前のページに戻る
2023/01/16 17:57
ネット銀行等で外貨預金の獲得キャンペーンが活発になっている。ある銀行では、1年もの米ドル建ての金利が年5%としている。あるいは、1カ月ものの米ドル金利が年10%という特別金利を表示している銀行もある。米国の政策金利が22年12月に年4.25%〜4.5%になり、この1月末に開催される政策決定会合でも一段と利上げされる見通しにあり、米国の短期金利(1カ月〜1年)が年4%台後半に上昇していることを捉えたキャンペーンと考えられる。この高金利の恩恵を享受しようと、投資信託市場でも単位型のヘッジ付き外債ファンドが活発に設定されている。しかし、これらファンドの想定利回りは年1%程度となっており、外貨預金の水準と比べると大幅に低い。為替ヘッジのコストが跳ね上がっているためだ。 世界の中央銀行の中で先陣を切って利上げを実施し、その後も歴史的なスピードで金利を引き上げている米国では現在年4%台の政策金利を2023年末までに5.00%〜5.25%の水準に引き上げると見通されている。米国内のインフレ率が前年比プラス6.5%という高い水準にあることが、利上げが継続されるという見通しの背景にある。そして、年4%を超えた米国の短期金利の水準を映して、国内のドル建ての外貨預金の金利は大きく上がっている。もっとも、米国では急速な利上げによる景気押し下げ効果によって今後の景気が悪化するのではないかという見方が強まっているため、5年、10年など長期の金利が短期金利よりも低くなるという現象が起きている。このため、外貨預金の金利も3年もの、5年ものなど長期の金利は短期の金利よりも低くなっている。 年5%の外貨預金は、非常に魅力的な利回り水準だ。たとえば、世界最大級の資産運用機関であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の2001年以来20年間あまりの年平均収益率は3.47%だ。GPIFは資産の保全を大きなテーマとして運用しているが、現在は運用資産の約5割は株式で運用している。株式に投資するリスクをとっていても3.47%の運用成績であることと比較すれば、それを大幅に上回っているのである。しかも、外貨預金の利回りは固定だ。1年もの定期預金で年5%で預け入れれば、1年後には間違いなく資産が5%増えている。今後の価格変動のある株式等とは決定的な違いである。 ただし、米ドル建て外貨預金で5%増えるのは、米ドル資産だ。100ドル預けた資金が105ドルになる(税金を差し引かれて104ドル弱)。1年後も預入時である現在の1ドル=130円前後で変わらないなら、年5%のリターンが確定することになる。しかし、1年後に130円の5%に相当する6.5円以上(1ドル=123.5円以上)の円高・ドル安になっていれば、年5%の預金利息は吹き飛んでマイナスのリターンになってしまうことになる。現在、米国の長短金利が逆転するという異常事態にあるため、外貨預金に対する為替リスクがかつてなく高くなっている。2022年が大幅な円安・ドル高の1年間であっただけに、2023年は米ドルに対し日本円が上昇する1年になるという見方が強い。 為替変動リスクを避けるため、外国資産に投資するファンドの中には「為替ヘッジ」の機能が付いた商品がある。ドルの資産を持つ場合、その資産に応じたドルを購入時と同じレートで売却する手続きをすることで、為替変動の影響から資産を守るようにする。この資産保全にかかる費用を「ヘッジコスト」といい、概ね「外貨の短期金利と日本円の短期金利の差」になる。過去1年余りにわたって、日本円の短期金利はマイナス水準にある中で、米ドルの短期金利はゼロ%台から4%以上に値上がりを続けてきたため、ドル円のヘッジコストは急速に上昇した。現在では1カ月、および、3カ月ヘッジコストは年率5%程度になっている。2021年9月ごろまでは年率0.2〜0.3%程度であったこととは大違いだ。 現在、海外の高金利を資産運用に取り入れるため、単位型の外債ファンドが積極的に新規設定されている。現在募集されているのは、2月20日設定予定の「HSBC グローバル・ターゲット利回り債券2023−02(限追)(愛称:グロタ2023−02)」、翌21日設定の「明治安田 NBグローバル好利回り社債2023−02(限追)」、2月28日設定の「日本企業社債ファンド2023−02(愛称:和ごころ2023−02)」などになる。これらは、信託期間が5年程度のファンドで、信託期間内に償還を迎える社債等を投資対象とし、満期まで持ち切る運用を行うことで価格変動リスクを限定し、しかも、為替は原則ヘッジすることによって為替リスクもとらない。単純に考えれば、為替ヘッジのついた期間5年ものの外貨預金のような商品だ。これらファンドの期待される利回りは、「グロタ2023−02」の新規設定のニュースリリースで「利回り年約1%(円ベース、信託報酬控除後)をめざす」としている。年5%という現在のヘッジコストを考えれば、妥当な目標水準と考えられる。 外貨預金の表面的な利回りの高さは、為替リスクを慎重に考える必要がある。2023年は、米国が利上げの打ち止めの決断をする1年になるといわれ、また、日本は日銀総裁の交代や現在は10年国債利回りの変動上限を年0.5%に固定しているYCC(イールド・カーブ・コントロール)の見直しが検討されるなど、為替変動の要因が多い1年になりそうだ。市場の変動をしっかり見ながら投資判断をしていきたい。(グラフは、ドル円の長期推移、月末ベース)
ファンドニュース一覧はこちら>>