2022/10/18 10:21
UBSアセット・マネジメントは、次世代型サステナブル株式ファンドと位置付ける「UBSサステナブル向上・コアバリュー株式ファンド(愛称:ツイン・アセンダーズ)」を10月31日に新規設定する。10月17日からSBI証券、播陽証券で当初募集が始まった。ESG特性の改善が株式のバリュエーション上昇の契機となる傾向が世界的にみられていることに着目し、ESG投資でありながら、リターンを追求するという姿勢を持ったファンドとして注目される。同ファンドの設定の背景と運用の特徴について、同社の執行役員運用本部長兼株式運用部長の松永洋幸氏(写真:左)と投信営業部副部長の鮎澤大樹氏(写真:右)に聞いた。
――ファンド設定の背景は?
鮎澤 ESGファンドに世界的に資金が集まるようになって、実態がないにも関わらずESGファンドと名乗るような「ESGウォッシング」が世界的に問題視されるようになっています。日本でも今年5月に金融庁がESGファンドに関する問題点を指摘し、昨年までは大きな盛り上がりを見せていたESGファンドの新規設定にブレーキがかかっていました。
当社では、欧州で昨年10月末に、世界的なESG基準に合致し、かつ、ESGが運用に貢献する次世代型のESGファンドを立ち上げました。新ファンドは、ESG要素の改善期待が強い銘柄群を対象としています。また、従来のESGファンドは、「E」の部分に焦点をあてたファンドが多かったのですが、新ファンドは、「E」と「S」と「G」のそれぞれの要素を評価して投資対象にしていることも特徴の1つです。
松永 欧州に本拠地を置く運用会社として、欧州の厳しいESG規制に則ったファンドを提供するという使命感とともに、やはり、お客様の資産形成に貢献できる長期的なリターンが期待できる商品をESG投資の領域で設定したいと考えました。
運用には2つのポイントがあります。それは、「ESG特性が改善するポテンシャルのある企業(インプルーバー企業)」を投資対象とすること。そして、その中でもバリュエーションに注目して、割安な銘柄に厳選投資することです。これまでの「ESGファンド」は、「ESG特性が既に優れている企業に投資をする」というコンセプトが大半だったのですが、当ファンドは「これから良くなる企業に投資する」という違いがあります。かつ、「良くなる」というところに、エンゲージメントを加えて、さらに良くなる手助けをするという役割もあります。
まず、ESG特性をスコア化してその高い企業から低い企業までを並べてみると、スコアの高い企業ほどバリュエーションも高くなる傾向があります。投資家がESG特性と企業ファンダメンタルズの相関を評価しているためだと考えられます。このため、ESGに課題を抱える企業が、真摯な取り組みによってその改善を実現していく過程で、市場における評価(バリュエーション)が上昇するという傾向があります。ESGの評価が低い企業であるほど、改善が見られた時のバリュエーションの変化率が大きいという傾向もデータで確認できます。
バリュエーションの評価は、「コアバリュー・アプローチ」として1980年代から長い運用実績があります。アナリストが企業取材等に基づいて予測した企業の長期業績予想を独自のDCFモデルで現在価値に引き直し、株価の時価と比較して割安度を算出しています。ただ、これらの割安銘柄も、その割安度が見直されるきっかけが必要です。そのきっかけには業績動向の変化などがありますが、その業績の変化を示唆する要因の1つとしてESGスコアの改善がROEの改善などのシグナルとして有効なケースが少なくありません。
つまり、ESGスコアの改善が期待できる企業群のユニバースと、「コアバリュー・アプローチ」との組み合わせは、非常に親和性が高いのです。ESGというサステナブル投資に貢献するファンドですが、極めてリターンを重視した戦略であり、長期の資産形成にも貢献できる運用戦略であると考えます。
――ESGスコアの改善とコアバリュー戦略の組み合わせが運用パフォーマンスに効果的な影響を与えるということを示すデータは?
鮎澤 昨年10月末に当ファンドと同様の運用戦略で設定されたファンドは、運用実績が1年足らずであり、明瞭なパフォーマンス格差はまだ確認できません。概ね全世界株価指数である「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)」とほぼ同等のパフォーマンスであり、今のところ明瞭な差はありません。
一方、コアバリュー・アプローチとESGスコアが高い企業群を組み合わせた運用は、1997年6月からの運用実績がありますが、2021年12月末までの運用成績が、「MSCI ACWI」が535に対して、ファンドは715という成績を残しています。今回設定するファンドは、ESGスコアの改善期待が大きな銘柄群を投資対象にしていますので、ESGスコアが高い銘柄群に投資した実績よりも高いパフォーマンスが期待できると考えています。
――UBSのESG評価の手法は?
松永 ESG投資については、欧州の機関投資家や個人富裕層のニーズの高まりを受けて、当社では様々な取り組みを実施し、多くの経験を積み上げてきています。たとえば、ESGスコアも当社独自のものを採用していて、さらにそのESGスコアを先読みする方法として、データサイエンスの手法を導入しています。「E」の部分では、企業の開示内容から確率論の手法を使って1.5度シナリオに整合的な経営ができているのかを評価する「グライドパス・モデル」を開発しています。
一方、「S」の部分は、定量的に数値化することが難しい分野ですが、ここでは従業員やOBOGの口コミ情報などのデータを取り込むことによって、実態に即したスコアが算出できる仕組みを作っています。
データサイエンスを専門に行う部署は20名程度の専門家によって組織され、ESGのどのデータやモデルが、株価バリュエーションの切り上がりと強い相関を持つかなど、様々な観点でESGスコアとバリュエーションの関係を調査しています。最先端のデータサイエンス手法でESG特性改善の当たりをつけるこのプロセスは、当ファンドのユニークな特徴と言えるでしょう。
一方、アナリストがカバーしている企業数は約2500社におよび、その調査に当たっては、必ずESGについての評価を義務付けています。ESGで重要な問題がないか、ある場合は経営陣の姿勢や能力の観点も含めそれが改善される可能性はあるかなどを評価しており、これによってジャッジメンタルにもESG特性の改善の可能性に当たりを付けています。
これに加えて、20名を超えるESG専担チームが企業毎のESG分析の深掘りやエンゲージメント(企業との対話)などにおいて専門的な知見を提供しています。ESGの改善というのは、半年、1年では結果が出ません。3年、5年という期間でESGが改善していくことを見据えています。
鮎澤 UBSは、独自のESGスコアを10段階で行っています。欧州で立ち上げた類似ファンドはESGスコアの平均が5.4点で昨年10月末にスタートしています。それが、1年足らずの間に6.0点まで切り上がってきています。そして、期待する改善が十分に実現された場合は、このファンドの投資対象からは外すという投資行動をとります。3年程度で組み入れた銘柄が入れ替わるというイメージです。
――ファンドの活用イメージは?
鮎澤 販売会社様とお話をすると、投資ポートフォリオがグロース株に偏った方が増えているという傾向があるということです。スタイル分散の考え方から、当ファンドを組み入れることが有効な選択肢になると評価していただいています。たとえば、2022年8月末現在で、当ファンドと「S&P500」、「MSCI ACWIグロース」で比較すると、PERは当ファンドが15.2倍に対し、「S&P500」が17.7倍、「MSCI ACWIグロース」が22.2倍です。PBRでは同様に2.2倍、3.9倍、4.6倍になります。バリュエーションの面でも割安な水準にある当ファンドをポートフォリオに加えることで分散効果が得られると考えます。
松永 ESGスコアの改善に着目した運用を行うといっても、たとえばスコアがゼロや1という非常に低い位置にある企業は、改善余地は大きいのですが、このような企業ばかりを組み入れていると、価格変動率が大きくなってしまうことになりかねないので、スコアがもう少し高いところからさらに高くなる期待がある企業にもバランス良く投資することを意識しています。その他、組み入れ企業の規模、セクター、投資地域もグローバルに分散したポートフォリオを組むようにしています。
鮎澤 当ファンドは、長期の資産形成に必要となるグローバル株式運用の中で、運用のコアとしてご活用いただけるファンドと考えています。当ファンドの情報開示においては、ポートフォリオ全体のESGスコアがどのように改善しているのか、また、具体的な投資先がESGの点で、どのような課題がありどのような取り組みを行ったのかということも具体的にお知らせしていく予定です。ぜひ、長期の資産形成をめざす運用商品としてご検討いただきたいと思います。