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2022/10/21 17:51
米国の急速な利上げ、ウクライナ紛争、収束しないコロナ禍、世界的なインフレなど、今年の経済環境はかつてなく成長阻害要因が多く、かつ、今後の見通しが難しい要素が多い。そのような環境の中で、将来に向けた資産形成を考えた場合、投資可能な資産(ファンド)はあるのだろうか? フィデリティ投信は10月21日、今年8月30日に新規設定した「フィデリティ・脱炭素日本株・ファンド」を例にとって、日本株式の魅力やサステナブル投資についてメディア向けに解説した。スピーカーは、フィデリティ投信取締役副社長兼運用本部長の鹿島美由紀氏(写真:左)、ヘッド・オブ・エンゲージメント兼ポートフォリオ・マネージャーの井川智洋氏(写真:右)で、クライアントサポート副本部長兼サステナビリティビジネス推進部長の野々垣智夏氏が司会進行を務めた。 鹿島氏は、ESGをテーマにした日本株ファンドを立ち上げた理由について、「日本株は『失われた30年』などといわれることがあるが、アベノミクスが始まった2012年からは底入れ反転している。『失われた20年』については、1997年から2012年まで国内名目GDPが約50兆円減少し、株安も続いたことから、そういわれても仕方がないが、2012年から名目GDPは拡大し、設備投資や総雇用者所得なども拡大して株価も上昇した。決して『失われた』といわれるような10年間ではなかった」と解説。また、「日本株は儲からない」というイメージが強いものの、2012年10月末を起点として2022年10月までの主要国の株価の推移をみると、日本株(TOPIX)は、米国株(S&P500)と匹敵するほどのパフォーマンスを残し、フランス(CAC40)、ドイツ(DAX)、イギリス(FTSE100)、香港(ハンセン)などより一段と高いパフォーマンスになった。 日本株が上昇に転じた理由について鹿島氏は、「アベノミクスで経済政策が転換し、スチュワードシップやコーポレートガバナンス・コードなどによって日本企業の変化が促された」と語った。「日本の経営者にとってコーポレートガバナンスやスチュワードシップは、最初は何のことなのか分からなかっただろうが、この10年で着実に浸透し、日本企業の意識は大きく変わった」とその変化に注目すべきだとした。日本企業が変化しているにもかかわらず、依然として市場の評価は高くない状態にあり、「そのギャップに投資機会がある」とした。 また、「日本経済の先行きについて、今後は日本の人口が減少することになるため、経済成長も株高も期待できないという話になりがちだが、アベノミクス前の10年間は人口が増加していたにもかかわらず株安だった。アベノミクス以降は、人口は減少しているにも関わらず株高が続いている」として、「人口の減少が問題ではなく、経済や株式市場にとって大事なのは政策」と強調した。そして、アベノミクスからの10年間を「成長の第1フェーズ」だとすると、これからは「成長の第2フェース」として、コーポレートガバナンスなどによって意識が変わった企業経営、そして、「脱炭素」について政府と民間の取り組みが重要なポイントになると語った。 一方、ESG投資について近年、世界各国で「グリーンウォッシュ」(まがいものの環境保全)などが問題視され、規制が強化されていることについて井川氏は、「運用プロセスの全てでサステナブルな視点を取り入れているか」、「運用会社は企業とエンゲージメント(建設的な対話)を行っているか」、「運用会社は言行一致を実践しているか」という3つのポイントでチェックすべきと語った。たとえば、投資対象銘柄群(投資ユニバース)からCO2の排出量が多い企業やタバコ産業などを除外するだけで「ESGファンド」を名乗る事例もあるが、それだけでは不十分であり、エンゲージメントを通じて企業のサステナビリティや社会的価値の向上に貢献しているかなど、そのファンドの運用全体の取り組みを評価する必要があるとした。 そのうえで、フィデリティが草分けといわれる「ボトムアップ・リサーチ」において、個別企業の調査に裏付けされた運用は、1970年代から「アクティブ・オーナーシップ(投資家が株主としての権利を積極的に行使すること)」に努め、エンゲージメントにも積極的に取り組んできたと、同社の取り組み姿勢を説明。「2019年に独自のESGレーティングを導入して以降、ESGへの取り組みが加速している」と解説した。フィデリティは、2020年に「ネット・ゼロ」にコミットし、21年にサステナブル・ファンド・シリーズを立ち上げ、22年に2050年の「ネット・ゼロ」に向けた発行体の整合性を評価するクライメート・レーティングを導入している。 そして、井川氏は日本企業が低炭素関連の特許を世界で最も多く取得している事実があるにもかかわらず、日本企業のESG評価が高くないというギャップがあると指摘した。「たとえば、日本の自動車産業は(EVへの対応の遅れなどから)CO2の削減について真剣に取り組んでいないと受け取られがちだが、日本自動車工業会のまとめによると、過去20年間における自動車のCO2排出量は、欧米各国と比較して圧倒的に日本の削減量が大きい。日本は、保有する技術を世界に説明しきれていない。実際に、ESG関連の調査では日本企業の技術力の高さに驚くことが多い。特に、中小企業において丁寧な説明がなされていないと感じる。英語での情報開示を含め、日本企業はもっと積極的にESG関連の情報開示を進める必要がある」と語った。そして、この不十分な情報開示等によって世界的に知られていない日本企業の環境技術力の高さと企業評価とのギャップが「投資機会になる」と語っていた。
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