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2022/11/25 19:00
投資信託の今後の販売のあり方をも規定する金融審議会市場制度ワーキング・グループ「顧客本位タスクフォース」の第4回会合が11月22日に開催され、中間報告(案)が示された。このタスクフォースも政府が年内にまとめようとする「資産所得倍増プラン」の流れの中で議論を進めているもので、金融商品の販売のあり方を「顧客本位」にすることによって、国民の間に「貯蓄から投資へ」の流れを促し、より望ましい投資商品の販売が定着することをめざしている。議論の内容はいくつかの論点があるが、目に見えて変化が現れるであろう「重要情報シート」の利用徹底と記載すべきとされている内容について考えてみたい。 「重要情報シート」は、文字通り金融商品の購入(販売)にあたって重要な情報を簡潔にわかりやすく伝えるために、販売会社が容易して商品の購入を検討している顧客に示す説明資料のことで、令和2年(2020年)8月5日に公表された「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書−顧客本位の業務運営の進展に向けて」において、「積極的に用いられることが望ましい」とされたもの。令和3年5月には、金融庁が「『重要情報シート』を作成・活用する際の手引きについて」を発表し、積極的な利用を促していた。 しかし、その利用の実態を調べると、大手金融機関では利用が進んでいるところがあることも確認でき、中には、その内容についてわかりやすく伝えるための工夫をされている事例があるものの、中小の金融機関ではあまり活用がされていないなど、金融機関の規模や姿勢によって、「重要情報シート」への対応にばらつきが目立つことが指摘されている。「積極的に用いられることが望ましい」と言っているだけでは、活用が進みそうもないので、「ルール」として規定して、すべての金融商品販売会社が、「重要情報シート」を用いた金融商品の販売や取り扱いをすべきではないかという意見が強い。 「重要情報シート」は、「金融事業者編」と「個別商品編」の2つのシートがある。「金融事業者編」では、取り扱い商品のラインナップと商品ラインナップの考え方を示すように求めている。また、「個別商品編」では、(1)商品等の内容(金融商品の目的・機能、商品組成に携わる事業者が想定する購入者など)、(2)リスクと運用実績、(3)費用、(4)換金・解約の条件、(5)当社の利益とお客様の利益が反する可能性、(6)租税の概要(NISA、つみたてNISA、iDeCoの対象か否かなど)などが情報提供の対象になっている。 今回の中間報告で指摘されたのは、商品内容が複雑で、かつ、販売手数料が比較的高くなりがちな仕組債やファンドラップにおいての「重要情報シート」の活用がほとんど行われていないこと、そして、「重要情報シート」の「個別商品編」の(5)に当たる利益相反についての記述の仕方が不十分だということだった。利益相反については、(ア)顧客が支払う費用のうち販売会社が組成会社から受け取る手数料の割合、および、その対価として顧客に提供するサービスの内容、(イ)組成会社や販売委託元との関係(資本関係、人的関係または重大な業務上の関係を有するものの商品(グループ商品)を販売する場合)、(ウ)他の商品と比較して当該商品を販売した場合の営業職員の業務評価上の取り扱い――などとする案が示されている。 「ルール化」が検討され、さらに、その内容が文章としてまとめられると、どうしても「性悪説」を前提にした議論になってしまうように感じられる。上記の(ウ)で示されている内容は、販売会社が自社の利益を優先して特別な販売手当を出すことで、販売員を特定商品の販売に重点的に行うようにそそのかしているように感じられる。そのような行為は「顧客本位の業務運営」と真逆のことであるため、あってはならない行為といえるが、ルール化の議論に絡んで文章が出てくると、いかにも現在の販売現場で、このような行為が横行しているかのように見えてしまう。 現在の金融商品の販売の現場で主流となりつつあるのは、「ゴールベース・アプローチ」といわれる手法である。顧客ごとに、資産形成の「ゴール」について考え、顧客が示すゴールに向かって、目的に適った商品を提供していこうという考え方だ。これは、いわゆる「金融庁のお墨付き」とされる販売方法の1つだ。「顧客本位」であるならば、その商品の販売を考える以前に、顧客が資産運用を行う「目的」を明確にし、その情報を顧客と販売会社で共有しようという考え方だ。 この「ゴールベース・アプローチ」を定着させるには、顧客との対話力のみならず、金融商品に対する広範で深い知識なども求められる。一筋縄ではいかないことだ。たとえば、「投信を売ってほしい」と来店した顧客に、購入に必要な書類を書いてもらうだけであれば、誰にでもできるが、その際に、顧客との応対の中で、さりげなく投資の目的を聞き出し、その目的と、購入したいと言っている商品が合致しているのかを判断することは、なかなか難しいことだ。「投資の目的は何ですか?」と直接的に聞こうものなら、顧客から疎まれて、売れる商品も売ることができないということになりかねない。しかも、来店した顧客の手前、いつまでもダラダラと話を聞いているわけにもいかない。コンパクトな時間の中で、顧客の目的を把握し、商品の適合性を判断するということは、高度なコンサルティング能力が必要なことだ。 今回の「顧客本位タスクフォース」でキーワードになっているのは「道半ば」という表現だ。「プリンシパルベース」で金融機関の自主性を重んじて進めていたところ、実態は「顧客本位の業務運営」には届かない「道半ば」であるため、「ルールありき」で罰則も含む規制ルールを設けることで、金融機関の販売姿勢を強制的に改めさせる――という方向で「道半ば」という言葉が使われているようなところが気がかりだ。そもそも「顧客本位タスクフォース」で求める望ましい販売の手法が、かなりのスキルを必要とする専門的で高度なことといえる。それを個々の金融機関が組織として実現するためには、相当の労力が必要だ。 たどり着くまでに「道半ば」の状態は長く続くと考えた方が良いだろう。その「道半ば」でルールを押し付けてしまうと、「角を矯めて牛を殺す」の例えではないが、せっかく進んでいる販売現場改革がとん挫してしまうリスクもあると考える。金融審議会も金融庁も、販売の現場としっかりしたコミュニケーションを取り、望ましい転換を図っている金融機関については、その旨を個々に通知する機会を作り、その上で、業界横断的なルールを策定するような丁寧な取り組みを期待したい。「重要情報シート」の提供の仕方を単純にルール化しても、新たに顧客に配布する資料が増えるだけで、実効性のある活用はされないということにもなりかねない。今後の議論を見守りたい。(イメージ写真提供:123RF)
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