2022/12/15 17:36
公募ファンド(ETF除く)の現在の残高ナンバーワンは、「アライアンス・バーンスタイン米国成長株投信Dコース(為替ヘッジなし)予想分配金提示型」で純資産総額は1兆7900億円を超えている。歴代のファンドの中でも、株式を対象としたファンドとしては歴代最高を記録した「ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド(通称:グロイン)(毎月分配型)」(ピーク時残高約2兆8000億円)に次ぐ史上最高水準の純資産総額に達している。ただ、同じように株式を主要な投資対象とした公募ファンドである「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」がトップとの差を急速に詰めてきている。12月14日現在で純資産総額は1兆6672億円に達し、「アライアンス・バーンスタイン米国成長株投信Dコース(為替ヘッジなし)予想分配金提示型」を指呼の間に捉えている。「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」には毎月600億円程度の純資金流入が続いており、トップ逆転は時間の問題といえそうだ。
「アライアンス・バーンスタイン米国成長株投信Dコース(為替ヘッジなし)予想分配金提示型」と「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」は、同じように米国株式を投資対象としたファンドでありながら、運用商品としての性格は大きく異なり、そのファンドを支える資金の入り方も違っている。
「アライアンス・バーンスタイン米国成長株投信Dコース(為替ヘッジなし)予想分配金提示型」は、ファンドマネージャーが優れた投資先を選び抜いて市場平均を上回る運用成績をめざすアクティブファンドで、長年にわたる優れた運用成績が評価されて残高を積み上げていったファンドだ。しかも、毎月分配型ファンドだ。予想分配金提示型として、基準価額が1万1000円以上1万2000円未満では200円(税引前)など、予め分配金の支払い額を決めておき、基準価額が1万円を下回った場合は分配金を出さないなど、運用収益を定期的に払い出す仕組みにしている。好調な運用成績のため、ほぼ毎月分配金を支払い、2021年の年間分配金の総額は1万口当たり3300円、22年も11月までに1100円の分配金を出している。
この毎月分配の仕組みは、「資産形成の手段としてふさわしくない」と否定的な見方が根強いが、退職世代など資産活用層にとっては、資産運用を継続しつつも目の前の収益を現金化して活用できるというメリットがある。「アライアンス・バーンスタイン米国成長株投信Dコース(為替ヘッジなし)予想分配金提示型」のように、分解菌を支払い続けても基準価額が1万円台をキープしているファンドは、年金で生活している世代にとっては、分配金を払い出した上で、当初に預け入れた資金はそのまま残っているという理想的なファンドといえるだろう。退職世代が退職後も資産運用を継続する大きな目的に十二分に応えてくれている。
一方、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」は、米国の主要な株価指数の1つである「S&P500」に連動する運用成績をめざすインデックスファンドだ。「S&P500」の指数の構成に近いポートフォリオを作ったら、日々の資金の出入りへの対応だけで良いため、運用のコストをできるだけ切り詰めている。信託報酬率は年0.10%(税込み)程度であり、「アライアンス・バーンスタイン米国成長株投信Dコース(為替ヘッジなし)予想分配金提示型」の年1.73%とは比較にならない。分配金も設定来出したことがない。販売窓口もオンライン専用であり、販売員がファンドの仕組み等を説明することはない。ここ10年くらいにわたって、アメリカの株式市場が強烈といえるほど印象的に値上がりしてきたことで、「つみたてNISA」などを通じた積立投資の対象として残高増に弾みがついている。
このような両ファンドの商品性の違いから、そのぞれのファンドが抱えている資金の性格も異なると考えられる。「アライアンス・バーンスタイン米国成長株投信Dコース(為替ヘッジなし)予想分配金提示型」は、販売会社の販売員がしっかり商品説明をしてファンドの毎月分配の仕組みなども理解を得た上で購入されるケースが多いと考えられる。購入者も銀行や証券会社の窓口で相談ができる退職世代が少なくないと考えられる。毎月分配型の仕組みを持っているため、比較的まとまった資金を投資する人も多いだろう。実際に、米国株価が直近のピークを付けた2021年12月には1カ月間で資金流入額が1500億円に達している。
これに対し、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」は、ここ10年間の米国株式の力強い上昇を見てきた若い世代が多いと考えられる。通常は、資産運用でリスク資産である株式に投資をしようと考えた場合は、なじみのある国内株式から始めるのが当たり前だと考えられるが、ここ数年間の米国株式市場の値上がりがすさまじかったこともあって、「いきなり米国株式」、「まず最初は『S&P500』」という投資家が増えているようだ。しかも、誰のアドバイスも受けずにネットで直接購入申し込みをしてしまうという行動が普通になってきた。そして、外国資産に投資する際にネックとなる「為替変動」についても、「緩やかな円安」から「急速な円安」だったため、パフォーマンスをかさ上げするフォローの風になってきた。しかも、2018年1月に始まった「つみたてNISA」の対象ファンドにも選定されたため、収益非課税のメリットも受けられるため、5000円、1万円を毎月コツコツ積立投資する投資家に真っ先に選ばれるファンドとしての地位を確立することができた。
積立投資の対象ファンドとして選ばれるようになった「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の特徴は、毎月の資金流入額が徐々に拡大していることだ。2021年1月に月間200億円程度だった月次の資金流入額は、21年9月には500億円規模に拡大し、22年入ると月間600億円を超えてきた。21年12月のピークには月間で800億円を超えたものの22年になって米国株価が低迷するようになっても、月間600億円前後の資金流入が途絶えない。これに対して、「アライアンス・バーンスタイン米国成長株投信Dコース(為替ヘッジなし)予想分配金提示型」の資金流入額は今年に入って激減している。1月に1200億円を超える大きな資金流入があったものの、2月に半減し、6月以降は資金流出にはなっていないものの100億円程度に資金流入が細っている。この流入額の差は、積立投資の設定件数の差といえるだろう。両ファンドの残高の差は、今年6月以降に急速に縮まっている。
ただ、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の残高増が、これまでのペースで維持することは、今後は難しくなりそうだ。米国の株価が足踏みするようになり、追い風だった円安にもブレーキがかかってきた。誰にもアドバイスを受けずにネットで購入してきただけに、これから米国株価が一段安になるようなことがあると、積立投資を継続できるかどうかが怪しくなってくるだろう。積立投資を開始した時に考えていた「(株価が上がっても下がっても)30年、40年続ける」という気持ちを持ち続けることができるかということがポイントになる。「資産形成のためにファンドを使う」ということが、「つみたてNISA」の積立投資によって、ようやく根付き始めたところだ。せっかく一歩を踏み出した投資家が、投資を継続できるよう、今後の情報提供が重要になってくる。「下げ相場は初めて経験する」という投資家が少なくないだろうことから、「下げ相場における積立投資の効果」などについて改めて周知されることが望まれる。(グラブは、国内最大級ファンドの純資産総額の推移)