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2022/11/07 18:54
金融審議会「顧客本位タスクフォース」の第3回目の会合が11月7日に開催された。同タスクフォースは、「顧客本位の業務運営<フィデューシャリーデューティー>」と「金融リテラシーの向上」について、金融行政の方針を巡って議論している。家計の資産形成を支える各参加者(資産運用業、企業年金等、販売会社など)の機能を底上げし、特に、「顧客本位の業務運営」については、販売会社において「道半ば」という立場をとっており、仕組債やファンドラップなどにおいて十分なコスト説明がなされていなかったり、適正とは言えない手数料が設定されている例があると指摘している。そして、従来の「プリンシパルベース=原理原則主義」の規制から、「ルールベース=手続き主義」の規制管理に移行することも選択肢としている。 7日の会合では、「顧客本位の業務運営」について、「原則2」にある「顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図るべきである」といった規定を、金融サービスの提供に関する法律や金融商品取引法に置くことによって、「金融事業者全体による顧客・最終受益者の最善の利益を図る取り組みを一歩踏み込んだものとすることを促すことはどうか」といって議論の提示がなされた。また、商品の手数料のわかりやすい開示や他の商品との比較などを容易にする「重要情報シート」について、情報提供を進めるべき具体的な内容やルール化について議論された。 また、顧客への情報提供のデジタル化について、「重要情報シート」をさらに改善し、デジタルツールを活用することで充実した情報がわかりやすく提供されるための仕組みづくり。そして、デジタル・リテラシー等の属性に応じた顧客の保護を図るため、新規契約・既存契約それぞれに関して、情報提供に利用する媒体の選択についての顧客同意の要否や意思確認の方法、書面が選択可能であることの周知方法等について、どのような措置を講じることが必要かなどが議論された。 委員からの意見は、「ルールとして『顧客の最善の利益』といった抽象的なルールを加えると、金商法で規定されている『誠実・公正義務』、『善管注意義務』と何が違うのか不明瞭。『利益相反について情報の開示』など具体的・限定的なルールにすべきではないか」、「独立アドバイザーなど助言サービスの普及と金融リテラシーの向上が両輪。独立アドバイザーが業として成り立つような仕組みづくりを検討すべき」などの意見があった。また、「情報提供のデジタル化」については、「情報提供をデジタルで行うことが前提であれば、紙での情報提供には顧客から受け取ることにも理解をえられるのではないか」という意見がある一方、「高齢者などデジタル化された情報に不慣れな人への配慮が必要」といった意見もあった。 そもそも「顧客本位の業務運営」について金融庁をはじめとした監督機関が厳しく取り組もうとしているのは、依然として、金融商品販売の現場で、「手数料至上主義」とでもいえるような販売態度が横行している(横行しているように見受けられる)ためだろう。2020年8月に発表された「市場ワーキング・グループ報告書」において「金融機関の課題として販売手数料の獲得を主目的とした取引の勧誘が行われている」という指摘があったにもかかわらず、昨今においても「実質コストが投資元本に対して年率換算すると平均して8〜10%程度に達すると推定されるEB債(他社株転換可能債)が十分なコストやリスクの説明もなく販売されている」という実態があると報告されているように、その当時と変わらない状況が未だに存在していると指摘されている。 顧客の立場に立てば、手数料とは「ベネフィット(恩恵)に対する対価」であるはずだ。販売手数料は、「その商品を紹介してくれたこと、また、購入することによるメリット・デメリットを納得させてもらえたことへの報酬」といえる。預金しかしてこなかった預金者が、販売員の説明を聞いて「資産運用に興味を持ち、ポートフォリオで資産管理することの重要性に気づかされた」ということであれば、投資信託の購入時に購入金額の3%に相当する手数料を支払う価値があるかもしれない。あるいは、世界経済が減速する環境にあるにもかかわらず、「レバナス(レバレッジを効かせたナスダック指数)」に一括で多額の投資をしようとした時に、景気後退期におけるナスダック指数の過去の値動きなどを説明し、過大なリスクを取り過ぎているのではないかという納得のいくアドバイスがあった場合など、顧客の資産構成やリスク許容度に応じたアドバイスが受けられるのであれば、販売手数料を支払う価値があると感じられるかもしれない。コストに対する対価は、感じ方が人それぞれであるため、決定的な解はないが、「支払うコストに見合うベネフィット」は必ず求められている。 銀行や証券会社といった販売金融機関は、「顧客本位」の姿勢に立って、顧客が期待する価値を提供することが求められている。さすがに、現在では、販売手数料を得んがための「回転売買」といわれるような高頻度な商品変更を強要するような営業はなくなったといわれている。この「回転売買」は、顧客の資産を手数料を得る道具としか考えていない「顧客本位」とは真逆の発想だ。営業の現場では「預かり資産営業」、「ポートフォリオの提案営業」など、顧客の資産の増大に合わせて信託報酬を重ねる「顧客の利益と同じ方向を向いた収益を重視する営業姿勢」が重要視し始めている。金融審議会では、それが「道半ば」とみなしているのだが、望ましい方向に変わっているのは事実だろう。 問題は、そのような営業現場の努力が、十分な収益に結びつかないというジレンマにあるのではないだろうか。預金者の大半は、資産運用の重要性を説明しても、預金から資金を動かそうとしないし、動かしたとしてもわずかな金額にとどまる。投信等が売れなければ、説明に要した時間はただ働きだ。国民全体に資産運用に対する偏見(怖い・危険・損するなど)が強い。だからこそ、資産運用の重要性に目覚めた一部の投資家に、高頻度に営業をかけて、より高い手数料を獲得したいという行動に結びついてしまっているのではないだろうか。個人金融資産2007兆円のうち、投資信託はわずか86兆円だ(2022年6月末)。現預金が1102兆円を占めている。この大きな現金の塊を投資信託等の運用資産に振り替えることができれば、金融商品を取り扱う現場も、より豊かな市場を実感できるようになるだろう。 金融審議会では、国民の金融リテラシーの向上についても重要な意義があるという議論が続いている。金融機関の行動規制を正すことも重要だが、それと並行して国民の金融リテラシーを高めることも重要だ。国民の金融リテラシーが高まれば、金融機関の営業姿勢が顧客本位のものであるかどうかを見極めることもできるようになる。より顧客本位の営業をしている金融機関に顧客が集まれば、金融機関の営業姿勢も自ずと正しいものに改まる。時代の転換点にあたって、重要な議論を続けている金融審議会の行方に注目していきたい。(図は会議のイメージ。イメージ写真提供:123RF)
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