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2023/03/13 18:42
フィデリティ投信は3月8日の国際女性デーに合わせて、女性のお金の事情や経済的自立、ウェルビーイング(幸福度・満足度)等に関する調査結果を発表した。同調査は、本年で3回目となり、前回に引き続き18歳〜69歳までの約1000人の女性を対象に実施した。その調査結果によると、女性の約3割が育児や家事の負担が軽くなれば「もっと働きたい」と考え、老後資金不足を懸念する女性は半数を超えていることが明らかになった。女性には、出産前後で収入が下落する「チャイルドペナルティー」が重くのしかかっていることがわかり、それが、収入格差や老後不安につながっていることが浮き彫りになった。「男性より平均余命が長く、老後資金も多く必要になる女性こそ、資産運用を実践して積極的にお金を増やす意識が大切」(フィデリティ・インスティテュート首席研究員の浦田春河氏)と考えられ、女性に金融リテラシーの向上を働きかける重要性が増している。 「年金や貯蓄などで必要な老後資金をまかなえると思いますか?」という問いに対し、「思わない」という回答は男性が50%に対し、女性は56%になり、女性の危機感の方が強い。ただ、「老後資金を増やすためにやろうと考えていることは?」という問いに対し、女性は「支出を減らす」が44%でトップの対処法となり、次に「長く仕事を続ける」(37%)、「貯蓄を増やしていく」(21%)が続く。一方、男性は、女性と同様に「支出を減らす」(41%)、「長く仕事を続ける」(39%)が上位を占めるが、第3位に「退職まで投資を続ける」(18%)が入った。「貯蓄を増やしていく」(16%)よりも「退職まで投資を続ける」の方が上回っている。女性は「退職まで投資を続ける」は10%程度の回答率しかなく、投資への関心が低いことがわかる。 このように、老後に備える方法として、「資産運用」を選ぶ女性は少なく、「支出を減らす」、あるいは、「貯蓄を増やしていく」ことを挙げる人が目立ったことに対し、フィデリティ・インスティテュート首席研究員の浦田春河氏は、「今回の調査では、私的年金を通じた老後資金の準備を行っていない理由として、『どこで情報を得たらよいかわからない』や『不確実な将来に備えるより、今を充実させたい』といった声が女性に多く見られました。男性より平均余命が長く、老後資金も多く必要になる女性こそ、資産運用を実践して積極的にお金を増やす意識が大切です。そのために、金融リテラシー向上の取り組みは待ったなしの状況です」とコメントしている。 一方、「経済的に自立していると思うか」という問いに対し、女性の回答は2022年は「ある程度自立している」が31%でトップだったが、2023年には25%に低下した。代わりに「まったく自立していない」が22年の21%から、23年は26%に上昇し、全体でトップの回答率になった。また、今よりも経済的に自立したいと考えている女性は50%で、これは22年よりも10ポイント減少している。 ただ、女性に経済状況を聞くと、個人所得が「減った」という回答は22年の27%から23年は20%に減少し、「増えた」は22年の8%から23年は12%に増加している。そして、貯蓄額が「増えた」は22年の15%から23年は16%に上昇し、「減った」は22年の30%が23年は25%に低下している。収入や貯蓄の面で改善する傾向があるにもかかわらず、経済的な自立から遠ざかっているように感じているのは、やはり、23年になって、光熱費や食材等が急速に値上がりした「インフレ(物価上昇)」の影響が強く影響していると考えられる。物価が低位で安定していた時代は、少しずつでも収入が上がり、貯蓄も増えていれば、経済的に自立できていると感じるハードルはそれほど高くはなかったと考えられるが、インフレで生活費が急速に上昇してしまうと、経済的に先行きの不安が大きくなってしまったと考えられる。 このフィデリティ投信の調査とは直接関係ないが、投資信託協会は2020年5月から「つみけんサイト」を開設し、国民の投資に対する意識調査や提言等を行っている。この「つみけん」の2021年の報告書で、米国において「1983年に年金の支給開始年齢の67歳への引き上げなどが社会保障改革委員会の勧告に基づいて法制化され、それに伴い、米国の広く一般の家計において老後への備えに対して自助努力が不可欠だという認識が醸成され始めたこと」を引き合いに、「日本のiDeCo(個人型確定拠出年金)のモデルでもあるIRAの対象を、所得があれば誰でもに拡大し、(フィデリティをはじめとした金融サービス会社が)IRAを、一般家計のための税制優遇措置で誰もが利用すべきであり、投資信託はIRAの運用対象としてふさわしいという、当時において画期的なマーケティングを初めて本格的に展開した」と振り返っている。この当時の取り組みが、現在の米国の個人金融資産が1999年からの20年で2.8倍(同時期に日本は1.4倍)に拡大した背景になっていると紹介している。 折しも、2024年から総非課税枠が1800万円になる「新しいNISA」がスタートする。米国の1980年代と同様に、日本においても公的年金改革はここ数年で重要な議論が進み、2017年1月からのiDeCoの加入対象者の拡大、2018年1月の「つみたてNISA」のスタート、そして、2024年からの「新しいNISA」へと、将来貯蓄の支援制度の拡充が続いている。フィデリティ投信の調査で明らかになった、老後への不安を強く感じていながらも資産運用に踏み出し切れていない女性、また、「つみけんサイト」が着目している「団塊ジュニア世代(1971〜1974年生まれ)」(就職氷河期に社会人となり生涯賃金が低い世代=公的年金の支給額が低い)など、金融リテラシーの向上を働きかける層のターゲットは明らかになってきている。これらの層に対して、いかに効果的なコンテンツを提供し、資産形成に向けた行動を促していくことができるのか? 「新しいNISA」のスタートを前にして、金融サービス会社の工夫や努力が求められているといえるだろう。(イメージ写真提供:123RF)
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