2022/10/11 12:12
2022年3月から米国が急ピッチで政策金利の利上げ開始、ウクライナ問題で表面化した地政学リスクなど、米国株式の運用環境は大きな変化にさらされている。米国株式は成長株を中心に22年1月から6月にかけて、20%を超える大幅な下落を経験した。米国の急激な利上げによって、この先の景気後退懸念も出てきた。国内最大のアクティブファンドである「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信」を運用するアライアンス・バーンスタインの執行役員 運用戦略部長(株式担当)の岡田章昌氏(写真)に今後の米国株式市場の展望を聞いた。
――2022年になって米国が政策金利を急速に引き上げ、米国GDPは1月−3月期、4月−6月期と2四半期連続でマイナス成長となりました。景気減速・後退局面は成長株に逆風となり、「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信」の運用成績も2ケタのマイマスとなる厳しい環境です。金利上昇局面にあって、米国の成長株を主たる投資対象とする当ファンドでは、どのような運用を行ったのでしょうか?
このファンドの運用哲学は、外部環境の変化に左右されることのなく持続的に利益成長ができる優れたビジネスモデルを持っている企業に厳選して投資するということです。今年のマーケットでは、成長株には大きな逆風が吹いていますが、このように先行きに不透明感が大きな時にこそ、このファンドの運用哲学は生きてくると考えています。
2022年の年初から成長株が大きく売られましたが、成長企業の利益がどんどん悪くなって株価が売られたというよりは、この数年の低金利によって、利益が出ていないような売上成長期待の銘柄も含めて成長株全般に株価が値上がりしていました。運用チームは2021年末くらいから、このように持続的な利益にサポートされていない株価水準は続かないと言っていました。彼らはよく「バリュエーションのグラビティ」というのですが、引力の法則のように、いずれ落ちてくると考えていました。
運用チームは、2020年、21年は、やりづらい相場と感じていました。低金利という環境が、企業の将来にわたる成長をどんどん株価に織り込み、どんな株式でも成長期待さえあれば値上がりするような市場でした。当ファンドでは割高な銘柄は、成長の追い風があっても組み入れを見送ってきました。代表的な銘柄がテスラです。コロナ後に何倍にも値上がりし、成長株ドリームの夢を与えてくれた銘柄ですが、本当に利益が出ていたわけではないので組み入れることはなかったのです。
その代わりに、外部環境に左右されずに利益の成長機会が常にある企業や、インフレでも価格支配力の強い企業をしっかりと選んで投資してきました。ただ、私どもが保有している銘柄も、2022年にはマーケットの影響を受けて下落しました。特に、マーケットは今、業績の下方修正に敏感になっています。業績見通しに間違いはないのか、金利が上昇した場合、また、景気が後退した場合にうける影響の大きさはどうか、企業の競争力が陳腐化していないかなど、保有銘柄の利益見通しを再チェックしました。
一方で、金利が上がることによってバリュエーション(PERなど株価評価の水準)が下がるのは市場の常です。そのような環境で、個々の企業の品質に関係なく下がってきている局面は、長期投資にすれば、絶好の組み入れチャンスです。優良な持続的成長銘柄を割安に組み入れられるところはしっかり割安な水準で購入しています。
――当ファンドの過去の運用成績を振り返ると、景気後退局面ではマイナスのパフォーマンスになっています。米国の景気動向と株価の関係をどのように見ていますか?
ファンドパフォーマンスは久々にマイナスになっていますが、個々の組み入れ企業の業績は堅調です。金利上昇に伴うバリュエーション調整が株安の要因になっています。PERでいうと、年初が予想ベースで23倍くらいでしたが、6月16日に16倍くらいに下がりました。4‐6月期の企業決算は、7割くらいは市場予想を上回る利益を出しているほどに業績が好調なのに、バリュエーションの調整で株価が下落していました。
長期金利が2%から4%超に上がっていく中で、株式益利回り(1/PER:PERの逆数)も上がらなければならない(PERは低下する)ので、金利上昇で株価の水準が押し下げられるのは理に適っています。しかし、PER16倍というのは、長期平均を下回るような水準です。
PERが16倍にまで下がって、マーケットが恐れているのは、EPS(1株当たり利益)の下方修正です。PER16倍から一段と下落する調整は、そこを織り込みに行っています。FEDの発言よりもFedEx(フェデックス)の業績見通しに市場が大きく反応したように、短期業績に対する確信は下がっていますが、私どもの分析では、そこまで悪くなることはないだろうとみています。
FEDの利上げのプレッシャーが一番大きくかかっているのは、FEDが連続して0.75%の利上げを繰り返している今、現在です。インフレを抑えるため、景気を冷やそうとしています。業績の下方修正が一番起きるのは、2022年7−9月期、そして、10−12月期だと思います。FEDも今の0,75%のペースで、これからもどんどん利上げを行おうとは一言も言っていません。
――今後の米国株式市場の見通しと、運用の考え方は?
最近、マーケットで「クオリティ」というキーワードを使い始めて、「インフレ、金利上昇であっても利益を出し続けることができる企業かどうか」ということに注目し始めています。金利を上げたことで、企業の活動環境の水位が上がり、その環境の中で保有し続けられる銘柄と保有できない銘柄の選別が進むようになると思います。このような銘柄選別が進む環境になれば、当ファンドのように投資先を厳選したアクティブファンドのパフォーマンスは、「S&P500」などの株価指数を上回っていくと思います。
今は、グロースかバリューかという二社択一ではなく、構造的な変化が起こっていると考えます。構造変化についていけない会社は、割安でも、ずっと割安なままで評価されることはありません。今までのように市場全体が買われるのではなく、より業績にフォーカスされた「業績相場」になっていくのだと思います。それが、金融引き締めの効果といえます。
FEDの利上げ予測や、いつが株価の底になるのかということは、誰も予測ができないことなので、それを予測しようとすると、すごく大きなストレスになります。長期的な目線でみてみると、そろそろトンネルを抜け出すところに来ているなど、これからの先が見通し安くなると思います。長期の視点で、23年、24年を考えながら投資をしていただきたいと思います。世界の市場でみても利益の出せる成長企業は、アメリカに多く存在しますので、アメリカの成長企業を選んでいくというのが、投資家の皆様に貢献できる方法だと考えています。
今後のマーケットの展開を考えると、不透明感の残る市場・経済環境の中で、勝ち残れる企業と沈んでいく企業に分かれると思います。良いも悪いも全て購入するという考えであれば、インデックスファンドで良いと思うのですが、成長に格差が出てくるような中であれば、より良い銘柄を選び抜いて投資した方が良い結果に近いと考えます。良いものを選んで投資していると、景気回復時のパフォーマンスが変わってきます。過去のパフォーマンスで明らかなように、景気の回復局面では、「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信」のパフォーマンスは大きく上昇しています。中長期の目線で優れた経営を行っている企業を厳選していることの意味は、景気の低迷から回復に転換する時に強く明瞭に表れるものです。