2023/02/10 16:39
2023年1月の月間騰落率ランキングは、レバレッジを使ってパフォーマンスを増幅するファンドを除くと「グローバル・フィンテック株式ファンド」、「みらいコネクトファンド」、「デジタル・トランスフォーメーション株式ファンド」、「グローバル・プロスペクティブ・ファンド」、「グローバル・エクスポネンシャル・イノベーション・ファンド」など、日興アセットマネジメントが米国アーク(ARK)・インベストメント・マネジメントの助言に基づいて運用しているファンドが上位を占めた。アーク社が助言するファンド群は、「ディスラプティブ(破壊的技術)」という言葉に象徴されるような、破壊的イノベーションによって従来の概念を覆すような成長を遂げる企業の発掘にある。いわゆる「ハイテク・グロース株投資」の代名詞だ。これらのファンドが一斉に反転したことは、2022年の1年間で大幅な下落となったグロース株の復調につながるのだろうか?
1月の騰落率は、わずか1カ月間だけのことであるので、その結果だけで、今後の見通しを立てることはできない。実際に「グローバル・フィンテック株式ファンド(年2回決算型)」は1月の月間騰落率こそプラス20.91%と大きく上昇したが、その上昇を加味しても1月末現在で過去1年間のトータルリターンはマイナス31.11%だ。同じように先進国株式を対象とした株価指数「MSCIワールド(配当込み、円ベース)」が円安効果もあってプラス6.01%になっていることと比較すると、過去1年間の落ち込みの大きさがわかる。ただ、アーク社が発信する運用情報や調査資料等を改めて確認し、そして、現在のハイテク・グロース株の動きをみていると、米国の急速な利上げによって成長の勢いを断たれたかにみえたハイテク・グロース株だが、その成長期待は依然として大きいことが感じられる。
たとえば、今週になって検索エンジン最大手であるグーグルを傘下に持つ米アルファベットの株価が急落している。2月8日に前日比7.68%下落し、9日にも4.39%安と2日連続で合計すると10%以上の下落率になっている。これは、米マイクロソフトが人工知能(AI)を活用した検索サービスを開始すると発表したことを受けた株価の反応とみられている。昨年末あたりから「ChatGPT」といわれるAIを使ったチャットボットが話題となっている。テキスト入力スペースに質問を書き込むと、AIが文章で回答を返してくれるサービスだ。グーグルの検索機能は、ネット上にある情報の場所を示してくれるが、「ChatGPT」は、そこから一歩進めて、ネット上の情報を整理して有用な情報にまとめてくれるようなものだ。多くの若者らがこの機能に夢中になっているが、マイクロソフトは、この「ChatGTP」を開発した米オープンAI社の最新技術を同社の検索エンジン「Bing」に搭載したと発表した。従来型の検索エンジンで独占的な地位を確立したグーグルのシェアを奪うことになるのではないかと考えられ、アルファベット株価の急落につながった。
米アーク社のCIOであるキャシー・ウッド氏は、日興アセットマネジメントの公式ホームページで毎月、その時のトピックについて動画を発信しているが、その最新の動画において、AIが爆発的な普及期に入ったことを紹介している。ウッド氏によると、「ChatGPT」に使われているような自然言語処理AIモデル「GTPー3.5」レベルのパフォーマンスを得るためには、2020年当時は460万ドル程度のコストをかける必要があったが、現在はそれが45万ドル程度で実現可能になったという。10分の1以下に低下したコストがAIの活用に勢いをつけ、さらに、2030年には、これが30ドル程度にまで低下することが期待され、「もはや業務の効率性向上のために、AIを活用していない企業は生き残れない」というほどにAIの活用が一般化すると見通している。
この他、アーク社のアナリストが総出で作成した「Big Ideas 2023」の内容にふれ、「これからは、ゲノムとAIの融合のような、テクノロジーの融合が本格的に始まり、テクノロジーが融合することによって、直線的成長から指数関数的に大きな成長が期待できる」と革新的な技術の発展に対するゆるぎない信念を披露している。たとえば、ロボティクスの世界においては、「世界で最もロボットを活用しているアマゾンにおいて、従業員1万人あたりのロボットの使用台数は3200台だが、一般の製造業では1万人あたり140台にとどまる。ロボットのパフォーマンスは過去7年間で33倍になるなど、性能当たりのコストは大きく改善しており、ロボットの普及も加速度的に進むと考えられる」とした。この他、ゲノムや自動運転技術、コネクテッドTV、デジタルウォレットや暗号資産、ドローン、3Dプリンタ、再利用可能なロケット技術など、様々な分野で進むテクノロジーの進展に目を向けてほしいと語っていた。
また、ウッド氏は、現在のマーケットについて、「インフレは一時的なものと考えられ、米FRBの金融政策は行き過ぎた引締めといえるのではないだろうか。2月1日に政策金利を0.25%引き上げたが、これによって過去1年間で上限0.25%だった政策金利を4.75%という19倍にも引き上げた。これほど短期間に急速な金利引き上げは、米国の歴史にない。既にマネーストックのM2(市場全体に流通している通貨の供給量)は1930年代以来のマイナス圏に落ち込み、長短金利が逆転する逆イールドは1980年代前半以来といえる長い期間にわたって続いている。金融政策の転換の時期は近づいており、年内にFRBは利下げを決断することになるのではないだろうか」という見通しを示した。この政策転換がハイテク・グロース株に吹いた逆風を緩和させるという見立てだ。
ウッド氏のいうように、これまで人類が経験した事の無いような社会変革が技術革新によってもたらされるかどうかについては、一般の人は俄かには信じられないだろう。ただ、テクノロジーの進展によって盤石にみえるグーグル(アルファベット)の検索機能が脅かされ、株価が一夜にして10%近くも下落するような事態が起こっている。似たようなことは、中国でもTikTokを運営するバイトダンスが今年3月末までに中国全土でフードデリバリーサービスを開始すると発表すると、中国のデリバリー大手である美団の株価が急落した。テクノロジーの進化が、どの企業にどのような変化をもたらすのかについては、専門的な見地から調査・分析することが必要なことは、最近の事例からも明らかだ。その専門家の知見を活かして投資ポートフォリオを組むファンドに投資する意義もそこにある。
テクノロジーがもたらす将来の大きな成長期待について、俄かには確信できない場合は、コツコツと少額で積立投資をしていくという方法もある。世の中の一部には、「ハイテク・グロース株は、2021年末までに余りにも株価が上昇し過ぎた。これからは、グロース株ではなくバリュー株の時代だ」という意見もある。長らく物色の流れから外れていたバリュー株の中には、依然魅力的な株価の位置にある銘柄が少なくないことも事実だろう。どのグロース株が今後も持続的に成長が可能なのか、どのバリュー株が真に価値のある企業なのかということについては、足元の株価の動きや位置だけをみていてわかるものではない。それぞれの企業の経営方針や人材の質、テクノロジーの評価や財務、資産の評価など、企業を多角的に分析して理解することによってはじめて、その価値がわかるというものだ。2022年に世界的な株安を経験し、その出直りのタイミングを待つ今、どの運用会社の、どのファンドが頼りになるのか、改めて考える時期を迎えているといえるだろう。(グラフは、日興×ARKのハイテク・グロース株ファンドと「S&P500」指数の推移)