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2022/09/15 17:33
2022年は、近年で退職することが最も困難な年になる可能性がある――運用資産総額が約1.1兆ドルになる世界最大級の資産運用会社であるナティクシス・インベストメント・マネージャーズが発表した「2022年グローバル・リタイヤメント・インデックス調査」が報告している。「今年はインフレ率が急騰し、退職者の購買力を低下させている」ことに加え、「退職者は既に減少した資産を取り崩すことで収入を得ているだけでなく、資産額を回復させるために、より大きなリスクのポートフォリオで資産を運用せざるを得なくなる」とする。同指数は、退職後の経済的な安定を支える要因を検証し、人々が健康で安心して退職後の生活を送るために不可欠な主要指標を組み合わせて設計された指数になっている。日本の退職後の豊かさは、調査対象の44カ国中で22位で前年比横ばい。トップは、ノルウェーで、第2位がスイス、第3位はアイスランドになっている。 「グローバル・リタイヤメント・インデックス」は、国際通貨基金(IMF)に加盟する先進国、経済協力開発機構(OECD)加盟国、および、BRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)という44カ国を対象にしている。4つの指数があり、退職後の豊かさに関する18の指標から構成されている。調査員が各カテゴリー内の中央値を計算し、カテゴリーの合計値を元に調査対象となった全44カ国の総合順位を作成している。同指数は、ナティクシス・インベストメント・マネージャーズが、英国の金融調査会社のCoreData Researchの協力を得て作成している。今年で指数作成は10周年を迎えた。 4つの指標と18の調査項目は、以下の通り。(1)健康指数:平均寿命、国民1人当たりの医療費支出、保険外医療費、(2)退職後の資金指数:老年人口老齢者依存、銀行の不良債権、インフレ、金利、税負担、ガバナンス、政府債務、(3)生活の質指数:幸福度、大気質、水と衛生、生物多様性と生息地、環境要因、(4)物質的な豊かさ指数:所得の平等、国民1人当たりの所得、失業率。 同指数で、「今年の退職者が最も困難」とする根拠の1つであるインフレ率は、過去10年間を通して極めて低い水準で推移していた。2012年から2022年までのOECD加盟38カ国のインフレ率は平均で1.76%だったが、2022年上半期には38カ国のインフレ率は急騰し、22年5月には9.6%を記録した。このような物価上昇は、退職後の生活設計を根本的に見直すことを迫る。そして、世界の金融専門家は、「インフレの影響を過小評価することは、投資家が退職後の生活設計において犯す最大の誤りである」と指摘しているという。 さらに、将来に目を向けると、退職後の安定した生活は、ますます厳しくなっていくと同レポートは予測する。たとえば、「OECDは、65歳以上の人口は2050年までに17%から27%に増加し、退職後の安定した生活への負担が増大し、医療や長期介護制度にさらに圧力がかかる」と予測している。そして、栄養、医療、環境の状況の改善が長寿化に寄与する一方で、出生率の低下が人口全体の高齢化を加速させるため、若年人口の多い地域さえ、近い将来困難に直面する可能性があり、「2022年の中国と中南米は、この状況にある」と指摘する。 加えて、退職金や医療手当の給付は、2020年時点で先進国において226兆ドルに膨れ上がった公的債務の返済義務という制約を受けるため、高齢化が進行する中、政策決定者の選択肢は限られたものになる。「政府は財源不足を補うため、いずれも有権者に不人気な所得税の引き上げ、定年の引き上げ、給付や手当の減額のいずれかを選択せざるをえないかもしれない」と見通している。 日本の退職後の生活への評価は、昨年からほとんど変化がない。4つの指数における昨年との順位の違いは、(1)健康が3位で昨年の1位からランクダウン。(2)退職後の資金は40位で、昨年の42位からやや向上、(3)生活の質は25位で昨年と変わらず。(4)物質的な豊かさは10位で、昨年の16位からジャンプアップ――という結果になった。日本の場合は、4つの指数のうち、「退職後の資金」の水準が最下位水準に沈んでいるため、総合的な評価も高まらない。「退職後の資金」を構成する指標は、老年人口老齢者依存、銀行の不良債権、インフレ、金利、税負担、ガバナンス、政府債務となっているが、日本が世界で最先端の高齢社会であることは言うに及ばず、政府債務も目立って大きく、結果として、金利はゼロ金利政策が長らく継続し、また、簡単には上げられない状況であり、さらに、税負担も重くなっていく方向だ。将来に向けて、日本はなかなか明るい見通しを持てない状況にある。 ただ、この調査にみられるように、世界各国の状況を横比較してみると、世界の国々が直面している高齢化と、その生活を支える年金等の問題は、どこも同じように厳しい状況を迎えつつあることがわかる。日本だけが特別なわけではないのだ。そして、政府が過大な債務を抱えているため、国による公的年金の拡充などへの期待は難しい。政府が税制優遇の特例を設けて利用を促している「NISA(少額投資非課税制度)」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」などを積極的に活用し、自らの意志と努力で退職後の生活資金を作っていく他ない。「長期・分散・積立」の資産形成3原則は、「NISA」や「iDeCo」で利用する投信(ファンド)などのリスク性商品で資産形成する際の重要な指針となる。できるだけ若いうちから、少額であっても、自らの将来のために、積立投資を始めたい。(イメージ写真提供:123RF)
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