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2022/12/26 18:03
国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の中で、食料の安定供給は「貧困や飢餓を失くす」という、もっとも基本的で重要な世界的な課題になっている。日本では、農業の衰退がいわれて久しい。日本の食料自給率は38%(カロリーベース)と先進国の中で非常に低い水準にあるが、その自給を支える農業の衰退に歯止めをかけなければ、日本の豊かさが脅かされることになりかねない。近年のESG投資の一環として、この「食料問題」にフォーカスしたファンドも表れているが、鎌倉投信が運用する「結い2101」では、「循環型社会を創る企業」に着目する中で、「日本の農業に革命を起こす」という理念を掲げて接ぎ木苗で日本一の「ベルグアース」<東証スタンダード:1383>に投資している。12月22日に開催した「『いい会社』の経営者講演」ではベルグアースの代表取締役社長の山口一彦氏が講演し、オンラインで「結い2101」の受益者に「日本の農業に革命を! 37年の歩みとこれから」について熱弁した。 鎌倉投信では「結い2101」を設定した2010年から、約12年にわたり、ファンドの受益者と投資先の「いい会社」をつなぐ場づくりや情報発信に積極的に取り組んでいる。受益者と投資先企業の触れ合いの場として年1回の「受益者総会」では複数の投資先企業が登壇して事業内容のプレゼンなどを行う代表的な場になっているが、「受益者総会」の他にも、「いい会社訪問」や「『いい会社』の経営者講演」などを行って、投資先企業の生の声を届ける活動を行っている。 「結い2101」は、「ベルグアース」に2012年10月から10年間にわたって投資を続けている。投資した当時の同社の株価は1000円程度の水準だったが、直近では2800円を超えるほどに株価が上昇した。ただ、同社の足元の業績は2022年10月期が4400万円の経常赤字で、2020年10月期から3期連続の赤字決算になった。この厳しい決算を受けて、創業社長である山口氏が、これまでは担当役員にまかせていた主力事業の苗事業を22年11月から直接指導する体制に改めて業績の回復を図る決断をしたばかり。講演を通じて、日本の農業に対する危機感と、その危機にチャンスを見出し、農業の再生に向けた変革を提案し続けている同社の変革への強い意志が感じられた。 山口氏は、日本の農業について、「農業の役割として『食の供給責任』が非常に重要だが、ここには様々な課題を抱えている」と農業の衰退に歯止めがかかっていないと現状を語った。山口氏は、「食料を供給する農家が、食べることに困るような、農業だけで生活ができない現状はおかしい」という子供時代の素朴な思いが創業の発端だったと語る。同社が本社を置く、愛媛県宇和島市は、農地が少なく、多くが半農半漁で生計を立てる土地柄で、山口氏の生家も農業の傍らで豆腐屋を営んで暮らしていたという。「農家が農業で生計を立てるのは大変だと感じるばかりでなく、消費者も農業は大変だと思っている。ただでさえ生産者の高齢化が進んでいるのに、農業を新しく始める人もどんどん少なくなって農業の衰退が止められない」と危機感を持つ。 同社が主力とする野菜の苗は、「計画的に生産する基になる。種から苗に育てるには手間もかかり、1000粒の種から苗が何本育つのかは計算しにくい。ところが、苗からだと、どの程度の実が生るかは、ある程度は予測できるため、計画的な供給につながる」という。現在、同社は接ぎ木苗でシェア10%を持つ国内トップ企業だが、これを将来的には25%程度のシェアに高めて、野菜の安定供給に貢献したいとする。同社の苗は、独自に開発した茎の部分だけで出荷し、根や土のない状態で流通しているため、輸送コストの大幅な削減を実現している。また、ウイルスガード苗(ワクチン苗)の開発に注力し、食物ウイルスに強い苗の開発をめざしているとした。山口氏は、「農地が少なく、大量消費地から遠い宇和島で創業したからこそ、輸送コストが低い苗の開発に取り組んだ。困難がイノベーションを起こす」と、宇和島で経営しているからこそ、様々な新商品を生み出す力がわいてくると語った。 そして、日本の農業が抱える課題が大きければ大きいほど、同社が成長する可能性も広がるという考え方だ。山口氏は、「日本の農業の抱える高齢化や労働力不足には、大きな構造変化が必要になっている。持続的農業への転換を進める、新しい担い手を育てる、地域と一緒になって農業経済を回す、ロボットやAI(人工知能)を活用したスマート農業を普及するなど、様々な取り組みが進んでいる。これらの構造改革には、新しい技術の採用とともに、農業の基本を織り込んでいくことが重要だ」とした。同社は、種から苗を育てるという農業を行いつつ、様々なイノベーションを起こしてきた実績がある。このたゆまぬ努力の先にこそ、日本の農業の未来があると語っていた。同社は、日本で「減反政策」が行われ、稲作から野菜作りへの転換が大きなうねりとなる中で野菜の苗の提供という事業で成長の礎を築いた。今、農林水産省が「みどりの食料システム戦略」を打ち出して持続可能な農業の推進を強力にバックアップする中で、同社のイノベーティブな取り組みがまた合致して、同社を次の成長ステージに運んでいくような印象を受けた。(写真中央は、「『いい会社』の経営者講演」で講演したベルグアース社長の山口一彦氏。左は、鎌倉投信の資産運用部長の五十嵐和人氏、右は鎌倉投信社長の鎌田恭幸氏。提供:鎌倉投信)
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