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2023/01/10 18:24
1月10日に発表された2022年12月の東京都区部の消費者物価指数(CPI)は、価格変動が大きい生鮮食料品を除いた指数「コアCPI」で事前予想の前年同月比プラス3.8%を上回るプラス4.0%となり、1982年4月以来の高いインフレ率になった。ただ、この40年ぶりとなる高いインフレ率という情報に対しても、長期金利の指標となる新発10年国債利回りは日銀の変動許容上限である0.5%に張り付いたままで動かない。米国の金利がインフレ率や雇用統計などの経済指標によって3.5%台から4.3%台の間で上下動を繰り返し、欧州の債券も10年債利回りが2%〜3%程度の水準で変動していることなどと比較すると、日本の金利が低位に固定されていることが異様にみえる。2023年は、この日本の金利が日銀の管理から離脱できるかどうかも大きな投資テーマの1つになっている。為替リスクを考えながら、2023年の投資戦略を考えてみたい。 日銀の金融政策は、2022年12月20日に、長期金利の許容変動幅をプラスマイナス0.25%程度から、プラスマイナス0.5%程度に拡大するよう修正した。これによって、それまでは0.25%程度の水準に張り付いていた新発10年国債利回りが0.4%台に跳ね、1ドル=135円を超えていたドル円相場は130円台の円高に振れた。その後も為替の円高圧力は収まらず、1ドル=130円割れの水準にまで円高が進むようになっている。この円高への圧力は、米国において、アマゾンやゴールドマン・サックスといった大手企業が人員削減の計画を公にし、米22年12月の雇用統計でも賃金の伸びが鈍化するなど、景気後退によるインフレのピークアウト感が強まって、米国の長期金利が低下していることも背景にある。 このような金利変動、為替変動によって、国内ファンドのパフォーマンスは大きな影響を受けている。たとえば、米国S&P500に連動する運用成績をめざす「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の基準価額は、2022年12月1日に1万9728だったが、2023年1月6日には1万7987円と、約8.8%の下落率になっている。この間の米国「S&P500」指数は基準価額を計算する対応日(直前日)11月30日の終値4080.11が、1月5日の3808.10までの下落率約6.6%を大幅に上回っている。わずか1カ月程度の短期間で2%ポイントも変動率に差が出てしまうと、株価指数に連動する運用成績をめざすというファンドの趣旨とは異なる成績に感じられるだろう。 もちろん、ファンドは「為替ヘッジなし」であるため、為替変動リスクがあることは覚悟の上の話だ。2022年に大幅に円安が進んだ時には米国株価指数が下落しているにもかかわらず、ファンドの基準価額は、円安の影響で下落しないという動きにもなり、その当時に受けた円安メリットを円高で吐き出しているだけともいえる。ただ、同じ株価指数を対象とした投資商品でありながら、その商品を購入するタイミングで運用成績が「円安」「円高」のために大きな影響を受けてしまう状況は、決して好ましいものではない。 このように大きな為替変動の影響がファンドの運用成績に出てしまうのは、日本の金利だけが固定され、米欧の金利は市場環境に応じて変動しているという金融政策の歪みの影響も作用している。金融政策は各国固有の事情に基づいて行われるため、必ずしも足並みが揃うわけではない。むしろ、2022年までは、日本の金利がゼロ%台で固定され、米欧の金利がインフレ抑制のために上昇することによる「円安」を前提に運用戦略を組み立てることができた。「資産形成でリスク資産を組み入れるのであれば海外の資産で」ということが、成功のポイントになってきた。海外の方が経済成長率が高い、かつ、金利も高いため、国内資産よりも海外資産の方が高い収益率が期待され、かつ、為替も円安で追い風になることが見込まれた。 しかし、現在のように、日本国内でインフレ率が高まり、日本の金利に上昇圧力が強まってくると、「投資するなら海外資産」という決めつけが通用しなくなる。まして、2022年は米国の政策金利はゼロ%から4.25%も上昇した。この急速な金利引き上げによって米国景気の減速、場合によっては、マイナス成長に落ち込むことが懸念され始めている。つまり、利上げで出遅れた日本に金利上昇圧力がかかり、米国金利には利下げへ政策転換するタイミングが問われるようになっている。このため、為替は円高に進みやすい環境になっている。円高の傾向が強まれば、海外資産への投資は「円高による価値目減り」のリスクを負う。特に金利水準が読みやすい国債を主要な投資対象としたファンドになると、1ドル=130円台から120円台への円高(8%程度の円高)によって、利回りで得られる収益(年2%〜4%程度)が吹き飛んでしまうというようなことが起こってしまうことになる。 このように考えると、2023年の資産運用戦略は、海外資産に投資する際には、慎重に投資対象を選ぶ必要がある。利回りが年5%以下の債券への投資は為替変動で実質的な収益が得られない可能性がある。また、国内債券には金利上昇による価格下落リスクが強いため、国内資産を選ぶ際には、債券よりも株式に期待が持てそうだ。しかし、金利上昇は、借り入れが多い企業には収益の圧迫要因になる。国内株式に投資する際にも、投資対象を選んで投資するアクティブファンドに活路がありそうだ。2022年に増して難しい投資環境とみて、気を引き締めて資産の行方を注視していきたい。(グラフは米「S&P500」指数と代表的なインデックスファンドの動き)
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