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2022/11/21 17:12
総務省が発表した2022年10月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)の上昇率が前年同月比プラス3.6%となり、1982年2月(プラス3.6%)以来40年8カ月ぶりの高い伸びを記録した。物価の上昇率は、同じ10月の数値で米国で前年同月比7.7%、ユーロ圏で10.6%となっており、欧米に比べると日本は低く抑えられている。ただ、インフレは進んでいるとはいえ、国内の債券市場は依然として横ばいのままで、価格変動率の乏しい市場が続いている。欧米の長期金利が3%〜4%台に乗せるほどに上昇していることと比較すると、日本の債券市場は機能不全といわれるほど低迷が続いている。その中にあって「日本物価連動国債ファンド」が際立ったパフォーマンスを見せている。 国内の債券市場は、先進国で唯一金融緩和を継続する日銀の金融政策を反映して、極めて狭い範囲での値動きが続いている。日銀がイールドカーブコントロールで10年国債利回りは0.25%で固定しているため、債券市場に相場らしい動きが出てこない。長期金利の指標の1つである新発10年国債の取引が数日にわたって未成立になるようなことも起こっている。国内債券の動きが乏しいため、株式との分散投資効果などもほとんど期待できない状況が続いてきた。 「物価連動国債」は、文字通り、国債の利率が物価指数(全国消費者物価指数・生鮮食品を除く総合指数)に連動して動くように設計された国債のこと。満期は10年で、原則として毎月10日に発行され、毎月200億円程度が継続して発行されている。平成25年度(2013年度)以降は、償還時の連動係数が1を下回る場合、額面金額にて償還される元本保証(フロア)が設定されている。一般的にインフレ期に起こる金利上昇は、通常の債券価格にはマイナスに作用するが、物価連動国債は反対に金利上昇がパフォーマンスを押し上げる力になるユニークな存在だ。 「日本物価連動国債ファンド」は、この国内の物価連動国債を主たる投資対象としたファンドだ。近年の物価上昇が同ファンドのパフォーマンスを引き上げている。2022年10月末現在で1年トータルリターンは4.50%。国内債券に投資するファンドの平均を示す「ウエルスアドバイザーインデックス 国内債券・中長期債(単純) 」がマイナス3.70%と金利上昇によってマイナス圏に沈む中で際立ったパフォーマンスの良さになっている。過去3年(年率)リターンも1.53%となり、債券ファンドとして一定程度の保有に堪えられる水準になってきているように考えられる。 国の政策は「資産所得倍増計画」だが、国民の多くが資産運用に積極的になり、「NISA(少額投資非課税制度)」などの活用が進むようになるためには、株式市場だけではなく債券市場も活性化して債券に投資していても年率2〜3%程度の利回りが期待できるような市場が戻ってくることが望ましい。多くの国民は価格変動リスクが20%を超えるような株式で運用をすることに抵抗がある。せいぜい2〜3%程度のリスクで、3〜4%程度のリターンが期待できるような資産で運用したいと望むだろう。実際に年率4%で安定的に運用ができれば、30年間で元本は3倍以上になる。また、年率4%で運用できれば、毎月1万円を非課税で30年間積み立てれば、元本360万円が、ほぼ2倍の約690万円になる計算だ。文字通り「資産倍増」が実現できる利回り水準といえる。 国民が望むのは「一か八か」の高いリターンを求める投資ではなく、安定的に着実に資産が増える投資だ。欧米ではようやく10年債利回りが3%を超えてきた。日本のゼロ%金利は簡単には解消されそうもないが、通常の国債で期待できるリターンが得られないのであれば、物価変動国債、あるいは、社債、または、転換社債(CB)など、債券の範囲を広げて探してみたい。残念ながら国内債券では、社債やCBに特化して投資するファンドはほとんどなく、物価連動国債を投資対象としたファンドの品揃えが少しずつ増えてきているところだ。その点では、利回り水準と合わせて考えて、海外の債券ファンドが現実的な選択肢になる。しかし、海外の債券ファンドには為替変動のリスクがあるため、どうしても国内債券よりもリスクの水準が高くなってしまうという難点がある。 「資産所得倍増計画」を実現するためには、本来は、まず金融を正常化できるような経済環境を整えるべきだが、そのようなことを言っていると、いつまでたっても国民は安心して投資ができるようにならないということになってしまう。物価連動国債にしても来年以降には、日本の物価上昇率はゼロ%台に戻っていくという見通しが主流であるため、いつまでも好調なリターンが続くとはいえないかもしれない。それでも安定した運用成果を求めるのであれば、当面の投資対象にはなるだろう。今の日本において、安定的に着実なリターンが得られる金融商品というのは限られているというのが現実だ。各々の商品の内容を吟味して、工夫をしながら自分の投資目的に適った投資対象を選んでいきたい。(グラフは、「日本物価連動国債ファンド」のパフォーマンス推移)
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