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2022/12/20 18:00
2022年の証券市場は、ロシアによるウクライナ侵攻という想定外の出来事に始まり、米FRBをはじめとした主要国の急速な利上げ、そして、12月も押し詰まって世界の潮流から孤立していた日銀も金融政策を変更するなど、「当局者」の振る舞いに振り回された1年間になった。証券市場は予期せぬ出来事に弱い。1年間を通じて価格変動が大きな状態が続いた。ただ、その中にあってインド株式市場は堅調に推移し、年末には厳格なゼロ・コロナ対策の緩和が示唆された中国株式市場も復調気配になった。2021年の年末までは米国を中心とした先進国の大型株が株式市場をリードし、新興国市場への注目度は低いままだった。2023年を前に新興国市場の現状を確認しておきたい。 2021年12月末まで続いた世界的な金融緩和によって、市場に溢れ出た資金の受け皿として株式・債券市場やコモディティ市場が意識され、市場価格が上昇した。株式市場では、GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)に代表される世界的な大企業の株価が大きく値上がりした。しかし、その流れは、米FRBが22年3月に利上げに転換するとともに、主要国の金融政策が「引締め(利上げ)」に転じたことで一変した。米国の政策金利は、年初に年0%〜0.25%というゼロ金利状態だったものが、12月には年4.25%〜4.50%と1年間で4%以上も金利水準が上がった。 金融の世界で金利がゼロ%と4%台では、陸地が海に変わってしまったほどに大きな変化だ。ゼロ金利であれば、投資タイミングが多少間違えていても、待っていれば、いずれは挽回できるということも期待できた。しかし、金融引締めで市場に出回る資金の量が少なくなってしまうと、「流動性のあるものなら何でも良い」という感覚での投資は通用しなくなり、投資対象を選別し、慎重に投資タイミングを選ぶことを求められるようになる。年末になってさまざまな運用会社が出す来年の見通しでも、「選別投資」や「アクティブ運用の復権」は、重要なメッセージになっている。 新興国株式市場は、過去10年間にわたって米国株式市場の陰に隠れた存在だった。たとえば、米国株式インデックスに連動する「上場インデックスファンド米国株式(S&P500)」の過去10年間の年率リターンは22年11月末時点で18.37%に達している。非常に大きな上昇を続けてきたことがわかる。これに対し、中国株に投資する「三井住友・中国A株・香港株オープン」は13.23%だ。米中対立がいわれるが、株価だけでは米国が圧勝している。また、史上最高値を今年更新したインド株に投資する「新生・UTIインドファンド」は17.86%で米国株には及ばず、ブラジル株に投資する「ピクテ・インデックス・ファンド−ブラジル株」は1.81%になっている。新興国株式ファンドは、ファンドレーティングで5ツ星(★★★★★)の優れたファンドを選んだ。 ただ、米国が利上げに転じた過去1年間のパフォーマンスになると、「ピクテ・インデックス・ファンド−ブラジル株」が43.84%でトップに立ち、「上場インデックスファンド米国株式(S&P500)」が5.04%、「新生・UTIインドファンド」が2.22%、「三井住友・中国A株・香港株オープン」はマイナス14.53%という成績になる。 また、「コロナ・ショック」の2020年3月の下落からの動きになる過去3年間のパフォーマンスでみると、「新生・UTIインドファンド」がトップで年率19.82%、次いで、「上場インデックスファンド米国株式(S&P500)」の18.13%、「三井住友・中国A株・香港株オープン」の11.51%が続き、「ピクテ・インデックス・ファンド−ブラジル株」は2.20%と低迷する。 新興国株式に投資するファンドの運用成績をみると、ブラジル株は過去1年で異様に値上がりし、インド株式は過去3年にわたって上昇した関係で、ここへきて高値警戒感が出ている。そして、中国株は過去10年間は2ケタの年率リターンで比較的良い成績だったものの、過去1年間は大きく下落してしまっている。過去1年間で中国が低迷してしまったのは、コロナに対して他の国々が「ウィズ・コロナ」として経済活動の再開に踏み切ったことに対し、中国だけはコロナの封じ込めをめざす「ゼロ・コロナ政策」を継続したこと、また、ウクライナへの侵攻で世界から孤立するロシアに寄り添う姿勢を続けたことなど、他国とは異なる立場をとっていたことなどが影響していると考えられる。 ウクライナ侵攻を続けるロシアを除く、主要な新興国市場である中国、インド、ブラジルのそれぞれの株式市場は、それぞれの事情に応じた独自の動きをしてきた。その中で、「コロナ・ショック」以来、他の地域と比較して上昇力が弱かったブラジル株が2022年に大きく上昇したことと22年に中国株が大きく下落したことが注目される。中国株は、2021年2月にピークを付けて、その高値から2年連続でマイナス成長をしている。このように主要な新興国の中でも株価の低迷が目立つ中国は、「経済再開」の動きが本格化するのであれば、2023年に活躍が期待される市場として注目できそうだ。中国から発せられる政策に関するメッセージに注目していきたい。(グラフは、インド・中国・ブラジル株ファンドの過去3年間の推移)
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