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2023/02/17 18:03
日興アセットマネジメントが2月10日に設定し、運用を開始した「Tracers グローバル3分法(おとなのバランス)」は、つみたてNISAの対象ファンドになっているが、その運用方針からうかがえるのは、2024年にスタートする「新しいNISA」を強く意識した商品ということだ。ファンド愛称に、あえて「おとなのバランス」という言葉を使い、若年層がメインに使っているつみたてNISAとは、距離を置いているようにみえる。「おとな」という言葉によって連想される退職を控えた50代以降の高年齢層や退職時期を越えたリタイアメント層のニーズに応えることを主眼とした商品になっている。今後、つみたてNISA対象商品としてラインナップされてくるファンドには、「おとなのバランス」が狙う利用者層を意識した商品も増えてくると考えられる。 「Tracers グローバル3分法」は、ネット専用ノーロード(販売手数料無料)のファンドシリーズ「Tracers(トレイサーズ)」の4本目として企画され、シリーズ初のつみたてNISAの対象商品になった。「リスク・パリティ」の観点からファンド設定時に決定した基本資産配分比率で、世界の株式・REIT・債券に分散投資を行う。投資対象の3つの資産は、それぞれ異なる価格変動リスクがあり、さらに、各資産が内包する為替変動リスクを4つ目のリスクと捉えて、それらのリスクの大きさが概ね均等になるように資産配分比率を決定する。 投資対象資産への投資にあたっては、つみたてNISAの指定インデックスを使用し、株式については、「MSCI−KOKUSAIインデックス」と「MSCIエマージング・マーケット・インデックス」、そして、「TOPIX(東証株価指数)」に連動するインデックス・マザーファンドに投資する。REITは「S&P先進国REIT指数」と「東証REIT指数(配当込み)」、債券は「FTSE世界国債インデックス」と「NOMURA−BPI総合」のインデックス・マザーファンドを使う。資産の配分比率は、ファンド設定時に決定した基本資産配分比率を原則として維持する運用を行う。 同社では、このファンドの設定の背景として、2021年2月から毎月1回、投信初心者を対象とした「オトナの七・五・三」と題したオンラインセミナーを開催する中で、中高年層の投資家から「若い人のように長期間の積立をする時間がない」、「ある程度まとまった資金を運用したい」という声が少なからず聞こえたという。一般的に、積立投資のメリットを解説する場合には、定時定額で投資を継続する場合は、株式などのリスク資産の方が、価格のブレが大きいだけ、積立投資の効果が得られやすいと説く。そして、20年、30年という長期の投資を行う場合は、株式100%のポートフォリオでコツコツ投資して将来の値上がり益を狙いたいという話になる。株式市場は時に1年間で30〜40%という大きな下落を経験することもあるが、そのような下落があったとしても10年、20年と継続して投資していれば、それらの大幅下落も吸収し、かえってパフォーマンスにプラスに働くことが期待される。実際に、つみたてNISAは20代、30代という若い世代の利用が多いが、それらの若い投資家は、「S&P500」や「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス」などの株価指数に連動するインデックスファンドを積立投資しているケースが多い。 ところが、50代も後半になると、30年後は85歳を超えることになり、株式インデックスの抱えるリスクは大き過ぎると感じられる。あるいは、若い方であっても資産形成を10年後の住宅取得のための頭金を作るためと考える場合、1年で30%を超えるような下落を想定しては投資を躊躇してしまうことになる。これは、まとまった資金がある投資家についても同じで、コツコツと長年積み立てた定期預金、または、長年働いたことで得た退職金などが2000万円あるとして、翌年には30%も値下がりして1400万円を下回ってしまったということには耐え切れないという思いが強いだろう。そこで、日興アセットが提案するのが、「リスク・バリティ」という考え方に基づく、リスクを相対的に低く抑えて、相対的に緩やかな値動きをめざす運用商品だ。 「Tracers グローバル3分法」の運用を過去にさかのぼってシミュレーションしたところ、2003年4月〜2022年12月までの約20年間で、月次騰落率の90%以上がプラスマイナス3%以内に収まったという。そして、20年弱で資産は2倍以上に膨らんだ。大きな価格変動なく、資産がゆっくりと増えるということが確認できた。多くの投資初心者が求める「数十年ではなく数年間で投資収益を得たい」というニーズに対する1つの解答にはなっている。 ただ、「リスク・パリティ」戦略が必ずしも比較的短い期間の運用で納得のいく運用成績を返せるというものでもない。たとえば、日興アセットの運用する代表的な「リスク・パリティ戦略」ファンドである「ファイン・ブレンド(資産成長型)」は、2023年1月末現在の過去5年(年率)リターンは1.07%だ。この間の「バランス・安定型」のカテゴリー平均はマイナス0.55%になっている。3年(年率)では、「ファイン・ブレンド(資産成長型)」がマイナス0.44%、カテゴリー平均はマイナス1.39%という結果だった。「ファイン・ブレンド(資産成長型)」は5年間では低いながらもプラスリターンを返すことができたが、3年間ではマイナスリターンになり、また、カテゴリー平均では5年間でもマイナスリターンになってしまった。「Tracers グローバル3分法」は、「ファイン・ブレンド(資産成長型)」が投資する金(ゴールド)には投資せず、かつ、「ファイン・ブレンド(資産成長型)」が資産配分比率を市場変化に応じて柔軟に見直すことに対し、設定時の配分比率を維持する運用を行う。このため、「Tracers グローバル3分法」は、「ファイン・ブレンド」よりもカテゴリー平均に近い運用成績になるのではないかと考えられる。 もっとも、2022年は「株式も債券も同時に値下がりし、史上まれにみる逃げ場のない市場だった」といわれるほど、株式と債券等の異なる資産間の分散投資効果がない市場になってしまった。その背景の1つに、世界各国の中央銀行による急速な利上げがあったが、その利上げ政策も最終段階を迎えている。金利水準が底上げされたことによって、2022年と比較すると分散投資効果は、より得られやすい市場環境になっている。このため、現在の過去3年、過去5年と比べると、今後3年、5年はより良い運用成績になると期待される。より安定的な収益を提供しようという目的で登場したつみたてNISA対象ファンドが、今後、ファンド本数や残高等の面で拡大していくかどうか、注目したい。(グラフは、「ファイン・ブレンド」と全世界株式インデックスのパフォーマンスの相対比較)
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