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2023/02/02 17:42
世界最大級の債券アクティブ運用者であるPIMCOの日本拠点であるピムコジャパンリミテッドの日本における代表者兼アジア太平洋共同運用統括責任者の正直知哉氏(写真)は2月1日、メディアを対象とした勉強会を開催し、「最新の短期経済展望と投資戦略」について語った。正直氏は2022年の市場を「インフレ(物価上昇)が高止まりする中で、各国の中央銀行が利上げを実施したことで、債券価格が下落し、同時に株価も下落するという非常に厳しい投資環境になった」と振り返ったものの、「そのような環境は過去のものとなりつつある。特に、高格付けの債券の魅力が高まっている」とし、「『Bonds are back』といえ、これから投資の世界で債券が復活してくる」と見通した。 正直氏は、2023年の経済のベースとして3つのテーマがあるとした。(1)インフレ圧力の緩和、(2)中央銀行は政策金利を景気抑制的な水準に維持、(3)浅い景気後退――の3つだ。中で、インフレについては、2022年に高進した要因であった、コロナ禍によるサプライチェーンの混乱、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけとしたエネルギー価格の高騰などは一巡し、また、コロナ対策として各国で様々な支援策が打ち出された財政支出による需要の刺激策による効果も一巡感がある。「米国で前年比プラス7%の水準に上昇したインフレ率は、早晩、4%程度のインフレ率に低下すると見通される。ただ、ここから政策当局が目標とする2%の水準に下がるのは時間が必要になる。たとえば、家賃の値上げなどは契約の関係で調整には時間がかかり、サービス分野で続いている人手不足による賃金上昇が高止まりしているなど、粘着性の強い品目の価格上昇は続いているためだ」(正直氏)とした。 ただ、政策金利の水準は「引き締め政策の終盤にきている」との見方だ。米国は政策金利(FFレート)を2月に4.75%の水準にまで引き上げたが、残り1回程度の利上げで「米国は5%近辺で打ち止めになりそうだ」との見方を示した。ユーロ圏は中立金利の水準が3.0〜3.5%程度と考えられ、その水準でピークとなりそうなど、「政策金利の上限については現在のマーケットが、ほぼ織り込んでいるという水準になっている」とした。また、世界景気については、IMF(国際通貨基金)の見通しと同じように、「きわめてマイルドな景気後退になる」という見通しだ。「過去1年間でリーマン・ショック前と同じような金融引締めを行ったものの、当時と比べると米国の企業や家計のバランスシートは健全、かつ、中国の経済再開が世界経済の下支えとして働くだろう」と見通した。 しかし、このような見通しに対して、日本経済は異なるサイクルで動いているとし、「2023年の日本経済は潜在成長率を上回る成長を遂げるだろう」との見方だ。それは、これまで長年にわたって動いていなかったインフレが始まったことが重要だとした。このため、日銀の政策は、2022年12月に手を付けたイールドカーブコントロール(YCC)の調整を一段と進め、「YCCをやめる、または、変動幅をプラスマイナス1%に拡大するなど管理を形骸化するような変更が考えられる。マイナス金利をゼロ%に引き上げるには、ややハードルが高いが、インフレ率の推移を確認しながらゼロ%以上に引き上げることを検討するようになるだろう」と語った。ただし、このような日銀の政策には変化の方向性が見えるものの、「インフレ率が目標の2%で定着するということは非常に難しく、日本の長期金利は年1.0%を超えて上がるようなことはないだろう」という見通しだ。 このような経済見通しに基づく投資戦略として「債券の価値が高まっている。レジリエンス(弾性)の強いポートフォリオでは債券の価値が高まり、よりアクティブな投資機会が多くなっている」とした。特に、実質金利を示す米国のインフレ連動国債(5年)の利回りが「リーマン・ショック後に初めて1%を超えてきた」ことに注目してほしいという。「投資の目的は、トータルリターンの獲得をめざすということに加え、インフレに対して資産を守るという目的も大きい。実質リターンがプラスになる投資対象の価値は大きく、長年にわたってゼロからマイナスだった実質リターンがプラスになってきたことは、債券にとって非常に大きな変化だ」(正直氏)とした。 そして、様々な種類の債券の利回りが上昇している中で正直氏は、「トリプルA(AAA)など高格付け債券や中短期の債券の利回りが上がっている。これらの債券は、想定よりも景気後退が深刻だった場合、金利低下によってキャピタルゲインが狙えることも魅力だ。これまでは、高格付けの債券等に利回りがなかったため、信用リスクをとったハイ・イールド債などに収益機会を見出そうとしてきたが、今は、高格付け債券でも高い利回りで投資することができる。債券投資には非常に良い機会だ」と語った。 また、エージェンシー・モーゲージ(資産担保証券の中でファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)やフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)など政府系住宅金融会社が元利支払いを保証した証券)も魅力的だとした。「米国の住宅保有者のバランスシートが健全なこと、また、住宅の在庫の水準が低いことなどから、米国の住宅市場が大きく崩れる心配は小さい」と語っていた。さらに、社債の市場も格付けの高い投資適格債に魅力的な利回りの債券が増えていると指摘した。「債券の市場でもアクティブに債券を選択することによって、より魅力的な投資が可能になる環境になっている」と語っていた。
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