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2023/01/19 18:06
2023年の資産運用環境は、株式運用の主戦場である米国株式市場が景気後退懸念から不透明な見通しになっていることもあって、「どこにも逃げ場のない酷い市場だった2022年」ほどではないにしても、かなり難しい環境になっている。そのような環境の中で、安定的な収益を確保できる資産として国内の「J−REIT(不動産投資信託)」に注目したい。日興アセットマネジメントのチーフ・ストラテジストである神山直樹氏は、1月18日の動画コメント「KAMIYAMA Seconds!」で「J−REITは割安とみる」と発信している。神山氏の指摘のポイントを実際のJ−REITファンドの運用状況から検証してみた。 ファンドレーティングで最も運用成績が優秀なファンド群に付ける5ツ星(★★★★★)のファンドは、通貨選択型を除くと実質的に「フィデリティ・Jリート・アクティブ・ファンド」と「J−REITオープン」の2ファンドしかない。ともに優れた運用成績を残してきたファンドだが、2022年の1年間のパフォーマンスは悪い。「フィデリティ・Jリート・アクティブ・ファンド(資産成長型)」の2022年12月末現在の1年トータルリターンはともにマイナス3.50%、「J−REITオープン(年4回決算型)」はマイナス3.29%で、ともにカテゴリー平均マイナス2.64%を下回った。22年12月には日銀が唐突に長期金利の許容変動幅を拡大し、長期金利が0.25%から0.5%近辺に急騰(債券価格は急落)したことなど、年を通じて難しい市場環境にあったため、市場を上回る成績をあげることもまた難しかったと考えられる。 J−REIT市場は、新型コロナウイルスの感染拡大によって、ホテルや商業施設などの稼働率が落ちたこと、また、リモートワークの進展によって都市部のオフィスの需要も低下し、オフィスの空室率が高まるなどのREIT独自の悪材料も重なっている。2020年3月の「コロナ・ショック」では、J−REITは株式を上回る大幅な下落相場になってしまった。ただ、新型コロナは今春にも就業制限などを伴う「2類相当」から季節性インフルエンザ並みの「5類」に分類の引き下げが検討されるほど、ワクチン接種や感染予防などといった国民の対応が進んだ。外国人観光客の受入れも始まり、行動規制によって収益機会を失っていたホテルや商業施設も徐々に平常に戻る見通しだ。オフィスについては東京都心5区の賃料が22年11月まで28カ月連続の下落となるなど、依然厳しい状況に変わりがないが、空室率は東京、大阪、名古屋、仙台などの大都市部では低下傾向もみられ底入れを感じさせる動きになっている。 ただ、多くのJ−REITが多額の借り入れによって物件の取得を行っていることから、国内金利が上昇することになると借り入れコストの上昇によって収益が圧迫されることにつながる。日興アセットの神山氏は「今後の日銀の長期金利誘導幅拡大があっても0.5から0.75パーセントに上昇する程度だと見られる」と過度な金利上昇懸念は不要との立場だ。そして、「インフレを背景とした家賃改定が進む今後2年程度のうちには、分配金の回復が期待される。昨年末3.9パーセント程度となった分配金利回りは、今後の投資環境の改善を前提とすれば、長期的に割安と考える」としている。 神山氏も指摘する通り、J−REITの分配金利回りは、非常に魅力的な水準にある。外貨預金等の表面利回りは為替変動によって大きな影響を受けるが、J−REITの分配金利回りは円金利だ。そして、コロナ禍でJ−REITの脆弱性が懸念されたことによって株式以上に価格が下落したためにかさ上げされたという側面もある。今後、コロナ禍からの脱却を図っていく日本経済が安定成長の軌道に戻ってくれば、過度に下落したJ−REIT価格が戻ってくることも期待できる。この水準で投資すれば年4%に近い高い利回りを確保しながら、投資したJ−REITの値上がりの期待まであるということになる。 ちなみに、22年11月末現在で、「フィデリティ・Jリート・アクティブ・ファンド」のマザー・ファンドの予想配当利回りは3.95%で同時点の東証REIT指数の3.82%を上回っている。また、「J−REITオープン」の22年12月末現在のマザー・ファンドの予想配当利回りは3.8%になっている。 なお、「TOPIX(東証株価指数)」と「東証REIT指数」の過去の値動きを比較して分かる通り、株価に対してREIT価格は、株価が上がっている時にREIT価格は下落し、反対に株価が下落している時にREIT価格が上昇するなど、逆の動きをすることが少なくない。現在、株式に投資するファンドを保有している投資家は、REITファンドを持つことによって、資産変動リスクを抑える分散投資効果が期待できる。そして、2014年1月27日を起点として2023年1月18日までの成績を比較した場合、「TOPIX」に対して「東証REIT指数」は負けているが、5ツ星ファンドは2ファンドとも「TOPIX」を上回る成績になっている。優れたアクティブファンドのパフォーマンスの優位性に注目したい。(5ツ星のJ−REITファンドとTOPIX、東証REIT指数の推移)
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