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2023/02/24 18:39
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2月22日、「GPIFの国内株式運用機関が選ぶ『優れた統合報告書』と『改善度の高い統合報告書』」を発表した。GPIFが運用を委託している運用機関(2021年度末で37社)に対し、「優れた統合報告書」と「改善度が高い統合報告書」について、それぞれ最大10社を選定してもらい、その結果を集約したもの。「優れた統合報告書」は延べ67社が選ばれ、中で伊藤忠商事が7運用機関から評価され、もっとも多くが優れていると認める企業になった。GPIFは、ESG投資の国内リーダーであり、国際的にも著名な機関投資家として、その情報発信力は一目置かれる存在。 2022年は、ESG投資について、「ESGウォッシュ」、「グリーンウォッシュ」などといわれる「まがいもの」の存在がクローズアップされ、金融庁をはじめ、先進国では規制当局による監視が厳しくなった。企業が発行する「統合報告書」は、企業の財務データ(定量的データ)と企業独自の強みなどの非財務データ(定性的データ)の両面から企業が自らの評価をまとめた報告書になっている。この非財務データに「ESG」の項目が大きくかかわっている。「ESGウォッシング」では、企業活動がESGの向上に寄与しているかどうかを適正に評価する能力が十分にないにもかかわらず、ESGを評価していると公表している運用会社が批判の対象になった。運用会社などが企業のESGの内容を正しく評価する力をつけることも重要だが、それとともに、企業側にも数字で表れない価値を、いかにわかりやすく伝えるかという点で「統合報告書」への真摯な取り組みが求められている。 一方、「コロナ・パンデミック」(2020年3月)による市場の混乱を緩和しようと国際的に実施された大幅な金融緩和が2022年に逆流し、市場に放出された資金を制限してインフレを抑制しようという動きが強まった。このため、「MSCIワールド」(先進国株価指数)や「S&P500」(米国の代表的な株価指数)などといった株式インデックスが大きく値上がりするという環境が21年12月末をピークに終了した。マーケットに出回る資金量が絞られるようになると、自ずと「マーケット全体を買う(インデックスを買う)」というより、「優れた企業を選別投資する」という動きが強まると考えられる。その選別投資の手掛かりとしても「ESG」に配慮した各企業の取り組みが大きな選定ポイントのひとつになると考えられる。「統合報告書」に真摯に取り組んでいる企業は、それだけESGに対しても積極的に取り組んでいることをも示している。ESG投資を志向する投資家は、「優れた統合報告書」を出していると評価される企業が、投資しているファンドに組み入れられているかどうかをチェックすることもできる。 GPIFが運用を委託している運用機関は、GPIFが国民の公的年金の運用を任せるにふさわしいと評価した優れた運用機関といえる。その運用機関が、それぞれに「優れた統合報告書」と認める報告書をGPIFが集約して公開することは、それによって「統合報告書」について一般の関心を高めるばかりでなく、報告した運用機関にとっても自社の判断と他社の見方がどれほど違うのかを比較し、自社の評価対象にならなかった「統合報告書」に関心を持つきっかけにもなる。ひいては、このような動きが企業の「統合報告書」への意欲にもつながり、より優れた統合報告書を作成するため、より優れた企業活動を展開しようというモチベーションにもなるだろう。 4機関以上の運用機関から「優れた統合報告書」との高い評価を受けたのは、「伊藤忠商事」に次いで6機関から評価された「日立製作所」、「オムロン」、「リコー」。5機関から評価された「東京海上ホールディングス」、4機関から評価された「味の素」になる。その他、3機関から評価された企業は6社、2機関からは16社、1機関から評価された企業は39社になる。 また、「改善度の高い統合報告書」として3機関から評価されたのは「三越伊勢丹ホールディングス」、「野村不動産ホールディングス」、「アステラス製薬」、「ブリヂストン」、「ニトリホールディングス」の5社。2機関から評価されたのは10社、1機関から評価されたのは80社となった。 GPIFは「優れた統合報告書」、「改善度の高い統合報告書」として1機関以上から評価された全企業を公表している。その顔触れは、大手企業がほとんどだ。「統合報告書」には、それを作成するために企業側の労力が大きいとされ、IRに関する予算を一定水準以上負担できないと、「優れた」と評価されるような報告書の作成は難しい。ただ、運用機関は、企業を訪問した際に、統合報告書や非財務データの開示等が不十分に感じられる企業に対しては、優れた統合報告書を紹介して参考にしてもらうということも実践しているという。このような活動が広がることによって、国内企業のESGへの取り組みも底上げされることが期待される。(イメージ写真提供:123RF)
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