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2023/03/10 17:42
政策金利が2ケタになるような高金利の債券に投資するファンドのパフォーマンスが好調だ。2023年2月末現在の国際債券型のファンドで過去1年間のパフォーマンスランキング(通貨選択型除く)をみると、「トルコ・ボンド・オープン(毎月決算型)」の39.04%、「メキシコ債券オープン(資産成長型)『愛称:アミーゴ』」の33.51%、「メキシコ・ボンド・オープン(毎月決算型)」の30.54%、「フランクリン・テンプルトン・ブラジル国債(年2回決算型)」の29.22%など、非常に大きな値上がりが確認できる。トルコ、メキシコ、ブラジルというと、簡単には手を出しづらい国々であるが、向こう1年の間には米国等の利上げがピークを迎えて、金利低下へと転換することも期待されるタイミングとなっているだけに、多少の値動きの荒さを覚悟して、これら高金利の国々に投資する債券ファンドをポートフォリオの一部に持つことも検討してみたい。 トルコは、ロシアとウクライナの戦争の停戦に向けた仲介役を担おうとしたり、2月に発生した大地震によって注目を集めたが、経済環境は非常に厳しい国として知られている。エルドアン大統領が中央銀行の政策に介入し、過度な金融緩和策を継続させたことによって通貨(トルコ・リラ)が急落し、急激なインフレに苦しんでいる。2022年1月のCPI(消費者物価指数)上昇率は前年同月比プラス57.7%と22年12月のプラス64.27%から低下したとはいえ異常な水準になっているが、同国の政策金利は9%に据え置かれている。 エルドアン大統領の主張は「利下げがインフレを抑制する」という常識外れのもので、インフレが多少とも低下したことを受けて追加利下げを要求している。このような大統領が中銀総裁の任命権によって金融政策をゆがめてきたため、世界の投資家の資金がトルコから流出する事態になってしまっている。たとえば、トルコ中銀によるとトルコ国債の外国人保有高はエルドアン大統領が就任する前の2013年に720億ドル相当だったものが、2023年3月には14億ドル相当でしかないという。トルコでは、今年5月に大統領選挙が予定され、エルドアン大統領が失脚する可能性も示唆され、それによってトルコ経済が改善に向かうという期待もあるが、選挙の結果は予測が難しく、選挙が近づくにつれて現職であるエルドアン大統領が、一段と強硬な金融緩和圧力をかける可能性もあるなど、不安定な市場が続くとみられている。 メキシコは、高いインフレ率に悩まされ、2023年2月に政策金利を10.5%から11%に引き上げたものの、依然としてインフレ率は8%近い水準にあり、利上げの途上にあるとみられている。このため、2022年は経済成長率が3%だったところから、23年は1%程度に減速するものと考えられている。これは、利上げによる経済への圧迫効果だけでなく、輸出の87.9%を依存する米国経済が一段と減速すると予測されることから外需の鈍化が見通されるためだ。 ブラジルは政策金利が13.75%という非常に高い水準にあり、ブラジル中央銀行(BCB)はこの金利水準を長期に据え置くと表明している。このBCBの金融政策に対してはルラ大統領は一貫して批判的な立場を取り、中央銀行と政権との対立が金融の不安定要素になっている。また、ルラ大統領は政権発足後に、ばらまき型の政策運営によって財政を圧迫しており、この状態が続くことになればブラジル国債等の信用問題に発展する可能性もある。 このように、過去1年間のパフォーマンスが良かった3カ国の現状は、簡単に見てわかるだけでも問題や課題を抱えていることは明らかだ。ただ、エルドアン大統領が選挙で敗れるようなことがあれば、トルコはエルドアン氏が首相時代から20年間にわたって続いてきた政策が大転換することが考えられる。また、メキシコも米国の景気減速が軽微に終わった場合は、金利引き下げへの転換も早まると期待できる。ブラジルもルラ大統領がかつて政権を担っていた時の経験に照らして財政規律の重要性を考えた政策運営に転じるという期待がある。3カ国が抱える不透明要素は、プラスに転じる可能性もある状況だ。 したがって、債券ファンドといえども一括して大きな資金を投じるのではなく、毎月積立など時間分散を行った投資をしていけば、多少の波乱があっても次の展開に備えられるだろう。何より、各国の政策金利の水準からわかる通り、投資している債券の利回りは10%前後という非常に高い水準にある。急激なインフレによって日本を除く世界の金利が急上昇した2022年以降の債券市場にとっての大きな逆風を潜り抜け、高い水準の金利が得られるようになった債券に投資するファンドに注目していきたい。(グラフは、高金利の新興国の債券に投資するファンドの過去3年間のトータルリターン推移)
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