州中央銀行)も8日に政策金利をユーロ誕生(1999年)以降初めて0.75%利上げし、インフレを抑制するために、さらなる利上げの可能性を強調した。その結果、ユーロ円も1ユーロ=144円台半ばまでユーロ高・円安が進んだ。日米欧の主要3通貨の中で、円の独歩安が続き、欧米の株式や債券に投資するファンドでは、「為替ヘッジあり」と「為替ヘッジなし」の間で格差が広がっている。 為替変動の影響は、米ドル建て資産を投資対象にしたファンドで大きい。たとえば、8月末基準で「フィデリティ・米国優良株・ファンド」の為替ヘッジなしの過去1年間のトータルリターンはプラス8.04%だが、「フィデリティ・米国優良株・ファンド(為替ヘッジあり)」はマイナス15.73%となっている。為替の変動を考慮せずに、米国現地通貨ベースで投資していた場合の運用成績は、「為替ヘッジあり」のマイナス15.73%に近い成績だったものが、急速に進んだドル高・円安のために、「為替ヘッジなし」の場合は、運用成績がプラス圏に浮上している。同様に、米国債券でみても、「フィデリティ・USハイ・イールドファンド」は為替ヘッジなしで過去1年のトータルリターンがプラス15.56%だが、「フィデリティ・USハイ・イールドファンド(為替ヘッジあり)」はマイナス9.24%に沈んでしまう。 また、欧州資産に投資している場合にも、「欧州アクティブ株式オープン(為替ヘッなし)」の場合、1年トータルリターンはマイナス13.44%だが、同ファンドの「為替ヘッジあり」ではマイナス18.89%と、為替のユーロ高・円安の影響で「為替ヘッジなし」のパフォーマンスが優位にある。ユーロ債券で為替へっじありと無しのファンドを揃えている事例が見当たらないが(そもそも欧州債券ファンドで為替ヘッジありのファンド数が少ない)、ユーロ圏と英国の債券に資産の50%程度を投資(その他は米国債券)する「グローバル・ハイブリッド・プレミア」では、為替ヘッジなしが1年トータルリターンがプラス3.47%のところ、為替ヘッジありだとマイナス10.81%になってしまう。 米国株式や米国債券、あるいは、欧州株式や欧州債券などで同じように運用していても、為替のヘッジの有り無しの違いだけで、目を疑いたくなるほどにパフォーマンスに差がついてしまっている。米国資産と欧州資産で、為替ヘッジの有り無しの間でパフォーマンスの差異が大きく違うのは、日米と日欧の金利差の格差の大きさによって、為替の変動率に差があるためだ。日本の政策金利はマイナス0.10%だが、米国は2.25%〜2。50%で、9月の政策決定会合で0.75%の再利上げを行うことが有力視され、そうなると、3.00%〜3.25%になる。ユーロ圏の政策金利は9月8日の利上げで1.25%になった。ECBは今後も利上げを続ける意向を示しており、日本との金利格差は一段と拡大する見通しだ。 一般的に為替の変動は予測が難しいことから、中長期の資産形成を目指す運用では「為替は中立要因」とみるケースが多く、為替ヘッジの有り無しよりも、「どのような運用戦略か?」、「どのような運用資産か?」ということを重要視する傾向がある。ただ、現在の為替変動においては、先に事例を示したように、為替変動が大きなパフォーマンス格差の要因になっている。日銀の姿勢が変わらない限り、現在の日米欧の金利格差は拡大する方向にある。日本円が米欧通貨に対して下落しやすい状況が続くことが考えられる。 既に1年以上にわたって続いている「日本円独歩安」の状況が、今後も継続するとなると、これからのファンド選びにおいて、為替変動のパフォーマンスへの影響は無視できないことになろう。現下の状況も踏まえ、欧米の資産を投資対象にしたファンドを選択する場合は、為替ヘッジの有り無しにも十分配慮して投資ファンドを選ぶようにしたい。(グラフは欧米の株式を対象にしたファンドの為替ヘッジ有り無しでのパフォーマンスの違い)
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