2023/03/23 18:54
三菱UFJ国際投信は3月23日、オンラインの記者懇談会を開催し、当面の国内株式市場の見通しと投信ビジネスを進める上で今議論すべき8つの着眼点について説明した。国内株式市場の見通しについては「未来イノベーション成長株ファンド」等の運用を担当する株式運用部 国内株式グループ エグゼクティブファンドマネジャーの内田浩二氏が、8つの着原点については、商品プロモーション部 推進グループ グループマネジャーの大島良介氏が語った。同社は現在の市場環境を「局面転換(ピボット)」という言葉で表している。特に、米国のインフレと金利の動向が世界の市場に与える影響が大きいと、その「転換」を注視している。その中で、国内株式市場については「2023年3月期決算の発表のタイミングをボトムに、その後、市場が上向く見通し」(内田氏)と強気の見通し。また、大島氏は、「局面の転換点を迎えつつある市場は不確実性が強く、リスクを取り過ぎないことが重要になる。利回りが浮上したことによって債券運用も復活しつつあり、分散投資について再考する必要がある」と語っていた。
内田氏は、国内株式市場の先行きを考える上でも米国のインフレの高止まりと、シリコンバレー銀行(SVB)などの経営破たんやクレディ・スイスの信用不安などによって高まっている金融システム不安の行方を注視することが必要と語った。米国でインフレが沈静化する方向に動けば、2023年3月までに4.75%〜5.00%という水準にまで引き上げられた米国の政策金利がピークアウトすることが期待できる。利下げへの政策転換が実施されれば、株式市場にとってはポジティブだが、内田氏は「インフレは高止まりするという見通しで戦略を立てておきたい」と慎重だった。また、金融システム不安については、「SVBの破たんは、2007年8月のパリバショックを想起させる。当時は、その後に2008年3月の米大手証券ベアー・スターンズの経営危機、さらに、同年9月のリーマンショックへと危機の連鎖があった。今回も、金融当局の迅速な対応によって小康状態になっているが、火種がいつ炎上し始めてもおかしくない」と語っていた。
ただ、国内株式市場については、米国景気は基本的には底割れは回避して復調に向かう見通しにあり、また、中国がゼロ・コロナ政策の転換によって経済再開に向かっていること、加えて、日本もコロナ禍からの正常化が進んできていることなどを背景に、底入れ反転の機会をうかがっているという見方だった。そもそも、世界の株式市場と比較して国内株式市場は割安な水準にあり、米国、欧州、中国などがコロナ禍前の経済成長のトレンドに復帰したにもかかわらず、日本は復調に遅れがあり、このギャップをキャッチアップする動きが期待できるとした。そして、「企業の2023年3月期決算と来季の予想が出てくる4月〜5月頃に、来期の減益予想を嫌気する局面で悪材料出尽くしとなりそうだ。その後は、ボックス圏を抜けて堅調な展開になるだろう」と見通した。
そして、今後の国内株式市場のポイントとして、東証が出した「資本コストや株価を意識した経営の促進に向けた要請」があるとした。特に、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割れている企業には、十分な対応が求められ、ROE(自己資本利益率)などを重視した経営が根付くきっかけになると期待している。国内株式市場は、PBR1倍割れの企業が「TOPIX500」構成銘柄に占める割合が41%に達し、米国「S&P500」の3%、欧州「EURO STOXX600」の20%と比較して圧倒的に多い。これは日本企業の低収益性が背景にあり、ROE8%未満の企業が44%と、米国の16%、欧州の26%と比較して圧倒的に多いという結果にもつながっている。内田氏は、「PBR1倍割れを改善するため、現金や政策保有株の売却等によって自社株買いを実施するという短絡的な方法もあるが、望ましいのは、ROEやROIC(投下資本利益率)向上のための戦略を立案・実行して収益性を高めること。これが実現できれば、外国人投資家の国内株式に対する評価が変わり、国内株の割安是正に弾みがつく」と語った。
一方、今議論すべき8つの着眼点について語った大島氏は、「金利とインフレの行方を注視して局面転換に備えることが重要」と語った。インフレが収まらない状況が長引けば、米国の景気後退も視野に入ってきて、これまでのような一辺倒の株価上昇は期待できなくなるとした。このため、株式市場では景気後退下でも比較的堅調なクオリティ株やディフェンシブセクターへの投資の視点が重要になるという。ただ、2023年になって米国の株価は上昇に転じており、「2022年はエネルギーを除くすべてのセクター・ファクターでパフォーマンスがマイナスになったが、23年はインフレ・金利のピークアウトの兆しを背景にハイテク株を筆頭に大半のセクター・ファクターで株価が上昇している。この動きが、局面転換(ピボット)を示唆しているといえるのかもしれない」とした。
また、インフレの要因の1つでもあるコモディティ価格の上昇は、いわゆる「反グローバル化」によって、長期的なコモディティの価格上昇圧力になっていることは注意が必要とした。そして、依然として根強い需要がある「ESG投資」については、欧州でESGファンドのルールが厳格化され、新しいルールの下でESGファンドの格下げ(最も厳格なSFDR9条に適合したファンドから、同8条への格下げなど)が相次いだという。また、米国では保守派が「反ESG活動」を推進するなど、ESGが与野党対立の主要テーマの1つとなり、2024年の米大統領選の結果いかんでは、米国におけるESG投資の在り方に大きな変化が起こる可能性がある。ただし、世界の投資家の潮流はESG投資を選好する傾向が強く、より厳格にESGを考慮したファンドが中長期的に支持されることになるという見通しだ。
そして、各国・地域の中央銀行が金融引き締めを行った影響で2022年は非常に厳しい投資環境になった債券は、今後「復活」の可能性が強いと見通した。利回りの上昇を受けて、クレジットリスクが低く、リセッションに対して耐性があるソブリン債や投資適格社債であっても相応のインカム収益の獲得が期待できるようになったためだ。既に、海外債券ファンドには2022年10月に資金流入超過に転じて流入超過が定着しつつある。このような投資行動の変化も踏まえて、改めて分散投資について考え直すタイミングにあると語っていた。
なお、2024年にスタートする「新しいNISA」については、既に販売会社との対話を進めているという。同社では、つみたてNISAで人気が集中している「eMAXIS Slim」シリーズをベースとして「つみたて投資枠でも成長投資枠でも長期・分散・積立投資を推進する『コア・コア戦略』を提案している」という。販売会社では、商品ラインナップで悩んでいる会社が多いといい、対話を進めて販売会社に貢献できる商品提案を行いたいとしていた。(イメージ写真提供:123RF)