2022/10/14 17:06
世界的に株価が不安定な状態が続いている。2022年になってからは、株価が下落する傾向が続き、株価指数の動きでは月間で5%以上値下がりすることも珍しくない。米「S&P500」は月次リターンが9月まで6回がマイナス、うち4回は5%以上のマイナスリターンになった。「NASDAQ100」の月次リターンは7回でマイナスとなり、うち2回は2ケタのマイナスリターンになっている。株式に投資してリターンを得ることが難しくなっているが、「テトラ・ネクスト」は、株式を主たる投資対象としながらも株価の下落局面でも収益があげられる仕組みを持っている。「NASDAQ100」がマイナス10.60%となった2022年9月の月間リターンはプラス9.55%となり、全ファンドを対象としたリターンランキングで数ある「株式ベア型」ファンドに交じって第20位にランクインした。
9月は景気後退懸念の高まり等によって米国株価が大幅に下落した。代表的な株価指数である「NYダウ」はマイナス8.83%、「S&P500」がマイナス9.34%という成績だった。国内株式も「TOPIX(東証株価指数)」がマイナス6.48%、「日経平均株価」がマイナス7.67%だった。このため、全ファンドを対象とした9月のトータルリターン・ランキングは、トップの「NASDAQ100 3倍ベア」をはじめ、2位の「SBI 日本株3.8ベア」など「株式ベア型」に分類されるファンドが上位を占めた。これらは、株価が下落するとその下落率を収益化するもので、しかも、2倍、3倍とレバレッジ(テコの原理)を使って下落率の何倍もの収益を獲得することをめざしている。株価が下落する中で、運用収益をあげる手段として活用されるファンド群だ。
ただ、「株式ベア型」は、株価が反転・上昇に向かうとパフォーマンスがマイナスになる。レバレッジを効かせたファンドは、株価の上昇率の何倍にもマイナスリターンになるため、アップダウンが当たり前の株式市場にあっては、下落から上昇への変化を上手に捉えて購入と解約(売却)をタイミングよく行うことが求められる。株価は大きく下落すると、その反動で大きく上昇することがある。「S&P500」であれば、今年6月に8.39%下落した後、7月には9.11%上昇した。このようなアップダウンを日々繰り返している。
「株式ベア型」でなく9月のリターン・ランキングでトップ20に入ったのは、第7位の「国際のETF VIX短期先物指数」、第16位の「米国バンクローンF通貨<ルーブル>(毎月)」、そして、第20位の「テトラ・ネクスト」の3ファンドのみになる。「国際のETF VIX短期先物指数」は、いわゆる「恐怖指数」といわれるVIXの動きに連動した収益を目指すファンドで、不安定な株式市場の動きを受けてVIX指数が高止まりしている環境が追い風になった。また、「米国バンクローンF通貨<ルーブル>(毎月)」は、米国バンクローンを投資対象として安定的な収益を目指す一方で通貨選択型として米ドル売り・ロシアルーブル買いの為替取引を行う。為替取引によってプレミアム(金利差相当分の収益)の受け取りに加え、為替差益が入ると高い収益になる場合がある。ロシアルーブルは、今年2月のロシアのウクライナ侵攻後から大きな動きになることが多く、現在はリスクが高い通貨の1つになっている。
「テトラ・ネクスト」は、米国の「NASDAQ100」株価指数の先物取引を使って、株式市場のトレンドを捉えることを目指す運用を行う。日々発生するモメンタム(日中トレンド)、毎月の特定の時期に現れる3種類のトレンド(月初トレンド、月中トレンド、月末トレンド)を使って、株式市場が上昇している局面でも下落している局面でも、その時々のトレンドの方向を使って収益機会とする。JPモルガン・チェース・アンド・カンパニーの完全子会社であるJPモルガン・マンサール・マネジメント・リミテッドが提供する「米国テクノロジー株マルチモメンタム指数」のリターン(損益)を享受する担保付スワップ取引を行うことで、JPモルガン・チェース・グループのトレンド発見機能を活用する。「株式ベア型」と違って、株価の上昇時にも収益機会が得られることが大きな特徴だ。
「テトラ・ネクスト」は2021年2月に設定され、2021年第2四半期のトータルリターンは0.94%だったが、その後、21年第3四半期マイナス5.50%から四半期ごとに、マイナス2.94%、マイナス2.91%、マイナス0.13%と2022年第2四半期まで4四半期連続でマイナスリターンだったが、第3四半期(7−9月)に14.91%と大きなリターンを残している。特に、22年9月のリターンが大きくなった。運用期間が1年半程度と短いため、同ファンドの運用力を判断することは難しいが、通常の株式ファンドとは異なるリターン特性のあるファンドとして注目したい。
2023年は米国や欧州をはじめ多くの国々において景気減速、あるいは、景気後退の懸念が高まっていると見通され、株式投資の運用環境は厳しいものになっている。この難しい環境は来年にも持ち越されそうだ。アクティブファンドなどでは、そのような厳しい経済環境の中にあっても市場から高く評価される銘柄を選び抜いてプラスのパフォーマンスを獲得する努力を続けることになるが、市場全般がマイナスに動く中にあってプラスを維持することは難しい。機関投資家などプロの資産運用では、ベンチマークとしている主要なインデックスをアウトパフォームできれば、絶対的な収益がマイナスであっても運用が優れていると評価するような局面といえる。
しかし、個人投資家にとっては絶対収益がマイナスになっていては、インデックスに勝る収益だったとしても面白い結果とはいえないだろう。収益機会の多様化が強く意識される局面といえる。例えば、米国のハイテク成長株に特化した運用をしていた場合は、今年になって30%程度の株安を経験していることになる。この間に円安が重なったために、実際の運用損失は円安分がカバーしてくれているとはいえ、海外株価が下落する時に、常に円安が重なるとはいえない。2ケタを超えるような深いマイナスになってしまうと、臨時に運用資産を取り崩す必要が出た時などに、大きな痛手になってしまう。その痛手が、結果的に資産運用を辞めてしまう結果になってしまうと最悪だ。
運用ポートフォリオとして、全体に厳しい時にも、部分的にはプラス収益になっている資産があることが重要だ。そのためには、リターンの源泉/リスクの所在が異なる資産を保有しておくことが大事になる。22年9月の月間トータルリターンのランキングで上位に入った「VIX」や「ロシアルーブル」などを対象とした資産は、運用のコアとして選択されるような投資資産とはいえない。それは、株式市場のトレンドを捉えに行く「テトラ・ネクスト」にもいえることだ。ただ、このようなファンドを資産の一部として持っていることによって市場全般が難しい局面で「全部がダメなわけではない」と希望を持つことができる。
現在のように、長期運用の要となる資産である株式市場が低迷している時は、資産運用にとっては強烈な逆風といえる。積立投資をしていて「株安は数量を多く買えるチャンス」と前向きに捉えられる投資家は、そのままの投資を続けていればよいが、連日の株安に「ニュースを見るのも嫌だ」と感じている人は、この機会に「運用のポートフォリオ」という考え方に立って投資対象資産の見直しをすることも方法だ。運用資産が株式だけに偏っている場合は、債券を組み合わせてみたり、バランス型を取り入れるなど、投資資産の分散を改めて考えてみるようにしたい。運用の仕方は、人ぞれぞれに異なる。どのような市場環境になったとしても運用が継続できることが何よりも重要だ。(図版は、株価指数とは異なる動きをする「テトラ・ネクスト」のパフォーマンス推移)