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2022/09/12 17:06
「破壊的イノベーション(Disruptive Innovation)」という言葉を覚えている人は多いだろう。「コロナ・ショック」(2020年3月)による急落から、急速に株式市場が出直る時に、その中心にあったのが「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」と「破壊的イノベーション」だった。「破壊的イノベーション」の象徴は「Tesla」だった。短期間に株価が数倍に急騰し、市場の耳目を集めた。しかし、米国の金融政策が引締め(利上げ)に転換した2022年、「破壊的イノベーション」で活躍していた米国のハイテク成長株が大幅に下落してしまった。2020年当時に「破壊的イノベーション」というキーワードで投信(ファンド)を購入した投資家は、「破壊的イノベーション」という言葉には耳をふさぎたくなるほどネガティブな印象しかないのかもしれない。改めて、その関連ファンドの現状を見直してみたい。 「破壊的イノベーション」という言葉を投信市場に広めたのは、日興アセットマネジメントといっていいだろう。米国でハイテク分野を専門に調査している運用会社ARK(アーク)社を発掘し、アーク社を投資助言に迎えて複数のファンドを組成してきた。中でも、「破壊的イノベーション」を真正面に捉えたファンド「グローバル・プロスペクティブ・ファンド」は、2019年6月に設定し、1年半余り経過した2021年2月には基準価額が3万円を超え、運用資産残高は1兆円を超える巨大ファンドに成長した。このファンドのめざましい成功が、投信業界に「破壊的イノベーション」という言葉の流行にまでつながった。多くのファンドが「破壊的イノベーション」に着目したファンドとして設定された。 「破壊的イノベーション」という言葉を作ったのは、米ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授といわれている。1997年に出した著作「The Innovator’s Dilemma(イノベーションのジレンマ)」の中で、「破壊的イノベーション」の概念を提唱した。それは、「新たなテクノロジー等を活用することにより、既存の製品や市場に破壊的な影響をもたらすイノベーション」というものだ。「コロナ禍」で外出が制限され、密接な人との接触が禁止される中で、オンライン会議システムの「Zoom」などを使って非接触で会議を行い、また、医師らが患者と面談し、オンラインで学校の授業を行うなどの動きは、正に既存の社会通念を覆すような出来事だった。ガソリンなど化石燃料を一切使わないEV(電気自動車)や、人間に代わって機械が物事を考える人工知能(AI)や自動運転技術など、これまでは「夢」や「マンガの世界」と思われていたようなことが、技術革新(イノベーション)によって次々に現実になっていくようなことを指している。 英フィナンシャル・タイムズ誌が2014年を「Year of Didruption」と呼ぶなど、欧米では2010年代には一般にも知られるような概念になっていたようだ。日本でも、日興アセットマネジメントがアーク社と組んだ第1号ファンド「グローバル・フィンテック株式ファンド」を設定したのは2016年12月のことだった。この時から「破壊的イノベーション」という言葉が登場している。その後、「グローバル・モビリティ・サービス株式ファンド」(2018年1月)、「グローバル・スペース株式ファンド」(2018年8月)、「グローバル全生物ゲノム株式ファンド」(2019年1月)と続き、「グローバル・プロスペクティブ・ファンド」を設定した後にも「デジタル・トランスフォーメーション株式ファンド」を2020年7月に新設している。 ARK社が毎年まとめている破壊的イノベーションについてのレポート「Big Ideas」の2022年版には、「人口知能(AI)、ロボティクス、エネルギー貯蔵、DNAシーケンシング、ブロックチェーン技術という5つのイノベーション・プラットフォームが、同時に進化しながら融合していく」という見通しが示されている。そして、破壊的イノベーション・テクノロジーに関連する企業価値は、2020年に14兆米ドルだったものが、2030年には210兆米ドルに達すると試算し、現在を「(破壊的イノベーション・テクノロジーが)最盛期を迎えようとしている」と読み解いている。 ファンドの運用成績をみると、「グローバル・プロスペクティブ・ファンド」は8月末現在で過去1年間のトータルリターンがマイナス56.78%だ。この間の米株価指数「S&P500(配当込み、円ベース)」がプラス12.70%なので、比較にならないほど負けている。ただ、過去3年間(年率)トータルリターンは5.54%であり、決してマイナスではない。「S&P500」は3年(年率)トータルリターンが23.08%であるため、比較すると大きく負けているが、日本株の「TOPIX」の3年(年率)トータルリターンは9.10%、「日本を除く外国債券(為替ヘッジなし)」の同4.04%などと比較すると検討しているという見方もできる。投資対象のリスクを考えると、高いリスクをとった割にはリターンが大きく得られなかったという結果になっているが、それでも3年間という期間を考えればマイナスではなかったという点は評価できるのではないだろうか。 ARK社の「Big Ideas 2022」で言及されているように、テクノロジーの変化が、社会を変え、それが、企業業績にまで及んでくるのは、1年、2年という期間で具体化するものではないだろう。5年、10年という期間を経て、徐々に変化が現れ、10年を振り返ってみると、非常に大きな変化になったと実感できるような変化を見通しているようにみえる。2020年以降には、様々なテクノロジーの進化に着目した成長株ファンドが次々に登場し、それらは等しく、2022年の米国利上げによって運用成績が悪いファンドになっている。これらファンドの評価は、1年や3年ではなく、5年、10年という中長期の成績で評価する姿勢が肝要ではないだろうか。(グラフは、「グローバル・プロスペクティブ・ファンド」の3年間のトータルリターンの推移)
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