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2022/12/16 19:00
ブラックロック・ジャパンは12月16日、オンラインでメディア向けに2023年の見通しについての説明会を開催した。同社のチーフ・インベストメント・ストラテジストである地口祐一氏(写真)は、2023年を迎えるにあたって「新しい局面を意識した投資指針」が必要と語った。そして、世界的な景気のスローダウンをどのように投資方針に織り込むのか、投資対象としての債券を再考、さらに、長期的な対応策として「インフレとの共存」が必要になるとした。特に、インフレとの共存については、「リーマンショック後に続いてきた低インフレ、低成長の時代には戻らないだろう。2023年以降はインフレになりやすい状態が続く」と見通していた。 地口氏は、2022年3月から始まった米国をはじめとした主要国の急速な利上げのインパクトはこれから本格的に経済に影響を与えるとし、「2023年以降に景気が減速する、あるいは、景気後退に陥るなど、今の時点で決めつけない方が良い」と語った。ただ、足元の証券市場は、「2023年の第4四半期ごろから、米国が利下げに転じ、2024年は米国の金利が低下していく」という期待で動いており、2022年9月以降、ハイ・イールド債市場や株式市場をはじめ、多くのリスク資産が上昇している。「マーケットは、2024年は利下げだから、今のうちに買っておくというような動きになっているが、これは、あまりに楽観的に過ぎる」と指摘した。このマーケットの楽観姿勢が2023年のリスクになりかねないという見方だ。 また、景気の方向性が見極めにくい現状にあって「最適な投資対象になり得るのが投資適格債券だ」とした。まず、債券の利回りについては、米国10年国債が4%程度、英国10年国債が3%程度、大陸欧州の10年国債が2%程度になっているが、これは、1年前の米国1%台半ば、英国1%、大陸欧州がマイナスという利回りの状況から様変わりしている。特に、「グローバルな投資適格社債の利回りと、株式の駅利回り・配当利回りを比較すると足元で投資適格社債の利回りの優位性が急速に高まり、投資妙味が増している」と語った。ただ、コロナ・ショック後の世界的な金融緩和によって、株式と債券の逆相関の関係が薄れてしまったように、「足元では債券は『株価下落のクッション』にはなりにくい。株式市場の先行きが不透明だから、リスク回避の手段として債券を保有するという投資の仕方は通用しない」と語っていた。 そして、最も強調していたのは、「もはや低インフレ、低成長の時代には戻らない」ということだった。(1)サプライチェーンの供給制約、(2)消費行動の変化、(3)労働力の供給制約、(4)インフレの上昇ペース、(5)中央銀行の政策対応のスピード、(6)地政学的なリスクなどという要因を加味して考えると、「現在は、第2次世界大戦後の1946年〜53年ごろの状況に似ている。当時は、戦中に抑えられていた消費行動が拡大し、それに伴うインフレで中央銀行が急速な利上げを実施した。労働者の供給力に制約があり、当時はインフレ圧力が強かった時代だが、現在も労働参加率が低いという課題を抱えており、中央銀行は常にインフレの状況に気を配り、必要に応じて金融引き締めに動きやすい環境にある」と分析していた。そのため、リスク資産への投資は選別が必要となり、状況変化に応じてアクティブに動くことが勝ち残るのは必要と語った。 このような環境にあるため、これからの投資指針は、「経済のスローダウンは価格に十分織り込まれているか(はい・いいえ)」と「市場のリスク・センチメント(オン・オフ)」という2つの軸からなる4つのパターンを意識したいという。現状は、「経済のスローダウンは価格に織り込まれていない」・「市場のセンチメントはリスクオフ」という状態にあるため、「株式」はアンダーウエイトで、「債券」に積極的になる場面といえるが、これが、「経済のスローダウンを価格に十分に織り込まれた」・「市場のセンチメントはリスクオフ」であれば、「株式」をオーバーウエイトにして「債券」は中立。さらに、「経済のスローダウンを価格に十分に織り込まれた」・「市場のセンチメントはリスクオン」になれば、「株式」により積極的なウエイトをかけ、「債券」はアンダーウエイトに修正など、状況の変化に応じた柔軟な考え方で市場に臨むことが重要とした。 最後に、日本株式については「投資妙味が高まっている」と指摘した。それは、日本はデフレが長らく続き、経済も株式市場も低迷してきたが、「インフレがはっきりとしてきた」ためだという。これは、企業が製品の値上げに踏み切っているためで、「これまでは米国S&P500に対し、TOPIX(東証株価指数)の利益率は劣っていたが、企業がコストを価格転嫁できるようになったことで、日本株式の魅力が高まっている。これは、過去30年間にはなかった変化だ」と日本株式に注目する必要があると語っていた。
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