2023/04/27 18:21
フィデリティ投信が設定・運用する「フィデリティ・日本成長株・ファンド」が2023年4月1日に設定から25周年を迎えた。この間、日経平均株価は約2倍、ファンドの基準価額は約3倍に成長し、長期投資の成果を裏付けるような運用成績を残した。4月27日に、「フィデリティ・日本成長株・ファンド」設定25周年のメディア・ブリーフィングを開催し、同社の取締役副社長 運用本部長の鹿島美由紀氏(写真:左)は、「日本は『失われた30年』といわれるが、実際には『失われた20年、大きく回復した10年』といえる。過去10年間の日本株式市場は堅調な右肩上がりの相場で、米国株式に匹敵する成績になっている。これからは一段と魅力的な市場として世界の投資家に認められるだろう」と語った。また、同社ディレクター・オブ・リサーチの王子田賢史氏(写真:右)は、「日本の企業を調査していると、半導体やFA(ファクトリーオートメーション)、電子部品等の分野で成長が見込まれる魅力的な企業が少なくない」と語っていた。
ファンドが設定された1998年4月は、前年(1997年)に総会屋への利益供与で当時の第一勧銀(現みずほ銀行)や4大証券(野村・大和・日興・山一)の首脳らが逮捕され、同年11月には三洋証券が破たんし、続いて、北海道拓殖銀行、そして、4大証券の一角であった山一証券も経営破たんするなど、金融システム不安がピークに達した余韻が冷めやらぬ時代だった。実際に、1998年3月には山一破たんを巡る証券取引法(現在の金融商品取引法)違反ならびに粉飾決算の容疑で山一證券の元トップが逮捕された。そして、1998年10月には長期信用銀行が経営破たんし、12月には日本債券信用銀行も破たんする。金融市場としては非常に厳しい時代だった。
そのような厳しい中で、あえて日本株に投資するアクティブファンドを新規設定した狙いは、1998年12月にスタートした銀行による投信窓販を前に、「銀行で取り扱っていただけるように準備をした」という背景があったという。ボトムアップリサーチによって、日本の成長企業に選別投資するという「フィデリティ・日本成長株・ファンド」は、フィデリティ投信の理解を深めるためにも格好な商品といえ、銀行窓販での採用も順調に進み、2006年にはファンドの基準価額は1万9000円を超え、純資産残高は5000億円を超える巨大ファンドに成長した。窓販での採用金融機関は100社を超えるまでになった。その後、リーマンショックによる株価の急落と低迷があり、ファンドへの人気も離散するが、同ファンドは企業型確定拠出年金への採用が相次いだ。国内ファンドとしては珍しく、一旦は残高が2000億円を割るほどにまで減少したものの、そこから盛り返している。現在に至っても残高が4700億円程度を維持する大規模ファンドであり続けている。
今後の日本株式市場について展望するにあたって鹿島氏は、「日本株は儲からないと誤解されている」という。「『失われた30年』という言葉がさも真実であるかのように語られることが多いが、実際には直近10年は、日本経済も回復し、株式市場は右肩上がりだった。客観的に事実を積み上げれば、日本株式市場は魅力的な市場といえる」として、2012年11月末を100として先進国の主要な株価指数を現地通貨ベースで比較すると、日本株(TOPIX)は米国株(S&P500)にはやや劣るものの、ドイツ株(DAX)、フランス株(CAC40)、イギリス株(FTSE100)、香港株(ハンセン指数)などを大きくアウトパフォームしている事実を示した。「日本株はアメリカ株に対して見劣りし、さらに1ドル=150円台に達した円安が重なったために、大きく負けたように感じられているだけ」(鹿島氏)と強調した。
そして、主要株価指数の12カ月先予想EPS(1株当たり利益)について2011年12月を100として指数化すると、日本(TOPIX)は米国(S&P500)をも上回り、欧州(DJ Stoxx600)や全世界(MSCI AC World Index)を大幅に上回る利益成長をしていると示した。また、日本企業のガバナンスも改善し、社外取締役が全取締役の3分の1以上に達している企業の比率は、東証上場企業で88.2%に達し、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に賛同している機関数では1252と米国の473やイギリスの503などを引き離して世界トップ(2023年3月22日現在)にある事実も示した。「これらのデータを示すと、海外の機関投資家も驚く。日本に投資しない理由の1つとしてガバナンスに問題があると見られてきたのが、このところ急速に改善されているためだ」(鹿島氏)という。また、「日本は少子化で人口減少社会になっているから将来の成長が見込めず、株価にも期待が持てないから投資しないという見方もあるが、実際には、日本の人口が増え続けていた2000年から2010年まで日本の株価は下落し続け、日本の人口が減少に転じた2010年以降に日本の株価は上昇している。人口動態よりも、その時の経済・財政政策の方が株価に与えるインパクトは強い」(同)とした。
加えて、足元の経済環境として、2023年の賃上げ率は1990年代前半以来の高い伸びとなり、アベノミクス以降に数百万人の雇用が生まれたことで国民の総所得も上がっている。「日本企業の利益率は、賃金が上がった時にマージン(利幅)が上がっている。材料費が上がるだけでは商品の値上げもできないが、賃金が上がると商品の値上げも浸透しやすく、インフレの状態が維持できる。これまでは、設備投資をしようにも、1年、2年待てば材料費が安くなるなど投資額が抑えられると考えられ、設備投資の意欲も出てこなかったが、1年待てば人件費も材料費も上がるということになれば、ためらいなく必要な投資は実行に移される。日本の設備投資も一気に拡大に向かうのではないか」(鹿島氏)と見通し、これらの状況が日本株市場の押し上げ要因になるとした。「日本の投資家の方々は、日本株のパフォーマンスが悪いから海外株式に投資するという方が多いが、実査の値動きを客観的に振り返れば、過去10年の日本株の優れたパフォーマンスはわかっていただけるはず。そして、これから一段と日本株が上がれば、日本株に投資しようという方々も増えてくるはずだ」と期待していた。
最後に、王子田氏が「フィデリティ・日本成長株・ファンド」が注目している日本の成長分野について語り、長期的に使える5つの切り口を紹介。「省エネ・省資源」「自動化・省力化」「新興国の消費拡大」「ヘルスケア」「インターネット・デジタル革命」の5つを取り上げた。そして、その成長市場の中で競争力を持っている、また、持続可能な高収益体質をもっている・今後つくることができる、そして、明確な経営理念に沿って経営されていることを確認し、株価水準が割安な銘柄に投資することによって、引き続き市場平均を上回るパフォーマンスを残していきたいと語った。