2022/12/02 11:36
「グローバル・アグリカルチャー&フード株式ファンド」は、2022年7月29日の設定以来、世界的に株式市場が不安定な中、安定したパフォーマンスを刻み、純資産残高も25億円でスタートした残高が200億円を超えてきた。世界的な食糧危機が懸念される中、同ファンドが注目する農業や食品関連にはデジタル・トランスフォーメーション(DX)を伴う大きな変革による成長期待があるという。同ファンドについて、日興アセットマネジメント資産運用サポート部グループマネージャーの西岡佑氏(写真:左)と、実質的な運用を担っているラザード・アセット・マネジメントLLCのポートフォリオマネージャー兼アナリストのテレンス・ブレナン氏(写真:右)に聞いた。
――農業や食料関連企業の株式に投資するファンド設定の狙いは?
西岡 ファンド設定の狙いは3つあります。1つは、今、世界が食糧危機に直面しているということです。温暖化などによる気候変動の影響で安定的な食糧の供給が難しくなっているところに人口増があって、食糧問題には大きな変革が求められています。
2つ目は、農業や食料関係企業の株価の特性からです。農業・食料関連企業の株価は、米国のインフレ期に耐性が強いという特徴があります。また、生活に不可欠な産業という側面からも、株価の下落時に下落率が市場全体よりも小さくなる傾向があります。インフレが続き、株価が不安定な現在のような市場環境には、このような農業・食料関連企業の株価特性が評価されやすいと考えました。
また、テクノロジー成長株との株価の相関が低いという特性もあります。「NASDAQ100」と「農業・食料関連株価指数」の過去20年間の相関係数は0.39です。2021年12月末までのハイテク成長株の大相場で、多くの投資家の皆さんが米国を中心にしたハイテク株に投資するファンドを保有されていると思いますが、そのファンドと併せ持つという観点でも農業・食料関連企業の投資は意味があります。
そして、3つ目は、農業や食料関連という分野で、今、大きなイノベーション(技術革新)が起こっているからです。しかも、その変革は息の長い大きな変化になると考えられ、ここには大きな成長期待があると考えたからです。ぜひ投資家の皆様に、この大きな変革に投資する機会を提供したいと考えました。
――運用の特徴は?
ブレナン 当ファンドでは、農業(アグリカルチャー)や食料(フード)などの問題解決に資する企業について、3つの投資カテゴリーを設けて投資しています。
1つは、今、大きな転換点を迎えている「農業イノベーション」の分野です。これまで人の手や経験などに頼っていた農業の収穫までの作業に、自動化やAIなどの先端技術を取り入れることで生産性を飛躍的に高めることができます。農業の生産性を高めることは、農作物の収穫量を拡大するとともに、収穫のために必要な水の使用量を減らす、農薬を大量に使わないなどサステナブルな農業を進めていく上でも重要なポイントです。
2つ目は、「フード・エボリューション」です。従来の畜産業や漁業だけでは世界人口のタンパク質の需要を賄いきれないことになる「タンパク質危機」の懸念があります。そこで、「代替タンパク質」の活用が注目されています。植物を主な原料とする「植物肉」、家畜の細胞を採取・培養して製造される「培養肉」、昆虫を食料や飼料として活用する「昆虫食」などがあります。
「培養肉」について、2022年11月16日に米FDA(食品医薬品局)が米アップサイド・フーズが提出した培養肉製品のデータを評価した結果、食用としての安全性を確認したと発表しています。FDAが培養肉に対して認可を出すことで、この分野の研究開発が一層加速すると思います。
そして、3つ目は「再生力のある経済」です。食品廃棄物や家畜の排せつ物などから、バイオ燃料やたい肥などを開発する研究が進んでいます。また、食品などの包装で使われるプラスチック製品を植物由来の代替品や紙で作った製品に置き換える動きも活発です。SDGs(持続可能な開発目標)が強く意識され、資源の有効活用という考え方は、農業・食品関連分野でも非常に重要な取り組みになっています。
――3つの分野の成長性は? 例えば、投資先企業のEPS(1株当たり利益)成長率目標などはありますか?
ブレナン 「農業イノベーション」は、非常に大きな変化率が期待される分野ですが、その技術力の評価が十分ではありません。たとえば、2021年〜22年にSPAC(特別買収目的会社)が農業分野を対象としていくつか設立されましたが、成功例といえるものはありません。この評価が難しいところに、投資機会があると考えています。また、農業関連の大手企業がスタートアップを買収し、吸収するという動きが続いています。農業という分野は、従来はディフェンシブなイメージがありましたが、現在はダイナミックに変化しています。
また、足元ではエネルギー価格の上昇を背景に、天然ガスを安い価格で利用できる契約を持つアメリカとカナダの肥料会社が成長ドライバーの1つになっています。これらの投資機会について年率10%〜30%の成長が向こう数年間にわたって続くと考えています。
「フード・エボリューション」に関しては、大手穀物商社は、世界的な穀物価格の上昇で重要な役割を果たすとともに、その価格決定力で優位なビジネスを展開しています。この分野の企業群は1ケタ台半ばから後半の成長が期待できます。
「再生力のある経済」に関連する事業は、成長力に加えて、食料サプライチェーンのサステナビリティを支えるイノベーションに注目して、安定的な成長が期待できる企業を選んでいます。
銘柄選択に当たっては、ボトムアップアプローチを基本にしています。個々の企業について掘り下げた調査を行ったうえで、競合他社との比較や業界全体の成長性などを評価し、将来の業績予想に基づく適正株価を計算し、株価の時価と比較して魅力的な銘柄を組み入れています。現在のポートフォリオでは、「農業イノベーション」への投資比率が50%超と高くなっていますが、これはボトムアップを積み上げた結果です。
――農業や食品という分野に高い成長性のイメージがないのですが、たとえば、農業分野で年率30%の成長が期待されるというのは、どのような変化があるのでしょう?
ブレナン 現在、アメリカの大規模農場では、機械化が進展し、農機を自動運転して効率的に動かす研究が進んでいます。数年前に「グリーン・オン・ブラウン」といわれ、農地の中で穀物・植物(グリーン)と土地(ブラウン)を機械が見分けて、グリーンの部分に必要な肥料を与え、土地を耕し種をまくというような作業を自動化していました。これだけでも使う肥料や水の量を大幅に削減することができたのですが、現在は「グリーン・オン・グリーン」のテクノロジーになっています。グリーンの中から、穀物と雑草を機械が見分けて、雑草にだけ農薬を散布するということが可能になっています。このことによって、使用する農薬の量を大幅に削減し、土壌の劣化を防ぐなどの効果があります。
このような最新のテクノロジーを使った農業を「精密農業」などと呼んでいますが、この分野で使用する農機、その農機を連携させるソフトウエアなど日進月歩で進化しています。また、ソフトウエアの制御に必要なデータは、天候に関連する日照、気温、風向きをはじめ様々に変化する膨大なデータになります。これらのデータが蓄積されるほどに、より精緻なシステム管理ができるようになります。
西岡 「農業イノベーション」のカギになっているデジタル化は、その進行段階を示す「デジタル Sカーブ」といわれるモデルがあります。最も先行する「情報通信(ICT)」、「メディア」、「金融・保険」という分野に続いて、「小売り」、「自動車・部品」などの分野でデジタル化が進みました。DXといわれる大変革を評価した2020年以降の株価の大きな上昇を経験したところです。これらに続いて注目されている「ヘルスケア産業」に続く段階にあるのが「食料・飲料」分野のデジタル化で、それに遅れて「農業」のデジタル化があります。農業分野のDXは、まさに今、始まったばかりなのです。
当ファンドでは、ポートフォリオに占める中小型銘柄が30%を占めています。大型や超大型企業が絶対的な地位を占める農業や食品という分野で、中小型企業に30%も占めるポートフォリオが作れるのは、ラザード社の銘柄発掘能力の優れたところだと思います。ラザード社は、170年を超える歴史のある投資銀行であるラザード・フレール・アンド・カンパニー・エルエルシーの資産運用部門として1970年に設立されました。米ニューヨークを拠点とし、運用資産残高は約27兆円です。株式のアクティブ運用に強みを持つ運用会社として知られ、当社が2015年8月に設定した「グローバル・ロボティクス株式ファンド」でも実質的な運用を担っていただき、長期にわたる優れた運用成績が確認できます。
農業・食品関連への投資と聞くと、どうしてもディフェンシブなイメージがあると思いますが、当ファンドでも注目している「フードテック(当ファンドの投資カテゴリー:フード・エボリューション)」分野への投資額は2012年から2021年まで年平均成長率約36%という投資が行われるほど、成長期待が強い分野です。ぜひ、今後の資産形成の1つの手段として「グローバル・アグリカルチャー&フード株式ファンド」をご検討ください。