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2022/12/21 17:36
国内最大の公募投信(ETF除く)である「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信 Dコース毎月決算型(為替ヘッジなし)予想分配金提示型」は2022年12月分の分配金をゼロとした。2022年は、3月、5月、6月の分配金がゼロで、1年間の分配金の累計は1万口当たり1100円になった。これは、2014年9月の設定以来、2016年に分配金が年間ゼロだったことに次ぐ、厳しい運用期間だったことを示している。2023年は、2022年中に急激に引き上げられた政策金利の影響等で、米国がリセッション(景気後退)に陥るという見方もある。残高が約1兆7000億円にまで膨らんだ同ファンドが、分配金を再開できるのはいつのなるのだろうか? 同ファンドの分配金は、ファンドの基準価額の位置によって予め決まっている。11000円以上12000円未満の場合は200円、12000円以上13000円未満の場合は300円、13000円以上14000円未満の場合は400円、14000円以上は500円だ。そして、基準価額が11000円未満の場合は基準価額の水準を勘案して決定となっているが、この場合はこれまでは分配金がゼロになっている。10000円で運用がスタートしたファンドが、投資した株式の値上がり等によって基準価額が11000円以上に上昇した場合にその上昇額の一部を分配する仕組みだ。このような条件の下で、毎月のように分配金を支払い続けてきた同ファンドは、極めて運用成績の良いファンドということになる。分配金を支払うと、基準価額は支払った分配金の額だけマイナスになるため、基準価額が安定的に上昇を続けないと、毎月のように分配金を支払うことはできない。 過去の分配金の支払い実績は、99カ月中で分配金ゼロが23回(23%)、100円が27回(27%)、200円が39回(39%)、300円が10回(10%)だ。毎月の分配可能月のうち76%で分配金を支払ってきている。そして、年間の累計分解金額は、2016年を除けば、22年の1100円を最低に、19年に1200円、15年と18年が1800円、17年が1900円、20年が2000円、21年が3300円となっている。1万口あたり年間1000円以上の分配金は10%以上の収益に相当する。それを設定から8年間のうち7年間で実現したことになる。設定来の分配金の累計は1万3500円だ。 これまで唯一分配金の支払いがなかった年が2016年だ。この年は、前年の2015年末にFRBが9年半ぶりの利上げに踏み切り、年初から米国株価が大きく下落した。その後、2016年に年間4回の利上げを実施すると計画していたFRBが株価の下落等によって利上げの実施を見送り、3月以降に緩やかな株価上昇に転じた。しかし、6月には英国のEU離脱(Brexit)によって株価が波乱し、11月には、減税や財政支出の拡大といった景気刺激的な政策を掲げるトランプ大統領が選出されたことなどを受けて、年末に向けて株価が上昇していった。「S&P500」指数は年間で10%程度の上昇に終わった。株価は1月〜2月に下落した後、3月に反発して横ばいとなり、11月後半にトランプ大統領への期待で年末まで値上がりするという展開だった。1年を通じて、基準価額が分配金を支払う水準である11000円を抜けきれなかった1年だった。2016年の年末に株価が大きく上昇したため、2017年は1月から分配金の支払いを再開している。 2023年はいつから分配金を支払えるようになるだろうか? 12月の分配金をゼロと決めた決算日(毎月15日)の基準価額は9957円だった。これが12月20日には9383円まで下落している。分配金を支払う基準価額の水準11000円を回復するためには17%以上の値上がりが必要だ。一息に上昇するには、かなりのエネルギーが必要になる。株価上昇のエネルギーとして考えられるのは、2023年以降も継続すると見通されているFRBの利上げが想定よりも早く終了する、あるいは、ウクライナ紛争が早期に終結するなどの想定外の好材料が必要だと考えられる。米国が想定通りに現在の年4.25%〜4.50%という水準を、年5.00%〜5.25%にまで後0.75%利上げするのを待っているような環境だと、なかなか株価が上昇する勢いがつかないだろう。さらに、米国がリセッションに突入などという事態になると、同ファンドの基準価額が11000円を超えることは厳しいかもしれない。 このように2023年を見通すと、同ファンドが23年中に分配を再開するのは難しいかもしれない。予想分配金提示型のファンドは、基準価額が一度大きく下落してしまうと、分解の再開まで比較的時間を要する傾向がある。ただ、ファンドから得られる収益は、分配金だけではなく、基準価額の上昇による売買差益(キャピタルゲイン)もある。同ファンドが投資対象としている「米国成長株」は、マイクロソフト、VISA、アルファベット(グーグルの持ち株会社)など、米国だけでなく世界の市場で活躍する企業が多い。優れた経営戦略によって米国の景気は足踏みしていても、景気の良い国での事業収益によって企業としての収益を大きく伸ばす可能性はある。2023年だけではなく、また、毎月の分配金ばかりではなく、より長期の目線で楽しみがある運用を行っている同ファンドに、引き続き注目していきたい。(グラフは、「AB・米国成長株投信Dコース」の設定来の基準価額と分配金の推移)
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