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2022/09/21 17:24
日本時間で22日の午前3時過ぎに明らかにされる米国の9月の利上げは0.75%が確実視されている。この利上げによって、米国の政策金利(FFレート)は3.00%〜3.25%の水準になる。年初に0.00%〜0.25%というゼロ金利からスタートした利上げは、3月以来5回の政策決定会合を経て3%引き上げられることになる。21日の米国市場では2年債利回りが2007年以来の3.99%台に乗せ、10年債利回りも2011年以来の3.60%台を記録している。頑なにゼロ金利政策を継続する日本との差は開く一方だ。この大幅に開いた金利差の影響は、年初来大幅に進んだ「円安・ドル高」によって日本国民が等しく影響を受けている。そこで改めて、国内公募投資信託の資産残高を調べてみると、近年残高を大きく伸ばした投資信託は、この「円安・ドル高」を見越していたような「北米優位」の状況がみてとれる。 投資信託協会の統計によると。2022年8月末現在で株式投信の「国内」に分類される投信の残高は約76兆2951億円で、「海外」の約32兆6842億円を大幅に上回っている。過去の統計(2010年末まで)を振り返ると、年末ベースで2014年までは「海外」が「国内」を残高で上回っていたが、2015年に「国内」が優位に立ってから、徐々に「国内」の資産が増大している。過去10年余りの期間は、国内で「ゼロ金利」が定着し、「貯蓄から資産形成へ」の提案が活発になされ、投資信託の活用が広がった時期といえる。ETFを含む株式投信全体の純資産総額は2010年末に約52兆円だったものが、2021年末には約150兆円と3倍になった。 一方、個別の投資信託の残高上位を見ると、ETFを除くトップが「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Dコース(為替ヘッジなし)予想分配金」の1兆8120億円、第2位が「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の1兆4912億円、第3位が「ピクテ・グローバル・インカム株式(毎月分配)」の1兆1280億円など、ランキング上位は国際株式型、または、国際REIT型に属する「海外」ファンドばかりになる。直近の人気の中心が「海外」にあることが反映された結果だ。その中で、残高上位に「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」、「楽天・全米株式インデックス・ファンド」、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」といったインデックスファンドが食い込んできていることが目を引く。これらのインデックスファンドは、「つみたてNISA」をはじめとした積立投資で活用されるケースが多く、毎月着実に残高を積み増していく傾向にある。 インデックスファンドの残高増は著しく、たとえば、投信協会の統計データでは、2010年末のインデックスファンドの残高は合計で6兆8214億円だったものが、2021年末には81兆1721億円になっている。投信市場全体が約3倍になる中、インデックスファンドは約12倍に成長した。この間、インデックスファンドのファンド本数は507本が1107本へと約2倍に増えただけであるため、個々のファンドの残高が著しく大きくなっていることが確認できる。 現在、純資産総額が5000億円を超えるインデックスファンドは、先の残高上位の3ファンドに加えて「SBI・V・S&P500インデックス・ファンド」で、合計4本を数える。この4本のインデックスファンドの純資産残高だけで約3兆5000億円という大きな資金規模になっている。これらは全て「国際株式型」に属するファンドだ。うち2本は「S&P500」で、1本は「CRSP USトータル・マーケット・インデックス」に連動を目指すファンドで、この3本は米国株式を対象としたインデックスファンドだ。現在のところ、「国際株式型」に属するファンドの残高上位20本のうち、12本は「北米」を対象にしたファンドになっている。ここだけを取り上げると、圧倒的に「北米」=「米国」に依存した資産構成だ。 このように、個別の投資信託の残高状況にみられるような、あまりに1つの資産「米国株式」に資金が集中して投資されている状況は、決して好ましい状況ではない。ただ、投信市場全般の残高比率では「国内」が「海外」を上回っている。広く市場全般を見渡せば、何か1点に集中しているともいえないようだ。むしろ、投資信託市場の規模は大きくなっているとはいえ、個人の活用はまだまだ緒に就いたばかりと考えた方が、状況を正しく理解しているといえるのかもしれない。国内の個人金融資産は2022年6月末現在で約2007兆円。このうち投資信託は86兆円でしかない。個人金融資産の4.29%だ。「現金・預金」が1102兆円で全体の54.9%を占めている状況だ。 投信の活用が始まったばかりと考えれば、「積立投資の第一歩」として、米国の「S&P500」を使った積立投資が選好されていても何ら問題ではないように感じられる。今後、投信についての理解が進む中で、「北米一辺倒」から、全世界、あるいは、債券も含めた運用へと運用範囲が広がっていくかどうかに注目したい。いつまでも米国株式だけしか投資していないと、今年に入ってからのように、米国株式が軟調になると毎月資金を投入し続けても、なかなか資産が増えていることが実感できないような状況になってしまう。その結果として「積立投資をしていても資産が増えない」と見切ってしまい、投資を止めてしまうことになると、せっかく始めた投資の意味がなくなってしまう。 預貯金と違って、投資信託は価格変動がある。価格変動と上手に付き合っていく方法は、「分散」にある。現在、米国株式インデックスを対象にした積立投資が人気を集めているが、「積立投資」は1つの「分散」の手法だ。購入するタイミングを分散し、リスクの低減につながっている。投資タイミングの分散を図っているため、より長く積立を続けるほど、リスクの低減効果が得られる。もう一つの「分散」は、資産の「分散」がある。株式であれば、「米国」だけではなく、「日本」や「欧州」、「新興国」など地域を分散すること。また、資産クラスとして「債券」や「REIT(不動産投信)」など異なるリスクのある資産に分散することだ。異なるリスクの多くの資産に分散するほど、価格変動リスクを低減することができる。投資信託を保有することは、このような投資リスクと付き合うことになる。段階を踏んで、また、必要に応じて自身の保有する投資信託で過度なリスクを取っていないかを確認し、中長期で投資を継続することをめざしたい。(グラフは、残高が大きなインデックスファンドの過去3年間のトータルリターンの推移)
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