2023/04/06 17:57
2024年からNISA(少額投資非課税制度)が恒久化し、非課税枠も大幅に拡大されることから、証券投資による資産形成を本格的にスタートしたいと考える人は少なくないだろう。証券投資による収益にかかる税金は、収益額の約20%であり、これが非課税となり蓄財ができるのであるから、その節税効果はかなり大きい。投資を開始するにあたっては、投資資金を捻出することも必要になるが、もっと大事なことは、「何に投資をするのか?」という投資対象の選定だ。資産運用の基本的なセオリーを事前に学んで、より効果的な資産形成を進めたい。投資の経験がなく、大きな値動きのある株式への投資は怖くて避けたいと考えている人には、株式だけではなく、債券や不動産投信(REIT)などにも投資するバランス型ファンドを選びたい。ただ、バランス型ファンドには多くの種類があるため、事前に投資先の内容について目論見書で調べるようにしたい。
「卵を1つのカゴに入れるな」というたとえ話で、「分散投資」の重要性が説かれる。「1つもカゴに全ての卵を入れておくと、そのカゴを落とした時に全ての卵が割れてしまうから、いくつかのカゴに分けて卵を入れるように」と分散することを勧めている。この際の「卵」は「お金」のことで、「カゴ」は「投資する資産」を指す。お金を1つの資産、例えば「株式」にだけ投資していると、株価が下がった時にお金が大きく減ってしまうことになる。株価が下がる時に、価格が上昇しやすい傾向がある「債券」にも同時に「お金」を入れておくと、株価は下がっても債券が下がらないことによって全体的なお金の価値(=資産)の目減りを小さくすることができる。
この「分散投資」は、投資する資産が多ければ多いほど価格変動を抑えることができるとされている。「株式」と「債券」に投資するよりも、「株式」と「債券」と「REIT」に投資した方が安定し、さらに、「金(ゴールド)」も加えると安定度が増すということだ。また、「株式」についても「国内株式」だけではなく、「先進国株式」、「新興国株式」などに地域を分散したり、「グロース株(成長株)」と「バリュー株(割安株)」など投資スタイルの異なるファンド、あるいは、「大型株」と「中小型株」など規模の異なる株式に投資することも有効とされる。投資信託は、目論見書において、どのような投資方針で、どの資産に投資しているかを分かりやすく説明しているため、投資にあたっては必ず、その内容を確認するようにしたい。
たとえば、分散投資を行う代表的なバランス型ファンドで「eMAXIS Slim バランス(8資産均等型)」と「世界の財産3分法(不動産・債券・株式)毎月」があるが、ファンド名だけ見ると、「8資産」と「財産3分法」だから、「eMAXIS Slim バランス(8資産均等型)」の方が分散する資産が多く安定的なパフォーマンスになるように思える。しかし、実際に両ファンドのパフォーマンスを比較すると、ほとんど同じようなパフォーマンスになっている。
この理由は、両ファンドの具体的な投資先を確認すると明らかになる。「eMAXIS Slim バランス(8資産均等型)」は、「国内株式(TOPIX)」、「先進国株式(MSCI−KOKUSAI)」、「新興国株式(MSCIエマージング・マーケット)」、「国内債券(NOMURA−BPI総合)」、「先進国債券(FTSE世界国債)」、「新興国債券(JPモルガンGBI−EMグローバル・ダイバーシファイド)」、「国内REIT(東証REIT)」、「先進国REIT(S&P先進国REIT)」の8資産に各12.5%投資するファンドだ。8資産の中身は、まとめると「株式」と「債券」に37.5%ずつ、そして、「REIT」に25%という比率になっている。「財産3分法(不動産・債券・株式)」と同じ3つの資産が投資対象だ。
「世界の財産3分法(不動産・債券・株式)毎月」の具体的な投資対象は、「国内株式(TOPIX)」と「先進国株式(MSCI−KOKUSAI)」を株式資産として3分の1、「国内債券(NOMURA−BPI総合)」と「先進国債券(FTSE世界国債)」を債券資産として3分の1、そして、「国内REIT(東証REIT)」と「先進国REIT(S&P先進国REIT)」を不動産資産として3分の1投資することで、「財産3分法」を実現している。「eMAXIS Slim バランス(8資産均等型)」との違いは、株式に「新興国株式」が、債券に「新興国債券」が加わっているくらいだ。その結果、株式と債券への配分比率が37.5%と、「財産3分法」の33.3%よりも幾分大きくなっている。このため、2つのファンドのパフォーマンスはぴったりとは重なり合わないが、概ね同じような動きをしている。
一方、同じ3分法ファンドでも「グローバル財産3分法ファンド(毎月決算型)」は、株式は「グローバル株式インカムマザーファンド」を使って主に先進国株式の割安で好配当な銘柄に投資、債券は「エマージング・ソブリン・オープンマザーファンド」を使って主に新興国のサブリン債券・準ソブリン債券に投資、そして、不動産は「ワールド・リート・オープンマザーファンド」を使って欧州・米国・アジア(含む日本)のリートに投資をするという仕組みだ。投資している「株式」と「債券」の内容が、「世界の財産3分法(不動産・債券・株式)毎月」とは異なる。したがって、パフォーマンスも異なる結果になっている。
このように、バランス型ファンドは、ファンド名だけでは、そのファンドの性格を理解することは難しい。必ず目論見書を読んで、その運用の仕組みを理解するようにしたい。バランス型ファンドは、5年、10年など運用期間を区切って投資する際に有効な投資先になると考えられる。株式インデックスファンドのように、日々の値動きや1年間の値動きが非常に大きくなりやすいファンドの場合、5年間程度の運用期間では、下落相場から抜け出せないまま運用期間が到来し、換金したいと考えた時に、大きな損失を計上する可能性がある。様々な資産に分散投資するバランス型ファンドの場合は、大きなリターンが期待できない半面、大きな損失も出しにくいという特長があり、5年間程度の運用期間でも大きな下落なく資産を増やす運用が期待できる。新NISAでは、非課税投資枠が1人あたり1800万円という大きな枠が使えるようになるため、年金向けの超長期の運用以外の目的で投資枠を活用することもでてくると考えられる。バランス型ファンドも含めて、投資目的に適った運用商品を選択したい。(グラフは、「eMAXIS Slim バランス(8資産均等型)」と「世界の財産3分法(不動産・債券・株式)毎月」のパフォーマンス推移)