2023/03/24 11:21
フィデリティ投信は3月29日に「真の成長機会を有する企業を選別し投資する」というグロース株式ファンド「フィデリティ・グロース・オポチュニティ・ファンド」を新規設定する。3月9日から三菱UFJモルガン・スタンレー証券で当初募集が始まり、設定後も同証券を通じて継続販売される。世界的に超金融緩和時代が終わり、株式市場においては過去10年以上にわたって続いた「グロース株優位の相場が転換した」という声も聞かれるようになっている。その環境の中で、あえてグロース株ファンドを新規に投入する狙いと新ファンドの特長について、フィデリティ投信の取締役副社長兼営業本部長である和田浩己氏(写真:右)とシニア・プロダクト・スペシャリストの齊藤聡氏(写真:左)に聞いた。
――新ファンドはグロース株式に投資するファンドですが、運用の特徴は?
和田 新ファンドの特徴の1つ目は、市場参加者の多くが注目する1年〜2年先の業績見通しだけではなく、3年〜7年先の利益成長を見据えて高成長企業を選別していることです。実際に主要機関のアナリスト予想においては、3年先以降に関する市場参加者の予想数が減少します。米国フィデリティ・インベスメンツでは北米をはじめ、欧州、アジア太平洋に約390人の専門スタッフを配置し、年間約1万2500回(1日当たり50社)におよぶ企業面談を実施しています(2021年実績)。この調査プラットフォームが分析した収益見通しを参考にしながら銘柄を選んでいます。
次に、当戦略は1つの成長ストーリーに賭けるようなことはなく、複数の成長ストーリーを平行して追いかけることで柔軟に銘柄選定を行っています。ここ数年に人気を集めていたグロース株戦略が、ITやコミュニケーション・サービスの大型株を中心にしたポートフォリオだったことと異なるアプローチです。直近のポートフォリオではエネルギーセクターを10%程度保有し、それがパフォーマンスを押し上げるという結果にもなっています。
3つ目の特徴は、幅広いセクターや中小型株も含めて機動的に投資機会を追求していることです。3年〜7年という長期にわたる収益見通しに基づいて銘柄を選ぶようにしていますので、中小型株であっても確信度の高い投資判断が行えます。これまでのグロース株ファンドは、大型株の組み入れが高位になっているポートフォリオが多いのに比べ、当ファンドでは大型株比率は55%程度に抑えられ40%程度を中小型株に投資しています。
――2022年になって米国で大幅な利上げが行われたこともあって、グロース株の相場は終わったという見方もあります。今、なぜ、新しいグロース株ファンドを投入するのですか?
和田 2008年の世界金融危機(リーマン・ショック)以来、長らく超金融緩和の時代が続き、多くの企業で資金調達が容易に行われ、企業の真の実力がわかりにくい状況が続いてきました。22年3月から米国が利上げに転換し、多くの国々で金利を引き上げ、金融が引き締まってきたことによって、もともと実力のあった企業と、資金の大量供給のため結果的に収益を上げることができてきた企業との差が表れるようになってきたように感じます。金融が引き締められる環境では実力の伴わない企業の株価は下落します。
当ファンドのように、3年〜7年という中期にわたって高成長を達成できる銘柄を幅広く選択する戦略では、多くの成長ストーリーを取り込むことができます。米国で運用している当ファンドと類似する運用戦略のファンドは約250銘柄に分散投資したポートフォリオで運用しています。利上げによって景気後退の懸念も浮上する中で現在の市場環境にフィットしたグロース株ファンドということができるかと思います。
――ファンドを運用するチームの特徴について教えてください。
齊藤 本ファンドはカイル・ウィーバーがポートフォリオ・マネージャーを務め、株式アナリストなど運用プロフェッショナルとの協業を行いながら運用を進めています。カイルは、2008年にフィデリティ・インベスメンツに入り、通信・ITサービスなどの株式アナリストとして経験を積み、ITサービスポートフォリオと無線通信ポートフォリオの運用を担当、2015年7月から当ファンドと同様の運用戦略である「フィデリティ・アドバイザー・グロース・オポチュニティーズ・ファンド」の運用担当になりました。フィデリティ・インベスメンツを代表する次世代のグロース株運用担当者として業界でも一目置かれる存在です。
カイルの同僚からの評価は「傾聴力が高い」というものです。株式アナリストの企業訪問に同行することも多く、その場で経営者から経営の現状について踏み込んだ話まで聞き出す力があるといいます。経営者はカイルが真剣に話を聞く姿勢に、積極的に意見交換に応じてくれるというのです。
和田 私が昨年、ボストンでカイルと会った時の印象は「謙虚」という言葉につきます。素晴らしい運用成績を讃えたのですが、カイルは「アナリストチームのレポートが良かったから」と自分の功績ではないというように言っていました。カイルのような謙虚で自身の判断を過信しないポートフォリオ・マネジャーは、好パフォーマンスを出せると思います。真摯に市場と向き合う姿勢を通じて環境が悪い中では踏ん張り、上昇相場でしっかりリターンをあげることで、中長期のトータルリターンで他を上回る成績を出すことの期待できる運用者といえます。
――当ファンドと同様の運用戦略を取る米国籍の参考ファンドのパフォーマンスの実績は?
齊藤 参考ファンドは1987年から運用実績があるファンドですが、たとえば、世界金融危機後の上昇局面で米国株式(S&P500、税引前配当込み)が59%上昇した時に参考ファンドは73%上昇し、欧州債務危機の後では米国株式が342%上昇したことに対し参考ファンドは425%上昇しました。直近のコロナ・ショックの後でも米国株式が100%上昇したことに対し参考ファンドは132%上昇しています。市場に危機が起こった後の上昇局面で概ね市場平均を上回る大きな上昇を実現しています。
世界金融危機のボトムである2009年2月を100とすると、2022年12月末までに世界株式(MSCIワールドインデックス、税引前配当込み)が663.1に上昇し、米国株式が933.3まで上昇したのに対し、参考ファンドは1324.1にまで上昇しました。
ちなみに、現運用担当者のカイルが着任した2015年7月を100として、2023年2月までのパフォーマンスをみると、米国株式が239.2に対し、参考ファンドは289.8という成績でした。フィデリティが運用するグロース株ファンドの中でも、優れた運用成績を残していて、バリュー株ファンドの「フィデリティ・世界割安成長株投信(愛称:テンバガー・ハンター)」と双璧といえる成績になっています(参考ファンドの運用実績は主要シェアクラスであるクラスAの実績を使用)。
――実際のポートフォリオの特性は?
齊藤 米国で運用している参考ファンドの世界金融危機以来のデータでポートフォリオのEPS(1株当たり利益)成長率(前年比、平均)でみると、米国株式(S&P500)が15.5%に対し、米国成長株式指数である「ラッセル1000グロース」が19.9%ですが、米国の参考ファンドのポートフォリオでは30.8%という水準になります。非常に高い成長率が期待できる銘柄群に投資していることがわかっていただけると思います。
――新ファンドは長期に市場平均を上回る成績が期待できるということですが、他のファンドと組み合わせた相性など、使い方のアイデアはありますか?
和田 金融引締めによって市場が不安定な状態が続いていますが、このような環境下にあってもフィデリティでは、グロース株投資にポジティブな見方をしています。ちょうど3年前に「テンバガー・ハンター」を設定した2020年3月23日はコロナ・ショックで市場が大きく下落した中での船出になりました。「テンバガー・ハンター」は、その設定時をボトムとして基準価額が2万円を超える成績を実現しています。今回の設定も、不安定な市場の中となり、「テンバガー・ハンター」の設定時を思い起こすような、ファンドのスタート地点としては楽しみともいえる設定タイミングになったと思います。
今年3月になってから、米国の銀行が経営破綻し、欧州の大手銀行が経営不安で株価が急落するということが起こり、金融システム不安といえるような状況になっています。しばらく不安定な株式市場が続くものと考えられます。このような時には、投資タイミングを分ける積立投資などの手法が有効です。金融システム不安については各国の中央銀行が様々な対策を用意していますので、徐々に市場の不安は和らいでいくと考えています。当ファンドが予想する3年〜7年という中期的な期間で成長が期待できるファンドでの中長期投資をご検討いただきたいと思います。
また、ファンドの組み合わせの相性としては、バリュー株ファンドとの組み合わせは有効です。また、ここ数年の主流であった集中投資型のグロース株ファンドと組み合わせても意味のある分散になります。もちろん、債券を多く保有するポートフォリオとの組み合わせも効果的です。3年〜7年先の企業収益を分析してその利益成長に投資するというグロース株ファンドは、業界の中でもユニークな存在です。新ファンドを運用資産の一部に組み入れることをご検討ください。