2023/03/15 19:57
2024年からスタートする新しいNISAを使って投資をスタートしようと考えている人は少なくないだろう。従来のNISAでは年間非課税投資額が一般NISAで120万円、つみたてNISAで40万円しかなく、しかも、そのどちらかしか使えなかったことに対し、新しいNISAでは年間非課税枠は最大360万円に拡大される。さらに、非課税期間に限度がないため、この制度を大いに活用して大きな資産を作りたい。ただ、新しいNISAの対象となる金融商品は投資信託(投信、または、ファンド)や株式だ。これまで預貯金で資産管理をおこなってきた方々にとっては、未知の金融商品といえる。使ったことがないだけに、新しいNISAを始めるために乗り越えるハードルにもなっているだろう。投資を始める前に、投資信託とはどのような商品なのか、基本的なポイントを抑えておきたい。
投資信託と預貯金の最大の違いは、「投資信託には元本保証がない」ということであり、「投資信託の価値(価格)は日々変動している」ということだろう。預貯金には「預金保険」があり、1金融機関ごとに1人あたり元本1000万円までは保護される仕組みがある。投資信託には「分別管理」という仕組みがとられ、その投資信託を販売した銀行や証券会社が経営破たんしても投資信託の財産は守られるという仕組みになっている。この点では、投資信託は預貯金と同じように安心して購入できる金融商品とはいえる。
ただし、預貯金は預け入れる銀行や信用金庫などが経営破たんしない限り、「元本にプラスアルファの利息が付いて戻ってくる」(ゼロ%台金利下でATM手数料や定期預金等の解約手数料などの関係で100%元本以上とは言い切れない)。ところが、「投資信託」の価値は「時価」で評価される。今日1万円で購入した投資信託の「時価」が、翌日には9500円ということもある。「時価」とは、投資信託を通じて投資をしている株式や債券の市場価格の合計を販売している口数で割った1口当たりの価値のことで、これを「基準価額」と言って、投資信託を運用している運用機関から日々公表している。この「時価(基準価額)」は、その投資信託を購入した全ての投資家に等しく適用され、「時価(基準価額)」による売買が日々行われている。
さて、投資信託の時価が変動することは全ての投資信託にいえるが、「どの程度変動するのか?」ということについては、個々の投資信託によって異なる。国内には約6000本の投資信託があり、その1本1本の投資信託は、それぞれ異なる値動きをしている。投資信託は、多くの投資家から資金を集めた器(箱)のような存在で、その器(箱)の中には、予め運用方針を示した通りの株式や債券、不動産投資信託などに投資していく。投資信託の1本1本に運用方針があり、投資信託ごとに運用チームが担当して具体的に投資する株式や債券などを決定している。同じような投資方針、投資対象の投資信託であっても、運用チームが異なれば具体的に投資する株式や債券、また、その投資比率などが異なるため、自ずと、それぞれの投資信託の「時価」の変動の方向や変動率は異なる動きになる。
しかも、投資信託の「時価」は、将来の価格がどのように動くのか、誰にも分らない。一寸先は闇かもしれず、反対に、天国かもしれない。わかるのは、過去の値動きの記録だけだ。投資信託の将来の値動きは、過去の値動きを頼りに類推するしかない。その際に参照されるのが、その投資信託の過去3年、過去5年などの「年率平均トータルリターン」だ。「トータルリターン」とは、「時価(基準価額)」の変動に加えて、途中で支払った分配金の合計(トータル)のこと。「時価」がマイナス方向に動いた場合は、トータルリターンもマイナスになる。
たとえば、つみたてNISAの対象商品でもあり、積立投資の対象として人気のある「eMAXIS Slim」シリーズについて、2021年12月末を基準にして調べると、「米国株式(S&P500)」の過去1年のトータルリターンは44.52%、過去3年の年率トータルリターンは27.66%だった。「全世界株式(オール・カントリー)」は過去1年で32.71%、3年(年率)は22.40%、「バランス(8資産均等)」は過去1年が15.97%、3年(年率)が10.86%などという実績だった。どの投資信託も、非常に高いリターンになっていたが、ここで注意したいのは、この「トータルリターン」は、あくまでも21年12月末時点の過去の実績であるということだ。「リターン」という言葉から、預貯金の「金利」のように、将来約束されたリターンのように感じられるかもしれないが、投資信託の場合は、将来の成果を保証するものではない。「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の21年12月末時点の1年トータルリターンが44.52%だったとして、その時に同投資信託に投資をすれば、1年後に44.52%のリターンが得られるというわけではないのだ。
実際に、1年後の22年12月末時点の各投資信託のトータルリターンを調べてみると、「米国株式(S&P500)」は過去1年でマイナス6.09%になった。「全世界株式(オール・カントリー)」も「バランス(8資産均等型)」も、全てがマイナスリターンになってしまっている。1年間の間で市場環境が激変してしまったため、トータルリターンの内容も大きく変化した。投資信託のトータルリターンは、1年などの短期の期間では、非常に大きく変化する可能性があることを覚えておきたい。
一方、21年12月末と22年12月末のトータルリターンを比較してみると、1年よりも3年(年率)の方が、変動率が小さくなっている。変動率が小さくなったものの、3年(年率)のトータルリターンも、その時点での過去の実績に過ぎないものであり、将来を保証するものではないことは同じだ。ただ、期間を長くとることによって、より、そのファンドの実力に近い数字になっていくことが期待される。残念ながら、約6000本もある投資信託のなかで、運用期間が30年を超える投資信託は38本、20年以上の運用期間がある投資信託も693本しかないのが現状だ。5年や10年の実績だけでは、将来のパフォーマンスを推計しようにも限界がある。多くの投資信託で長期にわたる運用実績を示すことができないことが、日本の投資信託市場が、今一つ大きく成長できない原因の1つといえるだろう。この弱点の克服は、今後に歴史を重ねて補っていくしかない。
投資信託のリターンは事前に予測することができない。ただ、預貯金の金利がゼロ%台という時代に、1年間で40%以上の収益を実現した投資信託があったことは事実だ。できるだけ長期の過去実績から類推し、投資信託の運用方針などを確認した上で、将来の価値が高まりそうな投資信託を選ぶようにしたい。投資信託の購入にあたっては、将来の予測が難しいだけに、一括して全財産で投資するようなことをせずに、毎月コツコツと一定金額で購入するなど、購入時期を分散して投資することも考慮したい。(図版は、「eMAXIS Slim」シリーズのトータルリターンの比較)