前のページに戻る
2023/02/08 16:00
先進国株式(MSCIワールド・インデックス)と新興国株式(MSCIエマージング・マーケッツ・インデックス)のパフォーマンスを比較すると、2010年10月までは新興国株式が先進国に優位に推移する展開だったものの、その後は先進国株式が優位な状態が長く続いた。この先進国優位の状況は、指数の対比では2022年10月に底を入れて、新興国が状況に転じている。新興国と先進国との関係が、今後どちらが優位な状態になっていくのか見通すことは難しいタイミングだが、イーストスプリング・インベストメンツ(シンガポール)のポートフォリオ・マネジャーであるスティーブン・グレイ(Steven Gray)氏は23年2月に、「新興国は、世界的なグリーン投資の拡大とバリュー株志向の流れの中で大きな投資チャンスに恵まれている」とするレポートを出した。12年以上にわたって先進国の後塵を拝してきた新興国が、先進国を上回るパフォーマンスに転じるのか? グレイ氏のユニークな視点に注目したい。 グレイ氏の注目ポイントの1つである「グリーン」は、地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」にある“気温上昇を1.5度C以下にとどめることを目指す”ことの実現に向けては、依然として国際的にグリーン投資の規模は圧倒的に不足している。2050年のネットゼロ社会の実現に向け、今後投資が加速していくと見込まれる中で、新興国にグリーン投資の恩恵が期待されるとしている。特に、ロシア・ウクライナ戦争に端を発した世界的なエネルギー危機は、環境に配慮したグリーンエネルギー社会への移行を加速させ、クリーンエネルギーへの新たな投資計画が社会的に支持されるようになっている。グレイ氏は、「エネルギー・セクターに対する投資は、現在は世界のGDPの2.5%程度だが、2030年には4.5%に増加する見込み」とエネルギー分野への長期的な投資拡大に注目している。 このエネルギー分野への投資は、「グリーン電力」、「電力貯蓄ネットワークの改善」、「グリーン燃料」、「エネルギー効率の分野」など幅広い投資分野があり、先進国に加えて新興国も2030年〜50年にかけて大きな投資が見込まれる。世界の年間クリーンエネルギー投資額は、2030年までに現在のレベルから50%以上増加し、2兆米ドルを超えるとされ、2050年までにネットゼロを達成するためには、クリーンエネルギー投資の金額水準は年間4兆米ドルに達する必要があると見通している。そして、EV(電気自動車)の量産化でリチウムの需要が増大したように、新しいエネルギー関連への投資の増大は、新たな需要が高まるコモディティ価格の上昇によって多くの新興国に恩恵をもたらすと見通している。 たとえば、高騰したリチウム価格に対処するためリチウム鉱山の開発プロジェクトが活発になった。国際エネルギー機関(IEA)によると、今後10〜20年でリチウムの需要が40倍になると予想され、未開発のリチウム埋蔵量のほとんどを占めるボリビア、アルゼンチン、チリの3カ国には多くの開発期待がある。現在のリチウムの生産地はオーストラリアが最大の産出国で世界需要の50%超を生産しているが、今後10年間でアルゼンチンが世界の生産量の10%を担うようになると期待されている。このように「グリーン分野への設備投資の増加に伴い、コモディティ価格は総じて上昇に転じ、新興国に恩恵をもたらす」(グレイ氏)と予測している。これは、2000年代前半に世界的なコモディティーブーム期に設備投資が盛んになった時に、新興国株式が先進国株式よりも良好なパフォーマンスになったことを想起させるとしている。 一方、新興国の株式市場で「グロース株」と「バリュー株」のスタイル別でパフォーマンスを見てみると、新興国バリュー株インデックスは、コモディティ分野の投資が増えた期間に新興国市場全体をアウトパフォームする良好なパフォーマンスを残した。そして、現在は新興国株式の中で、「グロース株」と「バリュー株」で比較したバリュエーションの格差は、プラス2の標準偏差に迫るほど過去最大に開いている(グロース株に対してバリュー株の割安度が際立っている)。 株価純資産倍率(PBR)でみると、新興国株式は先進国株式に対して非常に割安な水準にあるが、グレイ氏は世界的なグリーン投資の拡大や新興国株式市場の現状などを考えると、「この機会を捉える最良の方法は、新興国市場の低炭素をテーマにしたバリュー株投資にある」としている。イーストスプリングでは、このようなテーマに関連する運用戦略をグループ内で2022年9月から運用している実績があるが、日本国内では現時点では提供されていないという。 市場環境が大きく変わろうとする中にあって、新興国株式を次の活躍が期待される資産として注目する論調が増えてきている。その中にあってグレイ氏のレポートは、新興国株式に、これまでとは異なる視点で注目ポイントを明示したものとして注目される。(グラフは、新興国株式指数と先進国株式指数の推移)
ファンドニュース一覧はこちら>>