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2022/09/14 14:06
株式ファンドを選択する時に重要なことは、投資先企業に持続的な利益成長の期待がもてるかどうかだ。国別に考えると、人口が増え続け、若い労働力が豊富な国ほど持続的な成長が期待できる国とみなすことができるだろう。米国を除く先進国は概ね高齢化と少子化の問題を抱え、国家としての成長力が鈍ってきているが、それとは対照的に新興国には若い労働力が豊富で人口の伸び率も著しい国が多く存在する。今では、成長のフロンティアをアフリカに求めようという動きもあるが、株式市場としての流動性などの観点から現実的な選択肢になりえるのは、「BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)」に代表される国々だ。その中でひときわインドに注目が高まっている。改めて、インドの現状と、インド株式に投資するファンドについて検証してみたい。 ウエルスアドバイザーのカテゴリーで、「国際株式・インド」(為替ヘッジあり・なし)に区分されるファンドは31本ある(全てが為替ヘッジなし)。最大のファンドが「野村 インド株投資」で残高が約2882億円。次いで、「イーストスプリング・インド株式オープン」で残高が約909億円だ。同様に、「中国」は46本、「ブラジル」は15本、「ロシア」は5本なので、「BRICs」の中では、単独国の投資先として比較的選択肢が多く存在する国といえる。また、カテゴリーで最大ファンドの直近3年間(年率)のパフォーマンスをみると、「ロシア」はマイナス24.9%、「ブラジル」はマイナス2.21%、「中国」は25.4%に対し、「インド」は16.90%だ。 ただ、「インド」と「中国」について、過去1年の動きを比較すると、「インド」の優位性が際立ってくる。たとえば、過去1年間のパフォーマンスは、「中国」で残高トップの「深セン・イノベーション株式ファンド(1年決算型)」がマイナス15.67%に対し、「インド」で残高トップの「野村 インド株投資」はプラス11.46%、第10位の「イーストスプリング・インド消費関連ファンド」はプラス31.02%になる。低迷する中国と伸長するインドのコントラストが際立っている。 インドの好調を支えているのは、世界最大規模の人口とその平均年齢の若さからくる「人口ボーナス(生産年齢人口が従属人口を大きく上回り、活発な個人消費や社会保障費の抑制によって経済が成長する)」と、モディ政権が進める巨大な民主主義経済におけるデジタル化の推進による成長期待だ。人口については、国連の推計によるとインドは2023年に中国を上回り、世界最多になる見通しだ。国連はインドについて2020年の人口の67%が15〜64歳までの生産年齢人口だったとし、生産年齢人口の割合がピークを迎える2020年〜2030年の間には1億100万人、2030〜2050年の間にはさらに8200万人が生産年齢人口に新たに加わると予想している。このように若い就労人口が増大することによって、インド経済には旺盛な消費市場が生まれることが期待される。 また、経済政策の点では、モディ首相は8月15日の独立記念日の演説で「独立100周年を迎える今後25年で発展を遂げ、先進国入りをめざす」と宣言した。この宣言によって明らかなように、これからの25年間がインドにとって大きな成長の期待が高まる期間といえそうだ。 このインド経済の現状について、イーストスプリング・インベストメンツが9月13日にレポートを発表している。シンガポール拠点のポートフォリオ・マネジャーであるAnand Gupta氏による報告で、「インド経済の回復力と長期的に有利な様々な条件を有している点を考慮すると、投資家は次の投資先として改めてインドを検討する必要があるかもしれない」と結論している。 Gupta氏が指摘する「長期的に有利な様々な条件」とは、たとえば、インドの輸出はGDP(国内総生産)の20%未満で、「世界経済の需要減速の直接的な影響を受けにくい」という特性がある。また、インドの輸出(宝飾品を除く)は、需要の急激な落ち込みが起こりにくい医薬品やITサービスが中心になっていることもインド経済の強靭さ(レジリエンス)の理由の1つになっていると指摘する。また、インド政府の生産連動型優遇策(PLI)は、対象となる製造業に対し4〜6年間にわたり基準年からの売り上げ増加額に対し、4〜6%のインセンティブが提供されるもので、2020年3月に開始され、2022年8月までに327社が承認を受けている。対象企業は、自動車および自動車部品、電子機器およびITハードウェア、通信、医薬品、太陽電池モジュール、金属および鉱業、繊維およびアパレル、白物家電、ドローン、先端化学セルバッテリーなど14分野となっており、これらが拡大する生産年齢人口の就業の受け皿として成長していくと期待されている。 一方、足元の状況についても、米国の利上げ等の影響もあってインドも政策金利の引き上げ(2022年8月に政策金利であるレポ金利を4.9%から5.4%へと0.50%引き上げ)を実施しているが、「実質金利はまだマイナス2%前後のマイナス圏に沈んでいる」ことに注目するように指摘し、「金融環境には、まだ景気回復を阻害するほどの過度な制約が無く、自由度がある」とする。ちなみに、インドの企業債務は現在、GDPの50%未満であり、近年は減少している。これは、インドが政策金利を引き上げで正常化をめざす中で、企業業績等への影響が抑えられる重要なポイントといえる。また、インドのインフレ率は7月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比6.7%と6月の7.0%から低下するなど、落ち着いてきている。インドでは現在、電子商取引市場が急拡大しており、先進国などでも電子商取引の台頭が物価にデフレ的な影響を与えたことと同様の現象が今、インドで起きていると推察されている。物価上昇が抑えられれば、金利の引き上げに過度に恐れる必要がなくなり、インドの景気回復が順調に進むと期待される。 Gupta氏は、このレポートで「これまでインドは投資家がアジアでの単独国別配分を検討する際に優先的な投資先ではなかったかもしれない」としながら、その考え方を見直す必要があるのではないかと伝えている。幸い、インドに焦点をあてて投資するファンドは30本以上あり、その内容も通常のアクティブファンドから、「消費関連」、「中小型株」、「インフラ関連」など様々な選択肢もある。世界的に株式市場の先行きが不透明でたびたび急落を経験する中で、比較的しっかりとした上昇相場を続けるインド株ファンドに注目したい。(グラフは、インド株を主要な投資対象とした主なファンドの過去3年間のトータルリターンの推移)
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