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2022/12/12 17:39
公的年金等の運用を担う年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は12月12日、YouTube動画「10分でわかるGPIF」シリーズの第1回にあたる「GPIFのESG投資」を公開した。約200兆円という莫大な資金を、国内外の株式や債券に幅広く投資しているGPIFは、「年金積立金の持続可能性を高める上で、投資においてESG(環境・社会・ガバナンス)を考慮することが重要である」との考えに基づいて、ESGを積極的に運用に取り入れている。その取り組みの内容については、年次報告書である「ESG活動報告」や、活動報告別冊「GPIFポートフォリオの気候変動リスク・機会分析」の刊行など情報発信を行っているが、ちょうどテレビを観るように動画サイトから情報を得る人が増えていることなどに対応し、短い動画で分かりやすく活動内容を知ってもらう取り組みを始めた。今後、「気候変動のリスクと機会」、「GPIFのスチュワードシップ活動」も準備している。 ESG投資とは、「(E)環境」、「(S)社会」、そして、「(G)ガバナンス(企業統治)」に配慮した活動を行う企業の株式、また、ESGを目的に発行された債券(グリーンボンドなど)に投資をし、投資活動を地球環境や社会が持続的な発展に役立てようとする投資のこと。GPIFのように巨額な資産を運用する機関投資家は、投資する証券市場の持続的な成長が自らの運用資産の成長に直結しているため、ESG投資にも積極的に取り組んでいる。 ただ、GPIFは、「年金受益者のためにのみ業務を行う」という業務規程があるため、「投資成績とともに地球環境にも良い効果がある」ことをめざす「インパクト投資」は採用できない。このため、ESG投資については、ESG指数を選定し、選定した8つのESG指数に連動したパッシブ運用を行っている。国内株式を対象とした5指数と外国株式を対象にした3指数を選定しているが、この8指数はいずれもGPIFがESG指数のパッシブ運用を開始した2017年度から2021年度までの5年間で、市場平均を上回るパフォーマンスをあげている。 まず、国内株式のESG指数は、2022年3月末までの5年間でTOPIX(東証株価指数)が年率7.62%だったことと比較して、「MSCI ESGセレクトリーダース」は同9.00%(超過収益率1.38%)、「MSCI WIN」が同8.03%(同0.41%)、「FTSE Blossom」は同8.86%(同1.24%)、「FTSE BlossomSR」が同8.80%(同1.18%)、「S&P/JPX Carbon」が同7.75%(同0.13%)で、全てのESG指数がTOPIXをアウトパフォームした。 また、外国株式については、「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(除く日本)」が年率14.55%に対し、「S&P Global Carbon」が同14.58%(超過収益率0.03%)、「MSCI ESGユニバーサル」が同15.04%(同0.48%)、「Morningstar GenDI」が同15.51%(同0.95%)という成績だった。こちらも3指数そろって市場平均をアウトパフォームする結果になった。 このように、過去5年という比較的短い期間の間にでも、ESG指数が時価総額ベースの市場平均をアウトパフォームしているという実績は、ESGの要素が銘柄選定において一定の効果がある選別指標になっていることがうかがえる。まして、これから「2050年カーボンニュートラル(実質的な温室効果ガスの排出量ゼロ)」を目指して、各位企業や国・地方自治体の取り組みが本格化する。世界の株式市場における「E」要素での銘柄の選別は、一段と厳しいものになっていくと考えられている。そして、社会の風潮はゴールが定められた「E」への関心の高まりと軌道を同じくして「S」や「G」に対する取り組みを求めている。盛り上がっているサッカーワールドカップにおいても、有力チームが試合前に片膝をついて人種差別などへの抗議の意を示すなど、もはや、「ESG」や「SDGs」について配慮ができないことは世界中の人民が許さないという機運になっている。 GPIFのような世界の市場に広く投資する機関投資家が、ESG投資に関する情報発信に積極的に取り組んでいるのも、ESG投資がプラスアルファの投資収益を生んでいることが背景にあることは間違いない。理念だけで結果が伴っていなければ、これほど声高に「ESG投資」の意義を強調できないと考えられる。2023年の運用戦略を考えるにあたって、改めて「ESG投資」の視点を考慮して考えるようにしたい。(イメージ写真提供:123RF)
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